第9話 ⑭——「ド派手な奥義と必殺技!」
自らの(配信者としての)実力不足を自覚したことで失意に沈んでいた私の動きは、途端に精彩を欠いていく。
本当は私もピンチを演出するべきなのか? ——という迷いはさらに動きを鈍らせ、いよいよもって私は戦い振りに変調をきたし始めていた。
——まあ、いかにメンタルが不調になろうと、この程度の敵に遅れをとることなんて万に一つもないけれど……他でもない私自身が、相手を倒してしまうべきかを迷っているなんて状況では、遅れはとらずとも動きが鈍るのは避けられない。
そんな私の不調振りは傍から見ていても明らかだったのか……心配しつつも必死さを滲ませた声で勇者さんが声をかけてきた。
「夜叉姫さん……何だか調子が悪そうだけれど、どうしたんだいっ?! まさか君も限界なのかっ!? それとも、何か気になることでもあるのかなっ??」
「その……ボク、このままここで、こうしていていいのかなって、ちょっと不安になって……」
「……そ、そうか。いやでも、今の状況では姫巫女さんに任せるのが最善だと思うから、夜叉姫さんには防衛に集中してもらった方がいいと思うのだけれど……っ」
「そうだぞ夜叉姫! お前が強いのは知ってるが、今必要なのは大規模な殲滅力だ! つまり、姫巫女サマの奥義だ! それまで耐えればオレ様たちの勝ちなんだから、お前は迷わず自分の役割を果たせ!」
「カイザー……っ、そうだね、分かったよ。ありがとう——もう、迷わない」
一流配信者の勇者さんとカイザーのお墨付きを貰えたことで、私の心から迷いが消えていく。
〈勇敢なる応援者:夜叉姫さん! お願い頑張って!! 今はあなたが頼りなんですっ!!〉
〈姫巫女様の親衛隊:奥義ともなればさすがの姫巫女様も他に手が回りません! 調子が良くないのかもしれませんが、それでもどうか! 姫巫女様をお守りして差し上げてください!!〉
〈皇帝の臣民:マジで勇者もカイザーもすでにヘロヘロだし、ここでアンタまで失速したらガチで負けちゃうって夜叉姫ぇ!! 頼むから気合いで耐えてくれぇっ!!!〉
〈流浪の探索者:たぶん無いと思うけど……いよいよヤバいと思ったんなら、使える〝手段〟は何でも使って切り抜けるんやで、夜の字〉
コメントの流れとしても、私を応援する内容のものが一気に大量に増えているので、リスナーとしてもそれを望んでいるようだ。
——〝特務〟からは事前に、ピンチになったら助けに入るって言われてるけど……私からすれば、まったくもって要らない心配だ。
だからここは、皆の期待に応えるためにも、私のするべきことは決まった。
「……安心して、みんな。ボクはまだまだやれるから! 姫巫女ちゃんの奥義の邪魔はさせないよ!」
〈勇敢なる応援者:おおっ、動きにキレが戻った! これで勝つる!!〉
〈姫巫女様の親衛隊:持ち直したようで安心しました。それにしても素晴らしい献身です! さすが、姫巫女様と同じく、姫の名がつくだけはありますね!〉
〈皇帝の忠臣:よかった……必死に戦ってるカイザーの代わりにオレからの感謝を受け取ってくれ! ありがとう夜叉姫!!〉
私がそう宣言して、実際に迷いを振り払って軽快な動きを取り戻したことで、コメント欄も安堵の声や応援の声で盛り上がっていく。
そうだ……これでいいんだ。
今はもう、「不安・心配」の段階から、「安心・期待」の段階へとすでにシフトしていってるんだ。
私はこのまま盛り上がりを維持して、姫巫女ちゃんにそのバトンを繋ぐだけでいい……
そうしたら後は、彼女が最高のフィナーレを飾ってくれるはずだ。
「……みなさん、お待たせいたしました。ついに準備完了です! 巻き込まれないよう事前に結界を展開しますので、わたくしの合図と同時に、こちらにギュッと寄り集まってください!」
「きたね……!」
「おお、ついにか!」
「いよっ、待ってましたぁ!」
「いえいえ、これもみなさんのお陰です。お礼は後でたっぷり言わせてもらいますので、まずは終わらせてしまいましょう……カウントいきます——三、二、一……今です!」
その声に合わせて、私たちは前線から飛び退いて大きく後退し、彼女の側に集まる。
『“強化防炎結界”』
それに合わせて、私たちの周りを青蘭さんの張った結界が完全に取り囲む。
「——古き盟約に従い……いざや出でませ、天つ凶将、火の化身……〝騰蛇〟」
そして、姫巫女ちゃんが祝詞のようなものを呟き……
『“式神召喚——十二天将——炎天・騰蛇”』
現れたのは、燃え盛る炎を纏った巨大な蛇のような——あるいは龍のような姿をした超強力な式神だった。
ゴオオオオォォォォォォッッッ!!!!
このだだっ広い空間が、もはや小さく見えるほどの長大なる体躯を誇る炎の大蛇——その名は〝騰蛇〟。
かの大蛇が纏う炎熱は極めて強力であり、近くにいる虫はただそれだけで焼け爛れて倒れていくほどだった。
ジャァァァァアアアアアアッッッッ!!!!
さらに騰蛇が身をくねらせれば、それだけで身に纏う炎が広範囲に舞い踊り……それによって離れた場所の虫もバタバタと倒れていき、息絶えたものから続々とその身を塵へと変えていく。
——事前に張った結界が無ければ、私たちだって無事に眺めていることはできなかっただろう。
その場に存在しているだけで、ほとんどすべての虫を倒してしまったが……しかしこれで終わりではない。
表にいる虫はすべて倒されたが、穴から出てくる虫はまだまだ追加されてくる……
なので姫巫女ちゃんは、トドメとばかりに騰蛇にその技を使わせるのだった。
「——焼き尽くしなさい」
『“獄熱大海嘯波”』
ボッッッバァァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!!
