第9話 ⑪——「急転直下の急展開!」
話し合いが終わったところで、私はカメラを呼び寄せると、マイクをオンにして話しかける。
「はい——えー……お待たせしちゃったね。話し合いは終わったよ。今からマイクもオンにして探索を再開するから、よろしくね」
〈アンチ二号:まったく、そもそも探索配信中にサイレントで話し合いし始めるとか前代未聞でしょ、ホント長々と何を観せられているのよ——って、ようやく戻ってきたわね〉
〈ニートの無職ん:おい嘘だろ、このコミュ障に上手い言い訳なんて絶対無理だと思ったのに、ちゃんと話がついただと?! 一体どんな手品を使ったんだ??〉
〈アンチ太郎:話の途中で何か渡してたのは賄賂か? コソコソやっても見逃してないからな。それも含めてちゃんと説明しろよ〉
「やー、だからー……アレだよ、ボクは嘘なんて言ってなかったけど、ちょ、ちょっとした行き違いがあって、なんかアレしただけだから。も、もうその誤解は解けたし……とはいえ、みんなには迷惑をかけたお詫びとして、さっきまでのドロップアイテムを渡すことで決着がついたから……もうこの話は終わりね!」
〈ニートの無職ん:この説明能力で「話がついた」はさすがに無理があるだろw〉
〈探索兵長:そういえば、最初のカマイタチもですが、さっきの牛頭も二体とも何か落としてましたよね。相変わらずドロップ運がいいですね、姫〉
「うんそうそう、武器の斧と素材の角がドロップしたよ。それで、これまでの分だけじゃなくて、これからボクが倒していく分も、ドロップは全部他のみんなにあげることにしたんだよね」
いまさらこの辺りの階層のドロップとか私は要らないけど、他の三チームにとっては普通に欲しいそうなので……私のドロップは、他のみんなに全部あげることにした。
まあ、お詫びとか諸々を兼ねてね……。
「勇者チームには魔石、姫巫女ちゃんには素材、カイザーたちには武器を、それぞれ譲ることになってるから。これまでに出た分も、すでに渡してあるよ」
召喚師がいる勇者チームは魔石が戦力に直結するし、術の触媒になるから姫巫女ちゃんは素材が一番貰って嬉しいらしいので、そういう分配になった。カイザーへの武器は、余ったからオマケした。
要らないドロップを渡して、それでより〝面白い〟配信になるなら、私としてもじゃんじゃんプレゼントしちゃうってもんよ。
なんて感じに、自分のリスナーと話していたら……他のチームも、さっきの話し合いについて上手いこと自分たちのリスナーに説明を終えたようだった。
というわけで——
「さて……話し合いの結果、ここからはボクが先導して案内していくことになったから、ガンガン行くよ〜! それじゃ、レッツゴー!」
なんて適当なことを言いつつ、私は先頭に立って、みんなを引き連れてダンジョンを進んでいく。
突発的に発生した話し合いのせいで思ったより時間を食ったので、ここからは巻きでいくためにも私が先頭で進む。
余計な戦闘は避けたいけれど、そのためにわざわざ回り道をする気は無いので、私はこっそりと威圧を放ってあらかじめ順路上のモンスターを遠ざけておく。
それもあるし、あとはこの先のちょっと特殊なルートを進む際にも、私が先に立った方が色々と都合がいいという理由もあり、そういうことになった。
——実際、私からこの先のルートについてを聞いた三チームの面々は、露骨に難色を示していた……のだけれど。
それを説得するために、私が出したカードが、つまりは「すべてのドロップの譲渡」や「露払いしつつ先導」とかを私がすることだった——という裏話もあったりする。
「お——ここだね。ここから下の階層に行くよ」
そのままモンスターには一度も出会わずに、さっさと最初の目的地にたどり着いた私たち。
〈探索兵長:ここから——って、何もないただの通路みたいですけど……??〉
「ふふ、そうだね……一見したら何も無い通路にしか見えないよね。でもここには、ちょっとした仕掛けがあるんだよね」
私がそう楽しげに紹介しようとしている、その裏で——
「本当に、行くんだね……?」
「さすがにドキドキしますね……」
「いまさらだが、早まったかもしれねぇ……」
と、戦々恐々としている三チームの姿があった。
〈勇敢なる応援者:え、なになに、どういう反応?! いったい何が始まんの!?〉
〈姫巫女様の親衛隊:緊張なさっている姫巫女様というレアショットに、観ているこちらもドキドキですぅ……!〉
〈皇帝の臣民:こんな悲壮感ただよう表情のカイザーとか初めて観るかもww これだけでもうすでに超期待感アガるだろっ!〉
