第9話 ⑬——「安全マージンを取ったら株が上がる男……その名はカイザー!」
激しく戦いながらも全然余裕がある私は、上方にまとめて浮かせてあるカメラたちへと目線を向けながら、質問に答えていく。
「あー、いくつか似たような質問が来てるから回答するね。それぞれの質問の内容は微妙に違うけれど、でもこれ結局は全部が同じ答えになるっていうか……だからまあ、全部いっぺんに答えちゃおうと思うんだけれど。
えっと、つまりね……まずカイザーについてだけど、彼のチームが一時的に抜けても、作戦が第二段階に移行したら大丈夫になるから、大丈夫だよ。
じゃあこの第二段階ってのは何なのかっていうと、要はこれ、フォーメーションの変更のことなんだよね。
というかまず、第一段階があって、それがまあ、今までの四チームで四方向をそれぞれが担当するっていう今のスタイルのことなんだけれど……第二段階は、ここから一つチームが抜けて、三つのチームだけでフォーメーションを組むパターンのことなんだよね。
抜けたチームはその間、安全な中心部で補給や回復に努めて、場合によっては戦闘中のチームと入れ替わっていくっていうところまでが第二段階ね。
これの利点は言うまでも無いよね。休憩や補給をしながらローテーションを回せるから、より余裕を持って戦えるようになるってことだよ。
もちろん、四チームで対応していた状況で一つ抜けると、その分だけ残りの三つが大変になるわけだけれど……その問題点を最小限に抑えてカバーするために、この作戦にはもう一つ重要な点があって……それが『この大部屋の中での位置取り』なんだよね。
抜けたチームの穴——四角形の一つ空いた頂点を埋めるために、この空間の角っこに陣取るために移動する……今やってるのはそれだね。
部屋の角に立って、壁を背にして戦うことで、実質的に一つのチームが抜けた穴を補完できるから、問題無いってワケ。
ということで……説明終わり。分かったかな?」
〈ニートの無職ん:分かった、分かったから……ずっとこっち見んなwww〉
〈浮世の社畜ん:出たっ、ひいさまの十八番! めっちゃよそ見やお喋りしながらも普通に戦うの術〜!ww〉
〈キチガイバーサーカー:な゛ん゛で゛こ゛っ゛ち゛見゛な゛が゛ら゛長゛ゼ゛リ゛フ゛で゛説゛明゛し゛つ゛つ゛普゛通゛に゛戦゛え゛る゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛!゛!゛〉
〈ツッコミ番長:こればっかりはキチ◯イやみんなの言う通りで草w いやそんなずっとこっちガン見する必要ある?笑〉
「……」
めっちゃボロクソ言うやん……
私はただ、自分のリスナーだけじゃなくて、他チームのチャンネルのリスナーにも分かりやすいようにと、カメラが集まってる上の方を見ながら説明してただけなのに……
〈ヒャッハーモヒカン:オウ、自分のチャンネルだけじゃなく、別チャンネルのカメラも意識してカメラ目線をチラチラ切り替えてんの、細かい気配り出来てて偉いじゃねぇか〉
〈MS管理人R:マ?! いやそんなことしてたんかいw どう考えてもこの激しい戦闘の最中にする気配りじゃなくて草ァ!〉
おっ、分かる人は分かってくれてる——一部だけでも気がついてくれる人がいるの、嬉しいね……
〈勇敢なる応援者:戦いながらめっちゃよそ見してこっち見てくるの、めっちゃ怖いんだけど……ww でも分かりました! なるほど、作戦ってそーゆう感じだったんですね! それなら確かに、大丈夫……なのかな? いやでも、御剣くんたちも、すでにかなりキツそうなんだよな……いやこれ本当に大丈夫かなぁ??!〉
〈勇敢なる応援者:すでにだいぶ被弾多くなってるっぽいし、これって隅の方に移動すること自体ムズいんじゃないの!? だってこの数ですよ!? マジでいつになったら終わるんですかコレっ!?? 虫嫌いだしもう見るの辛いくらい怖いのに心配で目が離せないぃぃぃ!!〉
〈姫巫女様の親衛隊:てかこの戦いって、明らかに姫巫女様の負担が多すぎないですか!? そもそも頭上の障壁が無かったら、普通にここまで耐えられてすらいないですよね!? その上さらにカイザーの抜けた穴まで埋めろって……いくらなんでも厳しくないですか!?〉
〈姫巫女様の親衛隊:作戦の概要は理解しましたが……それで本当に上手くいくんでしょうか? いえ、姫巫女様ならこれしきの窮地など問題無いと信じておりますが……しかし、どこぞのお荷物皇帝さんが足を引っ張るのを見ていると……ああ、やっぱり不安です!〉
〈皇帝の忠臣:いやこれはカイザーのせいじゃねぇだろっ!? こうなったらマジで、そもそもモンスターハウスに突っ込ませたこと自体がまずもってオカシイんじゃねぇのぉぉぉ?!!〉
〈皇帝の諫臣[¥5000]:いつもは自信満々でオラついてるカイザーが、追い詰められて情けなく助けを乞うのを観てメシが美味い……って、普段なら言うところなんだけれど、勇者や姫巫女様とか他まで巻き込んでこのまま没ったらガチでゼンゼン笑えねぇぞカイザーァァァァ!? やっぱお前のそんな姿は似合わねぇ!! んなカンタンに諦めてんじゃねーぞオイィィィッッ!!!〉
何だろうコレ、すっごい……
感じる……伝わってくる……
コメントを通して、画面の前のリスナーたちの——注目が、興奮が、熱狂が……!
