第9話 ⑥——[うっかり夜叉姫、大いにやらかす——!?]
ひとまず話はまとまったので、私たちは進行を再開した。
「索敵は……本当に任せていいんだね?」
「うん、任せて。バッチリやってるから」
「まあ、こう言っちゃなんだが、お前んトコのウルフがいても、もうあんまり意味ねーと思うぜ」
「一応、わたくしの白明も居ますし……カイザーさんのチームの斥候の方もいますから。ウルフちゃんは、確かに……無駄に犠牲にすることもないでしょう」
カマイタチとの初戦を終えたことで、なんやかんや——良くも悪くも——最初の緊迫感は無くなったので、今はこうして軽くお喋りしながら探索することが出来ている。
——いやぁ……あのまま無言探索が続いたらと思うとウンザリだったから、雰囲気が和らいでくれて本当に良かった。
ダンジョン探索配信と言いつつ、さすがに終始無言はどうなんって思うし、お喋り解禁はマジで助かる。
〈勇敢なる応援者:にしても、さっきのカマイタチ戦はヤバかったな……御剣くんの最速の剣技でも仕留められないどころか互角だなんて……やっぱ深層ってヤベーとこなんだなぁ〉
〈姫巫女様の親衛隊:いやはや……夜叉姫さんを除けば、さっきのカマイタチにまったく遅れを取らなかったのは姫巫女様くらいでしたね。まあ、勇者チームも健闘したようですが〉
〈皇帝の忠臣:ウチのカイザーが成す術なく一瞬で血ダルマにされるような怪物が、あんなちっこいイタチだったとは……にしても、カメラにも全然映らんくらいクッソ速かったアレを、いともたやすく手掴みにして捕まえる夜叉姫って、マジで何者なんだよ??〉
〈探索兵長:まあ、姫も長らくソロで探索しているのですから、何かしらの索敵手段はあるのでしょうけど……少なくとも、長く配信を観てきた我々としても、姫のその手の能力については詳しく聞いたことがないんですよね〉
私たちが喋っているからか、今はコメントも当初に比べると増えてきている。
我が〝観測者〟たちについても、ようやくポツポツとコメントをするようになってきた。
どれどれ——ふむ、索敵かぁ……まあ、感知系の能力は外から見ても分からないからね、今までも普通に使ってたけど、みんなは知らないんだよね。
私ってか夜叉姫は秘密主義だから、むしろ明かしている情報の方が少ないくらいだったりする。
人が増えたことで、色々と配信のやり方についても変えていくべきかもと考えている私だけれど……この秘密主義については、特に変えるつもりはないかな、今のところは。
だってそっちの方が、ミステリアスでカッコいい気がするし——!
それに、明かされていない秘密がある方が、色々と考察したりして盛り上がることもあるだろうし……っていう計算もちゃんとあるので、別にただカッコつけてやってるだけじゃないからね。
なんて思いながらも、適当に進むことしばらく……
それなりに進んだところで、次なるモンスターの気配を察知した。
これは……牛頭鬼か。
カマイタチに比べたら……全然マシかな、こっちの方が。いろんな意味で。
動きはそんなに速くないし、デカいからバッチリとカメラにも映る。
派手な技は持ってないけれど……その分、純粋に強いって感じのヤツだ。
しかしそれは、こちらとしてはむしろ好都合といえる。強い分よく耐えるということなので、存分にこちらの強みを見せて——魅せプレイができるという寸法だ。
となると……さっきはモンスターのことは先に色々と教えておいてくれって言われたけれども——
コイツの情報は——さて、どこまで事前に教えておくべきなんかねぇ……
そうは言われても、私としては事前情報はなるべく少なく——なんならゼロで戦ってほしいと思っている。
だってその方が、配信としても盛り上がるはずなので。
相手がどんな攻撃をしてくるか分からないからこそ、見てる方もハラハラドキドキするってものだろう。
なのに私が事前に全部(視聴者の前で)教えてしまったら、そういう初見ならではの楽しみを大きく損わせてしまうことになる。
お互いに配信者なのだから、彼らとしてもそれは本意ではないハズだ。
であれば私は心を鬼にして、あえて一切の(有用な)情報を伝えず、彼らには初見で対応させるのがいいだろう。
もちろん、いよいよ危ないとなれば、私が間に入って助太刀するつもりではある。
これは私のワガママなので、彼らに実害は与えないように気を配るのは当然。
しかしせっかくなので、彼らには配信をする探索者としてのお手本を存分に見せてもらいたい。
トップ配信探索者の実力ってやつを、大いに私に学ばせてくれ……!
