第9話 ⑦——「VS牛頭鬼(ミノタウロス)戦!」
私が見守る先で、牛頭鬼との戦いが始まった。
「まずはオレたちが当たる! カイザーと姫巫女さんは様子を見て援護してくれ!」
「おう任せる! そして任せろ!」
「分かりました。ご武運を」
まずは勇者チームの前衛の三人が突出すると、一気に牛頭鬼との距離を詰めていく。
「城、タゲ取り頼む!」
「おうよ!」
「雪華は左、オレは右からだ!」
「了解!」
ミノの正面に〝聖騎士〟の男の人——ジョウさんが立ち塞がり、右から勇者さんが、左からは〝剣豪〟の少女——セツカさんが抜けていく。
「こっちだ、デカブツ!」
『“気我誘引”』
ジョウさんが挑発系スキルを使ってミノの注意を引いて、そのまま自分が攻撃対象を引き受ける。
「ブルッ、ブルルッッ!!」
たちまちミノは敵愾心を高め——左右を抜けて後ろに回り込む他の二人には目もくれず——鼻息も荒くジョウさんに詰めかかっていくと、そのまま大斧を振りかぶる。
ブンッッッ!!
ガキィィッッ!!
「ぐおぉっ!?」
振り抜かれる大斧を、正面に構えた大盾で防いだジョウさんは、しかし耐えきれず、その場から大きく吹き飛ばされてしまい——
ドゴッッ!
「ぐはぁっ……!」
強かに壁に叩きつけられてしまった。
そのまま壁の下にくず折れる彼に、ミノが近寄ろうと動き出す、その前に——
『“大地斬り”』
すかさず勇者さんが後ろからミノの足に斬りかかり——強烈な斬撃でその出足を払い——ミノを躓かせて動きを止める。
『“癒しの光”』
後衛の〝聖女〟さんが回復魔法を使い、ジョウさんを癒す。
「はあぁっ!!」
セツカさんが抜刀と共に鋭い斬撃を連続して放ち、紅に染まった刃の妖刀にてミノを何度も斬りつける。
それらは一瞬にして、ほぼ同時に行われる。
「硬!? なんて手応えだ……っ!」
「ぐうぅ……っ、なんという重い一撃……真面に受けるのは無理だなっ」
「っ!? 刃が立たない……っ!」
三人+αの連携により、崩れるかと思われた前衛(の要である聖騎士)は持ち直して、すでに体勢を整え終えている。
しかし、勇者さんとセツカさんの攻撃は、今のところはどちらもミノの強靭な肉体の防御力に阻まれており、お世辞にも有効打とは言い難かった。
「ジョウ、いけるかっ?」
「アーツを使えば! 無しだとキツいっ」
「なら頼む! セツカ、オレたちもヤツの注意を引くぞ! だが深入りするな!」
「はいっ!」
言ってる間にもミノは体勢を立て直しており、再びジョウさんに攻撃を仕掛けていく。
ブンッッ!!
『“反発力場”』
それをジョウさんは、受ける攻撃を反発させる戦技を使い、ぼんやりと表面が光る大盾を斜めに構えて上手いことさばいてみせる。
そうやって盾役が耐えているうちに、ミノの背後からは二人が攻撃していく。
『“雷刃斬り”』
バチバチと唸る雷を纏った剣で、勇者さんが猛然と斬りかかり——
「せいィッ!!」
腰に刺した三つの刀のうち、冷気を纏う刃の刀に持ち替えたセツカさんが、その青白く光る刃を閃かせる。
ズガァァァッッッ!!!
ザンザンザザンッッ!!
