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第9話 ⑧——「スパチャ——ではなく、スポコメ」



 眼球を(つらぬ)く形で頭部を射抜(いぬ)かれた牛頭鬼(ミノタウロス)が、ドウッ——という盛大な音を立てて、その場に倒れ伏す。

 そのまま起き上がることはなく……ミノの巨体は(ちり)と化して消え去り、後には魔石だけが残った。


「ふぅ……どうやらちゃんと、切り札の一撃で倒せたようですね」

「流石だな、姫巫女(ヒミコ)さん。いやぁ……おかげで助かったよ、ありがとう」

「いえいえ、お気になさらず。こちらこそ、皆さんには前衛を(にな)っていただき助かりました」

「チィッ、カマイタチとは別のタイプで厄介なヤツだったな。オレ様の見せ場が全然無かったのは(しゃく)だが、まあ無事に倒せたからヨシとしてやるか」

「あら、カイザーさん、最後は(かば)っていただいて助かりました。あそこであの大技を引き出していなければ、その後の白煙(はくえん)もすぐに晴らされていたでしょうから……必要な犠牲だったと思います。とはいえ、お怪我はありませんでしたか」

「へっ、よせやい……あのくれぇで怪我なんてしねぇから、礼を言われるまでもねぇさ」


 緊迫した戦闘から一転して、無事に討伐に成功した安堵も相まって、弛緩(しかん)した雰囲気で和気(わき)藹々(あいあい)と語り合う三チームの皆さん。


〈勇敢なる応援者[¥5000]:討伐成功おめ! とにかく全員無事でなにより!〉


〈姫巫女様の親衛隊[¥10000]:さすがは姫巫女(ヒミコ)様ですぅ!! 間違いなくMVPの活躍お疲れ様でしたぁぁ!! 素晴らしいものを見せていただいたお礼にどうぞこちらをお納めくださいぃぃぃ!!!〉


〈皇帝の忠臣[¥1000]:カイザーァァァァ!! まったく見せ場無かったし年下の姫巫女(ヒミコ)様に気を遣われてたけど気にすんなよォォォこれやるから元気出せぇぇぇぇぇ!!!〉

 

 その輪から外れた場所で一人寂しく眺めていた私は、視界の端に映る画面に動きがあったことでそちらに注目する。

 これは……私が設定した自動ピックアップにも似ているけれど、専用の色付きでより派手な感じになっている、この特殊なコメントは……!


 スポンサーコメント——略してスポコメだ!


 (カネ)だ!

 カネを送るコメントだ!

 なんてこと……っ!? 普通に一戦しただけで、お金を送ってもらえるだと……?!

 探索者自体がそもそも、モンスターを倒したらドロップする魔石やアイテムを売って金を稼げるのに……その上さらに、配信して視聴者からもカネを送ってもらうだなんて……!

 こんなボロい商売があっていいのか?


「——おっ、スポコメありがとう! みんなの応援のおかげで無事に倒せたよ!」

「——ふふ、MVPだなんておそれ多いですが、スポコメありがとうございます。次も皆さんの期待に添えるように頑張りますね」

「——おうこらスポコメまでして()らんこと言うんじゃねぇ! だが(かね)と慰めはありがたく受け取っておく! 次も待ってっぞ! なんてな!」


 三人も送られたスポコメに反応してお礼を言うなどしている。

 まあカネだからなぁ……そりゃちゃんとお礼を言わないとだよなぁ。


〈(・・?):ねえ、スポコメ解禁しないの?〉


〈探索兵長:そういえば、姫はまだチャンネルの収益化はしないのですか?〉


〈ヒャッハーモヒカン:条件はもうすでに満たしてっし、あとは申請するだけで通るはずだぜ?〉


 なんて思っていたら、私のチャンネルを収益化(マネタイズ)しないのかと〝観測者(ウォッチャー)〟から疑問のコメントが。

 ——やっぱりウチの観測者たちも、私の配信だけでなく他の三チームの配信も同時に観ているようだね。

 ふむ……いい機会だし、その辺についての私の方針をここでちょっと喋っておこうかな。


「そんなこと聞いてどうするの? ボクがスポコメ送れるようにしたら、君たちが送ってくれるっての?」


〈MS管理人R:えっと……スポコメ欲しいなら、その前にまずミュートを解くべきなんじゃとマジレス ってか、ミュートしたままでスポコメしたらどーなんだコレ?笑〉


〈アンチ太郎:金の話をしないのがお前の唯一の魅力だったのに……はぁ、落ちぶれたな夜叉公〉


〈ニートの無職ん:いやスポコメとか言ってる場合か? 今のアンタってなんか嘘つき扱いされてる容疑者だったし、言い逃れる方法を考えるのが先だろ〉


「……まあ、この際だから言っとくけど、ボクはスポコメの解禁というか収益化自体をするつもりないから。その辺は気にしないでいいよ。んで……そう、それなんだよね……。——はぁ、マジでどーしよっかなぁ……」


