第9話 ⑫——「突撃! モンスターハウス!」
大量にゾロゾロと湧き出してきたのは、どれも虫系のモンスターだった。
その種類は様々だ。地を這うものもいれば、翅の生えた空を飛ぶものもおり、頑丈な外骨格に覆われたものや、はたまた毒針や角、鋏や鎌を搭載したものまで……
それでも共通しているのは、そのどれもが通常の虫とは比べ物にならないくらいに巨大な体躯をしているというところか。
小さなものでも成人男性と同サイズだし、デカいやつはそれこそ、乗用車や大型トラックに匹敵する巨躯を持つものもいる。
そんな巨大怪虫どもが、この大部屋の中心部に落ちてきた私たちを取り囲むように、四方八方——さらには空中からも——一気に襲いかかってくる。
「っ、やるぞみんな! オレたちはこっちに当たるから、カイザーは反対を頼む!」
「とんでもねぇ数だなこりゃあ……! 了解だぁ!」
ここでの戦い方については、事前に取り決めてある。
まあ……ちょうど四チームあるので、それぞれが四方に当たるようにするのが良いだろうって感じの、もはや作戦とも言えないレベルのゆるい取り決めだけれどね。
〈ニートの無職ん:いや絵面がヤバ過ぎて草 こんなところに連れ込んでる時点で、もはや完全に誰かさんが戦犯なんだが……あのさ、これ、ちゃんと無事に乗り越えられるんだよな?笑 ……いや笑じゃないんよ(真顔)〉
〈勇敢なる応援者[¥10000]:マッッッジでモンスターハウスだぁぁぁぁぁ!?! ヤバすぎるっっとにかく頑張ってぇぇぇぇぇ!!!!〉
〈姫巫女様の親衛隊[¥15200]:あわわわ姫巫女様、どどどどうかご武運を!!!〉
〈皇帝の忠臣[¥5000]:ウッソだろオイィィィィ!? これは本気でヤベェだろぉぉぉぉ!! カイザーァァァァ!!! ゼッテェ死ぬなよォォォォォォ!!!!〉
「出し惜しみしてる場合じゃないね……さっそくコレを使わせてもらうよ!」
『“魔物召喚——牛頭鬼”』
——ブモォォォォッッッ!!
「上方の防御は任せてください! この障壁は上からの攻撃のみを防ぎますので、反対側の下からは攻撃できます!」
『“特大半球魔鏡障壁”』
ピカァ——シュイィィィンッ!!
「あっははァ! とんでもない数だねぇ! コイツはぶっ飛ばしがいがあらァな! おいカイザー、コイツぁアタシの能力の使いドコロだろぉ!?」
「分かってる! 派手にカマすぞ! チカラ貸せぇ!」
「そうこなくっちゃあ!」
『“配下献能——爆弾生成——粉砕地雷”』
ポンポンポンポン——ポイポイポイポイ——ドンドンドンドンッッッッ!!!!
一斉に戦い始める面々。
負けじと私も、ハルバードを呼び出して大立ち回りを演じていく。
ふんっ、そいっ、あらよっ!
ブンブンブン——ドスッグシャズバァッッ!!
一振りで最低一体+αを貫通・粉砕・切断していくハルバード。
目の前に迫る大量の虫モンスを、次々に屠っていく。
特に何らかの能力は使わず、まずは純粋な物理攻撃のみでの応戦に終始する。
ここでの戦いをどう演出していくか……事前に色々と考えていたけれど、まだ結論は出ていないというか、ひとまずは様子見でいくつもりだ。
——まあそもそも、他のメンバーがどれくらい戦えるのかも未知数だから、ぶっちゃけ事前に計画を立てようが無かったという部分もある。
なので私は、自分の担当方面からくる虫どもはキッチリと排除しつつも、肉眼もしくは配信画面で他のメンバーの動きを観察して、盤面の推移を見極める。
まず始めに目につくのは……勇者チームの召喚師が呼び出したミノだ。
なんせコイツ、武器も大斧だし、基本的に近接戦闘メインだし……ぶっちゃけ私と被ってるんよ。
「ブモッ! ブモォッッ!!」
とはいえ、大群相手に奮闘しているミノに文句を言ってもしょうがないので……変わるべきは私か。
しかし、どうしよう……どう戦闘スタイルを変化させるべき?