本当は事前の説明無しに——偶然に引っかかった感で——行こうと思ってたんだけれど……その方が盛り上がりそうだし。
ただ、そう提案したところ、さすがにそれはやめた方がいいってマジトーンでみんなに言われたので、普通に事前に説明してから行くことになった。
「ちょっと特殊なルートだから、観てるみんなにも事前に説明しておくよ」
他のチームのカメラも集めた前で、私は不本意ながらネタバレをかます。
「実はこの先には落とし穴の罠があって、それに引っかかることで下の階層に行けるんだよね。正規の階段よりもこっちを使った方が早いから、今回はこれにワザと引っかかっていくよ」
〈ニートの無職ん:は? コイツ今なんつった???〉
〈流浪の探索者:え、待って待ってちょっと待ってそんなルート通るとか……本気か夜の字!?〉
〈探索兵長:えっ、と……ちなみに、その落とし穴って、どれくらいの落差があるんでしょう? 下に降りても無事なんですか?〉
「あぁ、落差かぁ……えっとね、たぶん百メートルくらいかな? そんなに高くないからすぐに下に着くし、ぜんぜん大丈夫だよ。まあでも、落ちた先は——実はモンスターハウスになってるから、そっからすぐに戦闘になるんだけどね」
モンスターハウスのことは黙ってちゃダメ? とも聞いたけど、これもダメって言われたんだよねぇ……
——あ、ついてこなきゃいけない〝特務〟の本音がちょっと漏れてそうなコメントが来てる……笑
まあだから、あとは実際の映像のインパクトに期待ってところか。
〈ニートの無職ん:夜なんとか姫さん「ぜんぜん高くないから大丈夫」(ちな百メートルあるもよう)〉
〈ツッコミ番長:いや百メートルて……聞き間違いか?ww〉
〈MS管理人R:サラッと言ってるからウッカリ聞き逃しそうになったけど、モンスターハウスってヤバいんとちゃうん……??w〉
「それじゃあ、姫巫女ちゃん、行こうか」
「え、ええ……覚悟は出来てます。行きましょう」
私は必要ないけど——着地用の障壁を用意してくれるというので、私と姫巫女ちゃん(と式神たち)が先に落ちる手筈になっている。
そして私たち二人が、通路のその部分まで踏み込んだところで——
ガコン——ッ!
という音と共に、足元の石床がバカリと開き、落とし穴へと真っ逆さまに落ちていく。
「ええい、ままよっ!! ——行くぞみんな! 二人に続けっ!」
「おおおおおぉぉっ! 南無三っっ!!」
それに続いて、勇者チームとカイザーチームも穴に飛び込んでくる。
ビュオオオォォォッッ……
〈もっこり助兵衛:ローアルグル無いの!? ちょっとドローンちゃん落ちるの遅いよ!?〉
〈勇敢なる応援者:いやマジで落とし穴じゃんんんん!?!〉
〈姫巫女様の親衛隊:えっ、ウソ、そんな、どうしてっ……姫巫女様、なぜ夜叉姫サンと手をお繋ぎになっているのです?????〉
〈皇帝の忠臣:いまだかつてこんな映像見たことねぇぞカイザーァァァァァァァァ!!! これはバッチリ広めてやらねぇとなぁぁぁぁぁぁ!!?〉
風の音と浮遊感に包まれながら、落下すること、しばらくして……
——あら、思ったよりちょっと長かったカモ……?
私と姫巫女ちゃんは、先に地面に到達する。
『“柔面弾性障壁”』
それに合わせて、青蘭さんが障壁を展開してくれたので……
ボヨヨンッ——!
と、落下の勢いを相殺して、上手いこと着地することに成功した。
「いやこれっ、百よりダンゼン長いよねぇぇぇっ!?」
「やっぱり嘘つきじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁこのヤロォぉぉぉぉおん!?」
ボヨボヨヨンッ——!
続いて、何やら叫びながら落ちてきた残り二チームも無事に合流だ。
「はあっ、はぁっ……みんな無事か……?」
「ふうっ、ふぅっ……生きた心地しなかったぜ……」
土が剥き出しの地面に手をついてへたり込む彼らを尻目に、私はぐるりと周囲を見渡す。
さっきまでの石床とは違い、ここは全面すべてが土で囲まれた天然の洞窟然とした場所になっている。
中々の広さがあり——大きめの体育館くらいは余裕であるだろうか——至る所にボコボコと穴が空いているのが特徴的な大空間だ。
そうして見渡している間にも、すぐに異変が現れる。
地面に限らず、壁や天井も含めたあらゆる場所に空いている穴という穴から、続々とモンスターたちが出てきたのだ。
これこそが、ここがモンスターハウスと言われる所以。
大量のモンスターが一気に湧き出て一斉に襲ってくるエリア——それこそがモンスターハウスなのである。
さあ……集団戦の始まりだ!