それはまさしく、灼熱の炎の海だった。
膨大な炎を吹き上げては、津波のように蹂躙し、なべてはすべてを焼き尽くす……
この大空間を丸ごと埋め尽くすような莫大な炎は、そのまま穴という穴から侵入していき、その奥にいる残りの虫どもをすべからく焼滅させていく。
「……何も、見えないね……これはまさに、一面の炎の海だ……」
「もはや、とんでもねぇとしか言えねぇぜ……んで、さすがにひたすら暑いってか熱いな……結界越しで、なおこれか」
「今しばらくの辛抱です、もう終わります」
〈勇敢なる応援者:ワァ……真っ赤だぁ……〉
〈姫巫女様の親衛隊:出ました十二天将! 炎の騰蛇!! 見よこの威力! 姫巫女様を讃えよ!〉
〈姫巫女様の親衛隊:なんと美しい……なんと力強い……なんと神々しい……これぞ姫巫女様の真骨頂ですッ!!!〉
〈姫巫女様の親衛隊[¥30000]:まさか騰蛇の召喚を生で拝めるとは……本日の配信をリアタイできて感無量です……ありがたや、ありがたや……!〉
〈姫巫女様の親衛隊[¥50000]:おお、神よ……その荒ぶる御力にて、悪しき魔物をすべて滅さんことを……〉
〈皇帝の臣民:こりゃすげぇ……やっぱり姫巫女様は、勇者やカイザーと比べても格が違うってはっきりわかんだね〉
やがて、炎の奔流が鎮まると……
もはや辺りには、何も残っていなかった。
「さて……これで終わったようですね。みなさん、お疲れ様でし——」
「あっ、まだだよ姫巫女ちゃん。ボスが残ってる」
「えっ? ……まさか、アレでも倒せていなかった、と……?」
最後の一体のボスを除いて。
ドバァァァァァァンンンッッッ!!!
大空間の中心部の地面を突き破って、最後の敵がその姿を現す。
それは、巨大な兜虫だった。
全長では騰蛇に及ばないけれど、その巨軀からくる重量感や威容は、かの大蛇にもそこまで劣るものではない。
「くっ……いきなさい騰蛇、これが最後の仕上げです!」
ジャァァァァアアアアアアッッッッ!!!!
姫巫女ちゃんの呼びかけに応えるように、さっそく騰蛇が巨大兜虫に襲いかかる。
その燃え盛る体で体当たりして、締め上げて、口から吐く炎を吹きつける。
しかし、硬く分厚い外皮と堅牢な外骨格に守られたボスカブトは、ダメージを負いながらもそれに耐える。
しかし実力差の軍配は明らかに騰蛇に上がっており、このままいけば、いずれはこのボスカブトも倒されてしまうだろうと誰もが思うところであった——が……
しかし……
「くぅっ……これ以上は……」
それより先に姫巫女ちゃんの限界がきてしまい、騰蛇の召喚は解除され、後には負傷したボスのみが残された。
「す、すみません……倒しきれませんでした……」
「い、いや、十分な成果だと思います! 残りは一体だけですし、すでに多くのダメージを受けている。あれなら後少しで倒せるはずっ、皆で力を合わせたら……!」
「そ、そうだよな! もうすでにだいぶ弱ってっしよ、一体だけだし……なんとかなんだろ! ってか、なんとかするしかねぇぞ!」
「……気をつけてください。わたくしはしばらく戦えません。それに、相手はかなりの強敵です。最後の攻撃でも、どれだけ削れたものか……。くれぐれも、油断なきよう——」
「いいやイケるよ! もうアレ死にかけだし、なんならボク一人で倒せると思うから——っ、トドメは任せて!」
そう言うなり私は、まだ高熱の残る広間の中心へと飛び出していく。
「ちょっ、夜叉姫さんっ?! 待っ、一人はさすがにっ——」
「夜叉姫っ!? いきなりなんだよっ——ってぇ速ぇなオイ!」
「夜叉姫ちゃん……!? そのボスには、まだまだ余力が——」
後ろから聞こえる声も無視して走り、私はボスカブトの前まで速攻で到達する。
——まったく空気の読めないボスだなぁ……今はもう戦闘終わってめでたしめでたしの流れだろうがってぇ……!
こっからまた疲弊したメンバーで耐久戦とか冗談じゃないので、コイツはもう今すぐに退場させる。
私の必殺技で——!
「これでお終いだよ! このくたばりぞこないの大カブトくんっ!」
言いながら大きく飛び上がりつつ、私は空中でハルバードを振りかぶり……
迎撃するように下から掬い上げてきた大カブトの巨大な角に向けて、回転しながら落ちていく……!
「〝滝夜叉車——河川割り〟……!!!」
『“剛破進撃——轟波断撃”』
ガッキィィィィィイイイイインンンッッッッッ!!!!!
回転しながら落下する私は、打ち合った角を易々と打ち砕きつつも貫いていき、そのまま地面にハルバードの斧部分を突き立てて止まる。
そして、角の先端を破壊された大カブトは——
ピシ、ピシ……ピシシシッ、ビキビキビキビキッッッ——バッカァァァァドッシィィィィンンンッッッッ!!!!
角の先端から広がったひび割れが背中を通ってお尻側まで突き抜けると、そこからバカリと真っ二つに裂けて地に沈み、そのまま塵に還っていくのだった。