まあ、これだけ敵の数が多いんだから、範囲攻撃とかが映えるんだろうけれど……
でもねぇ……今の私って、いい感じの範囲攻撃が無いんだよなぁ。
——いやまあ、やろうと思えばいくらでもあるんだけれど……魔法とか使えば。
今回のコンセプト的には魔法は無しでいこうと思ってるから、現状の装備とかの手札でやるとすると……無いんよね、範囲攻撃が。
そう……「夜叉姫流・新・魅せプレイの法則・その四」——「その階層に合わせた装備・能力のみで戦うべし」である(ぶっちゃけ通し番号は適当)。
瞬殺を防ぎ、いい感じの接戦を演じるためには、そういう気配りが大事なのだ。
とはいえ、このまま近接オンリーでチマチマ削っていったところで……地味なんだよなぁ、絵面が。
かといって、適当に魔法なんか解禁しちゃっても、それはそれで唐突感があるというか……
てかそもそも、魔法だとモロに姫巫女ちゃんと被っちゃうんだよねぇ……。
『“燃え盛る炎の壁”』
そうそう、魔法ならあんな風に、攻防一体の炎の壁とか作れるから、派手だし見映えもいいんよね〜。
派手と言えば……爆発も派手だよね。
いやさ、カイザーのチームの方で、めっちゃ爆発しまくってんだよね、さっきからずっと……
派手っちゃ派手だけど、うるっさいな、コレ。
爆発といえば私も槌の能力で爆破できるけど、これも被るから却下だなー。てかアレって指向性あるから範囲攻撃って程でも無いし、むしろ普通に薙ぎ払ったりした方が範囲攻撃になるくらいなまである。
まだ披露してないハルバードの技としては、斧部分と槍部分の技があるけれど……
——ちなみに、〝夜叉車〟に使う【剛破進撃】は部位に寄らないハルバード全体の技なので、それとも別。
どっちも範囲攻撃じゃないし、そもそもあんまり派手じゃないんだよねぇ〜。
……仕方ない。こうなったら、いよいよとなれば——横回転の夜叉車である——〝傾き夜叉車〟を披露して、無理やり広範囲をぶっ飛ばすとしよう。
それまでは……このまま様子見でいくかな。
そもそもこれは、みんなで協力する集団戦なのだから、私一人だけ目立てばいいという話でもないのだ。
それはそのまま、このコラボ配信そのものについても言える。
せっかくみんなで一緒にやるんだから、みんなそれぞれに見せ場があった方が盛り上がるはず。
であれば……集団戦で目立てそうな技を持たない私は今回地味に貢献しておいて、他のメンバーに見せ場を譲ることもまた、魅せプレイ配信道としての一つの答えであると言えるのではないか……?
すなわち……「夜叉姫流・新・魅せプレイの法則・その五」——「コラボ配信とは、自分だけでなくコラボ相手も含めた全体での魅せプレイを心得よ」である。
これこそが、真の協力プレイってやつなんだ……きっと。
凄いぞ私、ソロぼっち探索を卒業したその日に、もうこんな真理を発見してしまうだなんて……!
ダンジョン探索にかけては、私の右に出るものはいない……その自負に偽りなし。
生まれて初めてのコラボ合同探索配信も何のその、やはりダンジョンにおいて私に不可能なんてなかった。
——恐ろしいね……自分の才能ってヤツが。
とはいえまだまだ満足せんよ、私は。
もっともっと、さらに上へ——魅せプレイ配信道に終わりは無いのだ。
向上心無くして成長無し。
こうなったらむしろ、今からもう次の見せ場での演出についてでも考えておこうかな——
「うおおぉぉいつまで出てくんだこのクソ虫どもはぁ!? いつになったら終わんだよォォッ?!」
「確かにこれはっ、倒しても倒しても……終わりが見えないなッ! カイザー、大丈夫か?! このままのペースで持ち堪えられるか!?」
「そういうお前はどーなんだよッ!? ギブアップなら、早めに言ってくれねぇと困るぜ! なんせオレ様は——そろそろ敵が尽きてくれねぇと困るくれぇには限界が近いからな!」
「……夜叉姫さん! そういうことだから、至急作戦を第二段階に移行させてくれ! 姫巫女さんも頼む!」
「分かりました! カイザーさんの方面への援護を強化しつつ、移動を開始します!」
「あ、うん、ボクも了解したよ」
え、マジ? もう限界だったん?