「ブモオッッ!!?」
今度の攻撃は効いたようで、さすがのミノも悲鳴染みた声を上げてのけぞる。
そのまま振り返ったミノは、ジョウさんを無視して後ろの二人を攻撃しようとするが……
「マコ! やれっ!」
「いきます!」
『“貫く雷の大矢”』
ちょうど後ろを向いたところで、後衛の〝賢者〟さんが放った雷魔法を背中に喰らい——
「ブモオォォッッ!!」
またもや大きくのけぞることになった。
〈勇敢なる応援者:さすが勇者パーティー! いつもみたいに見事な連携によるチームプレイが決まると、やっぱり強い!〉
連携は確かにすごい。盾役のジョウさん以外は攻撃を受けていないし、そのジョウさんも最初の一撃以外は上手く凌げているので、今のところは見ていて不安になる要素は無いといえる。
〈勇敢なる応援者:さすが、安定してる。いい感じ……なのか? いやでもアイツ、あの牛頭、マジでクッソ硬いっぽいな!? だっておかしいだろっ、なんで御剣くんの雷刃斬りやマコっちゃんの雷撃喰らってもまだピンピンしてんだよ?! ほとんど傷も出来てないとかマジぃ?? いやいや普通のヤツならそれのどっちかだけで一撃なんすけどぉ??!〉
ミノの硬さはこの階層でも随一なので——まったく効いていないわけではないだろうけれど——まだまだあれくらいでは致命的なダメージは入っていないと言わざるをえない。
〈勇敢なる応援者:たった一頭のくせに勇者パーティー全員と互角とか、ヤバいなこの牛魔人……これでボスでもない通常モンスとかマジなん?〉
そうだよ? コイツくらいは普通にゴロゴロいるからね。
〈勇敢なる応援者:今んとこは、なかなか安定した立ち回りだけど……でもこれ、まだ相手は能力を使ってきてないんだよな? 大丈夫かな……?〉
能力かぁ……まあ、ある程度ダメージが入ったら使い始めるから、そろそろなんじゃないかなぁ。
そうなってからが本番なんだけれど、さて……
なんて思っていたら、噂をすればとばかりに、さっそくミノが能力を発動させる素振りを見せた。
ヤツの魔力の高まりや、独特の予備動作という事前知識から、それを察知した私だったけれど……そんな私以外にも、もう一人——
『“危機予知”』
予知系の能力によりソレを察知した姫巫女ちゃんが、全員に警告を発する。
「——! 気をつけてください! 能力を使う予兆があります!」
「「——ッ!?」」
「……下から来ます! 飛び上がりつつ後方に退避を!」
その警告が終わるや否や、ミノが大きく振り上げた片足を強く地面に振り下ろし、盛大に踏みつけた。
『“大地震脚”』
するとたちまち、踏みつけられた地面から強烈な振動が発生し、大地震もかくやという大揺れが辺りを襲う。
「うおっ!」「つぅっ!」
警告に即座に反応し、飛び上がって直撃を避けた勇者さんや剣豪さんもいれば……
「ぬぁっ!?」「ヤバっ!?」「痛ぇっ!?」
反応が間に合わず、振動の直撃を受けて体勢を崩したり、転んでどこかを打ち付ける人もいる。
そんな人たちは、大揺れが続く中でどうすることも出来ずに、もはや地面に釘付けになってしまっている。
そんな中……元から【振動制御】の能力も持っているミノだけは、揺れをものともせず、今なお続く地震を起こした大技を使った反動が終わると共に動き出す。
そんなミノが狙いを定めたのは——なんとか飛び退いたはいいけれど、結局は着地と同時に振動に足を取られて身動きを封じられている勇者さんだった。
とっさの退避で稼げた距離はわずかで、ミノはすぐさま勇者さんをその大斧の射程に捉えて、大きく振りかぶるが——
『“停身の矢”』
姫巫女ちゃんが放った特殊な力を宿す矢を受けて、大斧を振り上げた体勢のままピタリと動きを止められていた。
——へぇ、相手の動きを止める技かぁ。何となく、ボクの〝停滞の魔眼〟に似てるかも……。
見れば姫巫女ちゃんは、空中に展開した障壁の上に乗ることで、揺れる地面の影響を無効化している。
——おお、なるほど。そうやって対応したんだ。障壁、便利だなぁ。
なんて思いつつ、見つめる視線の先では——最初よりは少し勢いが収まってきたのもあり——何とか揺れの中でも動けるようになった勇者さんが不格好ながらも退避する姿と……動きを止める効果が切れると同時に大斧を振り下ろし、ついさっきまで勇者さんがいた場所を石の床ごと吹き飛ばすミノという、ギリギリの攻防が展開されていた。
姫巫女ちゃんの援護でなんとか切り抜けたけれど、このままだと普通にやられそうじゃない? 大丈夫そ? ——と、私は少し心配になっていたのだけれど……
『“魔物召喚——黒粘体”』
そこで〝召喚師〟の人がミノの近くにモンスターを召喚し、ミノの狙いがそちらに移ったことで、どうにか態勢を立て直す余裕が生まれたようだった。
——あれは、スライムか。それも黒って言えば、特に物理耐性が高い種類だから、アレならミノ相手でもしばらくは耐えられそうだ。
ミノの近くはいまだに大揺れの振動が残っており、まともに人が立っていられないくらいだったけれど、スライムはブルブルと震えるだけで特に問題なさそうにしている。
それどころか、その黒いプルプルした召喚獣は、ミノの大斧の直撃を受けても何事も無かったかのように平然としている。