この配信始まって以来の、一番の盛り上がりが……今ここにある——!
——まあなんか、ウチの〝観測者〟だけ、他と違う盛り上がり方してる気がするんだけど……それはともかく。
コメントを読んでいけば、その理由も自ずと理解できる。
キーワードは——「不安」「心配」「窮地」「追い詰められる」……すなわち、〝ピンチ〟!
今、ようやく理解できた……カイザーが、まだ余裕があるのにあえて限界を装っている、その理由が。
それこそはまさに、今のこの大盛況を呼び込むための演出だったのだ……!
そういう……ことだったのか。いやはや、やられたね。
つまりは……「夜叉姫流・新・魅せプレイの法則・その六!」——「ピンチを演出することで、配信は大いに盛り上がる……!」ってことだ!
カイザー……最初はどうなんって思ってたけれど、なかなかどうして侮れない男じゃねーの。
少なくとも、配信者としての実力は、私よりもずっと上であることは間違いない。
この盛り上がりを作っているのは、他でもない、そのカイザーなのだから。
最初は眼中にも無かったのに、気づけば感心させられていた相手に、私も思わず視線を向けてしまい——
そんな私に気がついたのか、当のオレ様皇帝様が私に声をかけてくる。
「……おい夜叉姫、悪いがそのままこっちの分まで頼むぜ。いよいよともなればオレ様も残りの気力を振り絞るつもりだが、それは最後の最後まで取っておかなきゃならねぇし——そろそろ本気で厳しくなってきやがったからな……ってオイ、聞いてんのか?」
「ふふっ、任せてよ。皇帝様が盛り上げてくれた分は、ボクもささやかながら手助けさせてもらうからさ」
「? お、おう。……なんか知らんが、無理はするなよ」
盛り上げ上手に加えて、気遣いまで出来るってかぁ? 有能な皇帝様だなぁ、オイ……!
なんだか気分が乗ってきた私は、溢れんばかりに寄ってくる虫を調子良くガンガン削っていく。
カイザーの方はもちろん、なんなら勇者チームの方の分担までちょっと侵食しちゃって余計に倒しちゃったかもしれないけれど……
「さすがだね、夜叉姫さん! 悪いけど、その調子でオレたちの方も手助けしてくれると助かる!」
「んーオッケ〜、任しといて〜!」
機嫌の良い私は、そんなお願いも二つ返事で了承する。
それに、私だけでなく、私の反対側を担当している姫巫女ちゃんも、両隣の勇者・カイザー方面にまで範囲を広げて戦っているので、二つのチームの負担はかなり軽くなっているはずだ。
——いやぁ、本来は六人組チームである勇者・カイザーの方が、ソロである私や姫巫女ちゃんを助けるのが普通なんだろうけれど……完全に逆になってるよ。
まあ、実力的にはそうなって当然なので、私からすればこの結果は特に不思議でも何でもないんだけれど。
そんな感じに規格外のソロ二人が奮闘したこともあり、私たちは無事に部屋の角までやってきて第二段階の三チーム体制へと無事に移行することができた。
と、思って、皆がホッとした矢先に……
「はぁ、はあ……す、すまないみんな、思った以上に消耗が激しい! このままだと、オレたちもすぐに限界がくるかもしれない……!」
勇者さんが申し訳なさそうにそう切り出したことで、この場には再び緊張が走る。
「マジかよッ……?! だがオレ様たちもまだ全然回復できてねぇし、すぐには復帰できねぇぞ……!?」
「だよな……くっ、いよいよ追い詰められてしまったな……!」
オイオイオイオイ……
これは……っ、いや、もしや、これも……!?