——確かに、魔力とか結構減ってるけど……でも、まだまだ余裕あるよね? もしかして、これも何かの演出の一種……?
てか第二段階? ——って、作戦決めてた時に、念のために付け加えたアレ? まさか、本当に使うつもりがあったとは……
とはいえ取り決め通りに、私は気持ちカイザーの担当方面の虫まで多めに倒すようにしていく。
——私がでしゃばり過ぎても相手の活躍を奪うことになるからって思って、これまではきっちり四等分の一つ分だけ倒すようにしていたのだけれど……ここからはカイザーの方へその範囲を広げる。
なんならカイザーは爆弾で遠めの敵を倒すのがメインだから、近くに来たヤツは全部私が倒してしまってもいいのだけれど。
「それで夜叉姫さん、君の見立てでは、この大群はあとどれくらいで駆逐できそうかな!? 現時点で、どこまで進んだと思う?!」
「んー、そうだね……まぁ、ようやく全体の半分くらい倒せたかな——ってところじゃない?」
「……だそうだぞカイザー!」
「……はっ! やっぱり早めにギブ宣言して正解だったぜ!」
〈勇敢なる応援者:作戦の第二段階って何なの?! それに移行したら本当に無事にコイツら倒せるの!? いやそんなスゴい作戦とかある??!〉
〈姫巫女様の親衛隊[¥10000]:さすが姫巫女様! 不甲斐ないカイザーの分まで奮闘なさる姿には脱帽です! しかしこの状況にはさすがに不安を拭えません……どうか、どうかご無事で!!〉
〈皇帝の忠臣:大丈夫かよカイザー!? この数は確かにヤベェけど、ここで諦めたらマジで死ぬぞオイッッ!!〉
〈皇帝の諫臣:ちょっと本気で心配なんだけど……だって四チームで手分けして、それでようやくなんとかなってるのに、その一角であるカイザーが抜けたらヤバいんじゃないのマジで?! いやこれで負けたらガチでお前が戦犯になっちまうぞカイザーァァァァ!!?〉
〈皇帝の臣民:てかこれカイザー抜けたらマジで戦線崩壊せん? 大丈夫そ? 見てる感じ、姫巫女様や夜叉姫さんはまだ余裕ありそうだけれど……姫巫女様はともかく、夜叉姫さんって範囲攻撃無さそうだし……いくら強くても、この数相手にこっちの手数が減ったら、そのまま飲み込まれんじゃ……〉
〈(・・?):ねぇ、第二段階ってなに? てか第一段階もなに?〉
〈探索兵長:なんだかハラハラさせられる展開になってきましたね……! しかし姫、作戦の第二段階とは一体なんのことなんでしょうか? というか、第二ということは、すでに第一段階があったんですよね? え、いつの間に……?〉
混戦極まる戦いの中でも——自分のチャンネル以外も含めて——漏れなくコメントを確認している私は、ここに来て一気に増えてきたコメントに配信の盛り上がりを感じつつ、いくつか疑問の声が上がっているのに気がついた。
なので私は、チラッと戦っている他の面々を確認してみて……どうやらみんな、戦いに集中していてコメントに返事をする余裕は無さそうだと結論付ける。
であれば、ここは私の出番かな。
一番地味な活躍しかしていない私がやるのが適任だろう……
——戦いながら喋るのは得意だからね……!
やるとしますか、解説役——!




