第9話 ⑩——「オフレコの打ち合わせ」
重なり合うように倒れていたミノ二体を、決め技にて仕留めた私。
その技こそは、落下式縦回転斬り——その名も〝滝夜叉車〟だ。
真っ二つになったミノは、今はもう塵となって消えており、残ったのは魔石とドロップアイテムだけだった。
——ミノを倒してすぐに、その時の映像を自分でも確認してみたら……
石の床を大きく削るくらいに勢いよく、まるで回転ノコギリによるギロチン処刑とでもいうような……こう——ブンっ、ズバズバっ、ギャリギャリギャリっっ!! みたいな感じで、なかなかイイ感じだった。
——こっそり練習しておいた甲斐があったね。
どうよどうよ、これなら〝観測者〟たちも盛り上がってるんじゃないのー?
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:いよっ、お見事〜!〉
〈ねっこ寝子:すっごい! さすがやっしゃん!〉
〈やがて灰になる:あの勇者さんでも苦戦してた敵を、一撃で……本当に夜さんって凄かったんだね!〉
〈浮世の社畜ん:またまた香ばしい詠唱きましたよ、ご馳走様です……笑〉
〈もっこり助兵衛:なるほど! 上から落ちるから滝なのね! いいよいいよやっきゅん! やっきゅんのセンスが爆発してるよ!〉
〈†漆黒の堕天使†:意味深な詠唱からの、無慈悲なる処刑……今宵も痺れたぜ、†深淵の†〉
〈†殺戮の使徒†:あぁこれこれぇ! やっぱ夜徒っちの配信はこうでないと! モンスターを重ねて真っ二つ! んぅ〜気持ちいィ〜ひィィァ〜!〉
「おお、みんな! 楽しんでくれてるみたいだね? ああ良かった良かった」
〈ニートの無職ん:気のせいか? 魔眼を使ったわけでもないのに、最後の攻撃の前に謎の詠唱が聞こえた気がするんだが……点数で言うと2点くらいの〉
「だからそれは何点満点なんだよって……えー、詠唱の方に食いつくの? いやアレも、盛り上げようと思ってせっかく考えたってのに——何がダメだって言うんだよ〜」
〈アンチ太郎:だからお前は……はぁ、バカみたいな詠唱とか考える前に、もっと基本的な部分をどうにかするのが先だろうが。何のことか分かるか? いや分かってないよな。ちゃんと分かってるなら……必要のない詠唱の前に、自分の使ってる能力について、ちゃんと事前に説明してるだろうからな〉
「え、能力の説明? って……してなかったっけ?」
〈アンチ二号:言わせてもらうけどね、マジで何やってんのか見てるだけじゃこっちは分かんないから。特に、宙に浮いてたところとか……今まではアンタが意味不明な動きしててもスルーしてたけど、それは偽物だと思っていたからで……いやてか、なんで本物のハズなのにあんな動きしてんのよ、キッショいんだけど!〉
「……えーっと、だからあれはー、んー……どっから説明したものかな……」
なるほど……私の使う能力については、事前に説明しておかないと観てる方としては分からない、と。
——言われてみれば、それは確かにそうだ。
秘密主義だからといって、何でもかんでも秘密にするのはやり過ぎってコトかぁ……
だとすると……うん、今後は装備の能力くらいはちゃんと紹介しておくようにするかぁ。
オーケー……「夜叉姫流・新・魅せプレイの法則・その三」——「使う能力については、ある程度はちゃんと(事前に)説明しておくこと」ってことね。
これでまた一歩、さらなる魅せプレイに近づいた……と感慨深くなっている私の元へ、三チームが合流してきた。
「いやぁ……すごかったね、夜叉姫さん。まさか一人でアレを二体まとめて倒してしまうなんて。疑っていたワケじゃないけれど、正直言って驚かされたよ」
「……アンタの実力が本物だってことは理解したぜ、夜叉姫。だが——いや、だからこそ解せねぇな。これほどの強さを持ってんなら、あんなしょーもないウソなんてつく必要なんて無いハズだろ? 結局アレは、どーゆうコトだったんだよ?」
「そ、それは……」
「……もしかして——夜叉姫ちゃん、その話は、視聴者さんの前ではしにくい内容だったりするのではないですか? だとしたら、わたくしたちとしましても、一度配信を止めるなり、マイクを切って映像のみにするなりの手段を取ることもやぶさかではないですよ」
「——!」
なるほど……!?