 いやホント、スポコメとかどーでもいいんよ今は。というか言った通りに、この先もどうせ解禁するつもりないしどーでもいい。

 それよりも問題は、嘘つき疑惑をどーするんだってコト。

 観戦しながらも考えてはいたんだけれど……まったくもって上手い言い訳が思いつかないままなのだぁ……。


〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:そもそもなんで夜ちゃんは、あんなすぐバレるようなウソついちゃったの?〉


 すみません、分かりません。気がついたら、流れでそうなってました——

 なんて言ったら、ヒナは怒るかなぁ? たぶん怒るってか(あき)れるだろうなぁ……

 ——ああー……今こそラブちゃんというかヒナに相談したいけど、さすがにこのまま配信中にラブちゃんに相談は出来ないし、今は内緒でヒナだけに相談することも出来ない……

 コラボ配信始まって以来の大ピンチ、どう切り抜ける……?!


 答えが出ないままタイムリミットになり、いよいよ三チームの面々が私の元に集まってくる。


「さて……その、夜叉姫(やしゃひめ)さん。それで、戦闘前にやっていた話の続きなんだけれど——」

「おう、夜叉姫。はっきり聞かせてもらおうか。さっきは何がどうして、あんな怪しい反応をしてたんか……その答えをなぁ?」

「夜叉姫ちゃん……わたくしは貴女(あなた)を責めるつもりはありませんので、どうか落ち着いて……詳しい話を聞かせてくれませんか?」


 そう、三人から問い詰められた私は……何かを答える前に、無言でソレを手元に呼び出す。


『“武装召喚(サモン・アームズ)——戦乙女の大斧槍槌バルキリー・ハルバード”』


「「「——ッ!?」」」


 唐突に私の手元に巨大な武器が現れて、三人が一斉に驚愕する。


「お、おいテメェ、やっ、やるつもりかっ?!」

「……そうだね——」

「なん——ッ!!?」

「次の二体は、ボクに任せてよ。さっきは戦うなって言われたけど……でも別に、ボク一人で戦う分には問題ないでしょ?」

「は? ……って——おい?! これ、新手か!?」

「っ、抜かりましたね……白明(はくめい)を呼び戻していたので、この距離まで気がつきませんでした」

「あれは……! 二体も?!」


 私はすでに気がついていたというか、来ると知っていた、こちらに向かってきている新たな敵の影。

 さっき倒した牛頭鬼(ミノタウロス)とまったく同じモンスター、それがなんと二体同時に現れる。

 すでにこっちは見つかっているので、すぐに戦いになるだろう。


 さて……タイムリミットと見せかけて、延長戦の始まりだ。


「あの二体はボクがやるから、手出しは無用だよ」

「なっ、一人で?! 二体もだって!?」


 そう言い残した私は——ハンドサインで手元に呼び寄せたドローンカメラを掴むと——勢いよく地を蹴る。

 

 ドッッッ——ドンッッ!!

 

 ドローンを持ったままミノのところにまで瞬時に移動した私は、石床を踏み砕くほどの強烈な急ブレーキにより立ち止まると、二体をその場で迎え討つ。


「ブモッ!? ブモオォォ!!」


 二体のうち先頭にいた方は、まだ遠い距離にいた私がいきなり目の前に現れて驚いたが、すぐに大斧を振って攻撃してくる。


 ブンッッ!!


 私はひらりと飛び上がり、その大斧を(かわ)す。

 そのままミノの巨体を飛び越えつつ、その途中の空中にてドローンを手放して、その辺に浮かせておく。


 飛び越したミノと、後続のもう一体のミノに挟まれる位置に降り立った私と、その頭上に浮くドローン。

 ——このダンジョンの通路はそこそこ広くて、身長三メートルはあるミノが、その身の丈を超えるデカさの大斧を振り回してもまだ余裕があるくらいだけれど、その上でドローンが安全に飛ぶスペースまであるかというと……さすがにそこまでは広くないかもしれない。

 なのでこの戦いでは、ドローンが破壊されないようにも気をつけないといけないだろう。


「ブモォォ!!」


 なんて考えている間にも、目の前の二体目のミノがさっそく攻撃してくる。


 ブンッッ!!