——おー、これぞまさに相性ってヤツだなぁ……こうして見ると確かに、召喚って便利ね〜。
おかげで時間は稼げているし、このままいけばそのうち揺れも収まるだろうけれど……問題は、ここからどうするのかってところだ。
「厄介な能力ですね……なんとか態勢は立て直せそうですが、次また使われた時のことを考えると、どちらにしろ近接だと不利でしかないですね。であれば遠距離攻撃で仕留める他ないですし、あのスライムがいつまで耐えられるものか不安である以上、時間をかけるのは愚策……となると——仕方ありませんね、手早く仕留めるために、これを使うとしましょう」
そう呟く姫巫女ちゃんが取り出したのは、何やら強力な魔力が込められている札のようなものだった。
「皆さん! わたくしの切り札で仕留めますので、合わせてください」
「わ、分かった! お願いする!」
「お、おう、やったってくれや!」
相手の能力一つで半壊しつつある戦況では反対の声も上がらず——案の定、勇者さんやカイザーもすぐさま同意し——それを聞くまでもないとばかりに、姫巫女ちゃんはすでに攻撃体勢に入っている。
彼女は先ほど取り出した札を巻きつけた矢を、構える弓につがえると、ミノに向けて狙いを定める。
相変わらず障壁の上にいるため、まだわずかに残る振動の余韻もなんのその、その佇まいには一切のブレもなく、堂々として凛々しくも美しい射撃姿勢だった。
「——っ! ブモゥッ!」
すると何かを——というか、姫巫女ちゃんの異様に高まっていく魔力を感じたのか、ミノが近くのスライムや勇者チームの面々を無視して、一気に姫巫女ちゃんへと襲いかかっていく。
「まずいっ——!」
ミノの一番近くにいて、振動の影響が最も大きかった勇者チームの面々はそれにとっさに対応できず、包囲からの突破を許してしまう。
あわやそのまま、高威力攻撃のチャージ中である姫巫女ちゃんが狙われるかと思われたところで……
「ここはオレ様の出番だなっ! 任せなっ、このデカブツはオレ様が止める!」
「頼みます! ——赤武、貴方も彼を援護なさい!」
カイザーと鎧武者の式神がさっそうと飛び出して、ミノの足止めにかかろうとしたが——
『“衝撃波斬——地砕礫波”』
両者が接触するちょうどそのタイミングで、狙い澄ましたようにミノの攻撃——大斧を振ると同時に衝撃波を発生させる技が地面に炸裂する。
ドォォッッガァァァァンンッッッ!!!!
その一撃は硬い石床を砕き、無数の礫弾を生み出すと共に、それを衝撃波で全方位に撒き散らしていく——!
「ッ——!?」
「ぐおあぁっ!」
鎧式神とカイザーは、間近でそれを食らって大きく吹き飛ばされ——
それより後ろで控えていたカイザーチームのメンバーが、流れ弾を喰らって怯み——
自分に向かって飛んでくる石礫を両手で弾きつつ、その弾き飛ばした礫を使って、ついでに誰かのドローンカメラに当たりそうだった弾にぶつけて相殺させていた私はともかく——
障壁を張って礫弾を防いだ姫巫女ちゃんは、しかしもはや、その障壁以外には自分とミノを遮る障害が何も無くなってしまっていた。
大技後の硬直が解けるや否や、猛然と自身へと迫ってくるミノを前にしても、姫巫女ちゃんはまったく慌てず、姿勢も視線も決して揺るがない。
そして私も——事前に手を出すなとは言われていたけれど——いよいよともなれば飛び出すつもりだったけれど……ここは静観の構えで見守る。
なぜなら……私はちゃんと、彼女の手札がまだ残っていることを分かっているから。
そう——いつの間にやら、この場に呼び戻されていた——あの白い狐ちゃんの存在が。
『“幻惑の白煙”』
姫巫女ちゃんの足元から飛び出した狐ちゃんが、目前に迫るミノを巻き込む形で、膨大な量の白い煙を一気に噴出させる。
ボッフッッ——モクモクモクモク……!
「ブモッ?! ブッ、ブモッ、ブモモッ!?」
突然、まったく周りが見えなくなるほどに濃く、さらには幻覚作用すらある白煙に撒かれたことで、大いに慌てて完全に足を止めてしまうミノ。
視界を遮る白煙の向こうにいる、そんなミノの様子が見えているかのように——いや、恐らく彼女には本当に見えているようで——姫巫女ちゃんの視線は、白煙の中で右往左往するミノを正確に射抜いている。
そしてそのまま、誰に阻まれることもなく、その一矢に込められた魔力は、眼前の怪物を一撃で倒すに足る威力を宿す。
その時、その危険な魔力を察知したのか、ミノタウロスは最後の足掻きとばかりに、いまだ使わずに隠していた、その能力を破れかぶれに行使したが……
『“震痺咆哮”』
「ブモオオオオオォォォォォォ!!!!」
聞いたモノに衝撃を与えて、一時的に動きを止める——そんな大音声の咆哮も……事前に察知できる姫巫女ちゃんには通じない。
彼女——というか青蘭さん——は自分たちを完全に囲う障壁を張ることで、アッサリと防いでいる。
その時、盛大に立ち込めていた白煙が——姫巫女ちゃんを覆う障壁と同時に——何の前触れもなく一気にすべて消え去り……
「ブモッ?」
「では——さようなら」
マヌケな声と顔を晒したミノの頭部に、お別れの言葉と共に放たれた矢が突き刺さった。