配信をいったん止めるのはアリかも。ぶっちゃけ配信しながらだとやりにくい話なのは確かだし……
というか、マイクを切る? 映像だけ? そんなこと出来んの?
「そう、だね……リスナーの前だとちょっと話にくいから、そうしてもらえると助かるんだけれど……」
「では、いったん配信を止めますか? それとも……」
「マイクを切るだけでもいいけど……それって、どーやればいいの? ——ごめんボク、やり方が分かんない……」
「えっと、そのー、マイクのボタンを、ですね——あー、ちょっと待ってくださいね、今教えますから……」
〈宝塚ジュエルちゃん最推し勢(ガチ):お、お前……ついには姫巫女様の手まで煩わせるなんて……親衛隊にシバかれるぞ〉
それから姫巫女ちゃんが自分でも実演しながら丁寧にやり方を教えてくれたので、私は新たにサイレント配信のやり方を覚えたのだった。
そして、残る二チームの勇者さんとカイザーもサイレント配信に切り替えてくれたので、これにて完全なる(音声)オフレコ配信の場が整った。
——ついでに、それぞれのドローンカメラも遠目に配置しておく。
念のため、自分でもちゃんと確認したけれど、本当に誰の配信にも音声が入らなくなっている。
さて、ここまで配慮してもらったからには……いよいよ私も観念して、正直に話すしかないか。
——まあ、私の実力を示すという配信の一番の目的は一応すでに達成できてはいるから、最悪のパターンとして、これからの話し合いが上手くいかなくてここでコラボ配信が終了するとかになっても、平気といえば平気だし……。
こういう話し合いは苦手なんだけれど……夜叉姫モードなら何とかなる——いや、何とかするしかない……!
「じゃあ……改めて、話を聞かせてもらえるかな、夜叉姫さん」
「そうだね……こうなったらもう、正直に全部言うよ。ただ……」
「ただ? なんだよ?」
「いや……ボクって正直、こういう説明ってあんまり得意じゃないから……そうだね、そっちからの質問に答えるって形にしてほしいっていうかー……」
「そうきたか……なら、単刀直入に訊かせてもらうぜ。夜叉姫、アンタが言ってた『この階層のすべてのモンスターを知ってる』ってのは本当か?」
「本当だよ」
「……そうか。なら、さっきの牛頭のことを知らないような反応はなんだったんだ?」
「それは……」
んあぁ、なんて言うべきなんかね。
いやもう、正直に言うと決めたんだから、そのまま言うしかないか。
しかし、そのまま、となると——それはそれでムズカシイヨウナ……
「えーっと、それはね……だから、そのー……戦う前に全部教えちゃったらネタバレになるかな、って思って……だから言わないことにしたんだけれど、その前にすでに知ってるって言っちゃってたから……誤魔化そうと思ったんだけれど、ウソって言われて焦っちゃって、それで——」
「ちょっ、待て待て、ちょっと待て……まずネタバレってなんだ? どうしてそれで教えないなんてことになるんだよ?」
「え? だって配信してるんだから、戦う前からボクが全部説明しちゃったらネタバレになっちゃうじゃん。それじゃ面白くないよなーって思って、だから——黙っといた方がいいかなって」
「……お前それ、マジで言ってんのか?」
「うん、そうだけど」
「……えっと、じゃあ——つまり夜叉姫さんは、配信中じゃなければ普通に教えてくれていた、ってことなのかな?」
勇者さんにそう言われて……私は改めて考える。
視聴者に聞かれていないなら——それこそ、今だったら——教えても問題ないんだろうか。
いや、それでも……結局は事前に教えられた彼らの反応が初見じゃなくなるから、それが問題なんだろうか……?
そもそも、教えるか教えないかの基準は——この問題の本質はどこにある……?