〈勇敢なる応援者:えっ、えっ?! ま、まさか、そんな……嘘でしょ!?〉
〈姫巫女様の親衛隊:ちょっとちょっと、フルパーティーが揃いも揃って情けないとは思わないのですか!? ソロの二人だけが残っても、さすがにこの数が相手では……それこそ、姫巫女様と言えども……っ〉
〈皇帝の忠臣[¥10000]:カイザー様ぁ……どうか立ち上がってくださいぃ……最後まで諦めないでぇ……!〉
いやいや、やっぱりそうでしょ、またまたコメントが盛り上がってきてるよっ……
加速していくコメント欄に合わせて、私の興奮も加速していき——
そんな熱狂に応えるように、姫巫女ちゃんが口を開いた。
「……致し方ありません。このままでは、もはやジリ貧です……」
「すまない、姫巫女さん……」
「クソっ、不甲斐ねぇ……」
「……ですので——これよりわたくしが〝奥義〟を使います! それで必ず、すべてを終わらせてみせます……! なので皆さん、ここで最後のひと踏ん張りを……どうかお願いします!」
「っ、承った! 後はあなたにすべてを託します! 姫巫女さん……!!」
「ああ! 任せてくれ! 最後の気力を振り絞ってアンタを必ず守護る! だからどうか……決めてくれ!!」
「……はい! それでは——夜叉姫ちゃんも、それでよろしいですか?」
「あ——う、うん! ボクに出来ることなら何でもするから! 姫巫女ちゃんには指一本触れさせないよ!」
「ふふっ、ありがとうございます。それでは——術が完成するまで、どうかよろしくお願いしますね」
マジかよぉ……ホントにぃ……
やるなぁこの人たちっ……!
完全にリスナーのことを手のひらの上で転がしちゃってんよぉ〜……!
つーかもう連携プレーがスゲェよぉ……
まずカイザーが口火を切って、次に勇者が畳み掛けて……そうしてみんなを心配させるだけ心配させておいて、最後に姫巫女ちゃんがドーンと一発逆転して盛り上げるって寸法かぁ……!!
それをろくに打ち合わせも無しに——なんせ直前の話し合いには私も参加していたのだから、そんな事前確認が無かったことは百も承知なのである——現場のコンディションに合わせて即興でやって見せるんだから……プロはやっぱスゲェわ。
私なんか、全然理解してなくて完全に乗り遅れてたもんね……せっかくみんながいい感じの流れを作ってくれてたのに、私一人フツーに可もなく不可もなくって感じで……
——こうなりゃ私も、それなりのところで適当にダメージでも受けたフリして弱った感でも演出しときゃ良かったか……。
とはいえ、みんなはそんな私にも見せ場を作ってくれてるんだから、ここは切り替えて私の役目を果たすとしよう。
カイザーと入れ替わりに姫巫女ちゃんが奥義の〝溜め〟に入ったので……その間は私たち三チームが彼女を守るのが役目だ。
とはいえ、勇者とカイザーのチームは、このピンチを演出するために限界であるフリをしてしまったので、もはや全力で活躍することは出来なくなっている。
なのでここでは私が一番に活躍する場面なんだろうけれど……
ど、どうなんかな……それでちゃんと合ってるんだよね?
部屋の角で壁に沿った左右に勇者とカイザーのチームが展開し、中心の開けた場所に私が陣取り、後ろの姫巫女ちゃんを守るように戦いながらも……私は迷っていた。
対する敵の数が多く、もっとも激しい戦いをこなす必要がある中心部を、私がしっかり対応しているからこそ……すでに限界を超えて戦っている——ように演出している——勇者とカイザーと合わせても、なんとか戦線を維持できているけれども……
どうなんかね……あるいはここで、さらに視聴者に追い討ちをかけるために、私も限界っぽいフリした方がいいのかね……?
それともここは普通に持ち堪えて、姫巫女ちゃんの活躍に繋げるのが正解なんだろうか……?
んーーーっ……どっちの方がより盛り上がるんだぁっ……!?
わ、分からーーん……!
足りない……圧倒的に、経験値が……配信者としての……!
戦いの方は全然まったく問題なかったけれど……そんな順調な戦況とは裏腹に、私はこの時、自分の(配信者としての)実力不足や不甲斐なさによって、打ちのめされそうなくらいに大きなショックを受けてしまっていたのだった……。