 私はその間合いを完全に見切り——目の前1センチを(かす)るくらいギリギリのところまで——バックステップで下がって回避する。

 すると今度は、ほとんど後ろの(一体目の)ミノに触れるほど近寄ることになった。


「ブモッ!!」


 それに一体目のミノ——面倒なので以下「ミノA」とする——も気がついたようで、こちらに振り返ると同時に攻撃してくる。


 ブンッッ!!


 しかし、またしても私はその攻撃を見切り、こちらも振り向きざまにバックステップで躱す。


 すると、またまた今度はもう一体のミノBに接近するので、次はそちらが攻撃してくるが……それも見切って紙一重で回避して元の位置に下がる。

 したら、またしても……


「ブモォッ!!」


 ブンッッ!!

 シュバ——!


「ブモォ!!」


 ブンッッ!!

 シュバ——!


 なんて攻防をしばしの間、狭い空間で繰り広げる私とミノAとB。


〈ニートの無職ん:追及から逃げるように(とんでもない勢いで)飛び出したと思ったら……めっちゃ舐めプしてて草〉


 に、逃げたんじゃないし……死中に活を求めるってやつだしっ、戦いながら考えるためだから……!

 その追及を上手く(かわ)す方法とか、この戦いをどう魅せプレイして勝つのかとか……

 ——そう、機会があれば一つも(のが)す気はない私なので、配信の前での戦いは基本的にいつも魅せプレイを意識している。こんな時でもそれは変わらない。

 下手に攻撃したら戦いが終わっちゃうから、こうして回避に専念して(考える)時間を引き延ばしているのだ。

 魅せプレイ的には、狭い空間で躱すというのはポイント高い気がするから、けっこうアリなのでは? って思ったんだけれど……魅せプじゃなくて舐めプになるの、コレ? ——難しいなぁ……


「なっ——す、すごいな……挟まれながらもすべて回避してる……!?」

「おいおい……どーなってんだよ、ソレ、ははっ、正気かよ……ヤバすぎんだろ」

「すべて紙一重で躱している……完全に見切ってますね。それにしても、あれだけギリギリを攻めるとは……確かにすごいです」


 下がる、しゃがむ、サイドステップ、体を逸らす、跳び越える……


〈アンチ太郎:なんでわざわざ間に挟まったんだ? 普通にバカだとしか思えないぞ〉


 何も意識せずとも体はほとんど自動的に動いて回避するので、考え事するのに支障は無いのだけれど……やはり解決策は思いつかないし、ムカつくコメントが目について思考が乱れる……っと、危ない。


 ガシッ!


「ブモッ!?」


 振りかぶった大斧の先がドローンにぶつかりそうになったので、持ち手の先を掴んで止めた。——間一髪。


〈流浪の探索者:うわぁ近い、今の当たるかと思った!〉


 得物である斧を掴まれたミノは振り解こうとするが、私は強く握って放さない……と見せかけて、相手が一際強く引っ張るタイミングで放してやる。


「ブモォッ!?」


 すると勢い余って、たたらを踏んで後ずさるミノB。

 その無様な姿に思わずニヤリと笑う私。しかし、そんな私の後ろでは、ずっと攻撃が当たらないことについに業を煮やしたのか、ミノAが右足を振り上げてあの地震の能力を使おうとしていた。

 ——ふむ、本来はむざむざ使われる前に攻撃してキャンセルするのが定石だけれど……魅せプレイ的には、ちゃんと使わせるべきだよね……?

 魅せプレイのやり方を根本的に見直し中の私は、戦闘における最適解よりも配信者としての取れ高を優先し、あえて妨害せず技前の隙を見逃しておく。


『“大地震脚(グランシェイカー)”』


 ドンッッッ——グラグラグラ……!!!


 ミノAが能力を使い、大規模な振動を起こす。

 使わせると言ったけれど、それはあくまで相手にも見せ場を作るべきだと考えを改めたからであり、みすみす喰らう必要はないので——私は宙に飛び上がって直撃はちゃんと回避している。

 しかし、勇者さんたちがそうだったように、この振動はすぐには収まらないので、このままではどっちにしろ、着地した時に揺れの影響を受けてしまうのだけれど……

 ——振動は壁や天井はもちろん、ミノの体自身にも伝わっているので、床以外なら着地できるというワケでもないし……

 だからこそ、ここで私がバッチリと対応できたら、魅せプレイ的にポイント高いって寸法だ。


 では、夜叉姫の真骨頂……とくとご覧あれ!

 

 

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