決まってる、〝どちらがより面白くなるのか〟だ。
視聴者には絶対に事前に教えない方がいい。それだとネタバレになるし、知らない方が観てる方は面白い。それはおそらく間違ってない。
だけど……視聴者ではなく出演者の彼らには、はたして教えるべきなのかどうか——それは私にも分からない。
なら、問題の本質はそこだ。
「それは……君たち次第、かな」
「オレたち次第、っていうと……?」
「えっと……ボクの考えでは——敵の能力を先に全部説明してしまうのは、観ている視聴者にとっての面白さを減らしてしまうから、それはしない方がいいと思って……だからさっきは、視聴者の前だったし、教えたくなかったんだけれど……」
「リスナーには教えない方がいいってゆう、それについては——まあ言いてぇこともあるが、それは今はいいとして——言いたいことは理解できるぞ、一応な。……で? オレ様たち次第ってのは、どーゆうことだよ?」
「それに関しては……逆に訊きたいんだけれど——君たちは、どっちの方が面白くできるの? 敵の情報を事前に知ってるのと、まったく知らないのとでは。知っている方がいいってこと?」
「はぁ? いやマジで……さっきからずっと何言ってんだコイツ?? 配信の面白さの話しかしてねぇじゃねぇか……」
「なんというか……色々と、コミュニケーションにすれ違いがあるみたいだな。とはいえ、この場で長々と話すものでもないから、端的に結論だけ言わせてもらうと——答えは『イエス』だよ、夜叉姫さん。オレたちは、何でも事前に知っていた方が配信をより〝面白く〟できる。だから出来るだけ、知ってることは前もって教えておいてほしいな」
「……そうですね。わたくしも御剣さんの意見に全面的に賛成です」
「……あー、分かったよ。オレ様も異論ねぇぞ。全部教えてくれ。今ならリスナーにも聞かれないし——それならいいんだろ?」
そうか、知ってる方が面白く出来るのか……
——少なくとも、ここにいる彼らはみんな初見プレイ派では無いってことね……了解。
それならまあ、事前に全部教えておくのもやぶさかではない。
「そうだね、今ならいいよ。何でも訊いてよ」
「へぇ、何でもか。んなら——」
「すみません、少しお待ちを。質問をさせてもらう前に一つだけ、改めて確認させてください。その、前にも少し話していましたが……夜叉姫ちゃんは、攻略情報を秘密にするつもりはまったくない——ということで、よろしいのでしょうか? 配信を通して情報が広まることに対しては、どうお考えなのですか?」
「んー、そうだね……まあ、攻略情報を秘密にするつもりはまったくないから、この配信で広まってもぜんぜん構わないよ。ただ……ボク自身の情報については、訊かれても答えられないこともあるから……それは——さっきの〝何でも〟には含まれない——秘密ってことで……お願いするね」
「分かりました。ひとまずは、それだけ確認できれば十分です。ありがとうございます」
いえいえ、こちらこそ……。
「まあ、その辺りの話については、本当は探索する前に話し合って決めておくものなんだけれど……なにぶん今回は急な話だったから、なんの取り決めも出来てなかったし……その弊害ってやつが、やっぱり色々と出てくるよね……」
「それについても……元はといえば、夜叉姫が一方的に場所やら日時やらを決めて、事前の打ち合わせもまったくする気なかったから——って話じゃなかったかぁ?」
「……えっと、やっぱり普通は、もっと事前に打ち合わせとかするものなの? コラボ配信の時って。——いや、ボクは今回が初めてだから、その辺のコトってぜんぜん知らなくてさぁ……」
「いやいや、コラボ配信以前に、合同探索の時点でガッツリ事前に打ち合わせするもんだろ、フツーは」
「っ……ずっとソロだったから、合同探索もボク今回が初めてなんだもん……」
「あらあら……やっぱりそうだったんですね。それなら仕方ないですね」
「いやいや……なら仕方ない——とはならねぇだろ……っていう、オレ様の意見はおかしいのか?」
「言うなカイザー……誰にだって初めてはあるもんだろ。彼女の場合は、それがよっぽど特殊だったってだけさ」
「——さすがに特殊が過ぎんだろ……」
「ともかく、話は決まりだな。ダンジョンの中で長話するわけにはいかないし、配信の方も長々と放置はできない。この場で夜叉姫さんから最低限の話だけ聞き出したら、すぐに探索を再開しよう」
「いいけど……お手柔らかに頼むね」
というわけで、それから私は、矢継ぎ早にされる質問にガンガンと答えていって、いまさらながらに今回のコラボ配信合同探索の〝打ち合わせ〟を済ませたのだった。