ということで……ギリギリの距離に接近するまでモンスターの存在を教えないことで、まずもって説明のための時間をなるべく少なくするという小細工を弄した後……
そろそろ狐ちゃんが見つけてしまうかなってタイミングで、私は口を開いた。
「おっと……敵が来たみたい」
「っ、敵か!? カマイタチじゃねぇだろうな?!」
「んー、たぶん違うんじゃない?」
「多分ってことは、まだどんな敵なのかは判らないってことかい?」
「そうだね……まだ距離があるから判らナイヨ」
バッチリ判ってるけど、誤魔化す誤魔化す……。
「——! 確かに敵ですね、わたくしの白明も発見したようです」
「どれくらいで会敵する?」
「そうですね……このままいけば、あと五分もかからないでしょう」
「ですか、ではいったんここで止まって、様子を見よう」
「え? このまま進まないの?」
「そうだね、まだ敵の詳細も分からないし、出来るだけ時間を引き延ばして情報を得るべきだよ」
「……」
う、マジかよ……いやそりゃ、普通はそーなんだろうけどぉ……
——どーすっかな、どんな敵か判ったから、もう行こうよって言う? いや、そしたらむしろ全部聞くまで動かないか……。
ならもう、黙っとくしかないな……。
「姫巫女さん、敵の数は分かる?」
「一体だけみたいです。かなり大きいですね。全高にして三メートルはあるでしょうか。牛のような頭をした人型のモンスターです。武器は巨大な両刃斧。……この斧は、何らかの能力を秘めているようです」
「そうか、ありがとう。他にも何か分かったら共有してほしい」
「もちろんです。とはいえ……武器の能力なら、なんとか調べられるかもしれませんが——申し訳ありません、本体の持つ能力までは手が回らないかもしれません。というより、下手に本体を探ると相手に気づかれて白明が見つかる恐れがありますので、出来ない——というべきですかね」
「なるほど……もちろん、無理にとは言いませんので、できる範囲で」
「ええ、分かってます。接敵までには、なんとか武器の能力だけでも調べてみます」
「すみませんが、お願いします」
まあ、武器の能力くらいは事前に判ってもいいか。それくらいなら……
そんな風に考えながら——とはいえ、情報の流出を最小に抑えるために、なるだけ早くミノ来い! とかって私が思っていたら……勇者さんが話しかけてきた。
「そういえば……夜叉姫さん。君はさっき、この階層の全部のモンスターを知っているって言っていたけれど、牛頭の人型モンスターに心当たりはある?」
「えっ……と——ど、どうだろうなぁ……な、なんだっけ? ぎゅ、ぎゅう、とう? いや、ちょっ…………と、どうだろ、んぅ、ぉ、わ、分かんないカモ?」
「そ、そうか。分からないなら仕方がないか。でも、そうなると……」
「いやいやおかしくねぇか? 全部知ってるならソイツのことも知ってるハズだろ? それでも分からないってんなら、それは夜叉姫が全部知ってるってのがウソなのか、もしくは——」
「う、ウソだなんてっ、そんな……! ぼ、ボクはウソなんてついてないよっ……!」
「いきなりなんだよ……ってか、オイオイどーした、なんだか——やけに必死じゃねぇか……?」
「うぇっ?! ……いやっ、ぼ、ボクは……」
ヤバいヤバいヤバい——!
どうしよどうしよどうしよっ……!
あぁぁぁ全部知ってるとか言うんじゃなかったぁぁぁぁっっ!!
完全に墓穴を掘った……!
絶賛ピンチ中だコレっ——!
「あ、あぅぅ……ぼ、ボクは、う、ウソなんて……」
「すげぇな、こんなに目が泳いでるヤツとか久々に見たぞオイ。いやこれ、どー考えてもコイツ確実にウソ——」
「ま、待て待てカイザー。今はそんなイザコザを生むようなマネはよせ……戦闘直前だぞ」
「んなこた分かってるよ。オレ様だってそんなつもりじゃねぇ」
「そうか、だったら——」
「だがこれは、なぁなぁにしていい問題だとも思わねぇな」
「おい、カイザー——」
「だってそーだろ? 夜叉姫がウソを言ってねぇなら、相手は夜叉姫も知らないモンスターってことだ。それが何を意味するのか、考えてもみろよ」
「それはっ……確かに、問題だな。この階層の通常モンスターをすべて知っている夜叉姫さんにも判らないモンスターなんだとしたら、それは——イレギュラーである可能性が考えられる……ということか?」
「あるいは、最悪の場合は——エクストラって可能性もな」
「流石にそれは……考えたくもないな」
「まあな。それに比べたら、ウソを吐かれてる方がよっぽどマシさ。とはいえ、それはそれで大いに問題なんだがな」
そう言って、私のことをジロリと睨みつけてくるカイザー。
「っ……」
「危険なダンジョン探索の同行者として、まるで信用できないという意味で、大いになぁ……」
「……」
「まあ、それについての話は後だ。確かに今することじゃねぇ。まずは目の前の敵を倒さないとな」
ヤッベェ……軽い気持ちで適当なこと言ってたら、なんかスッゲェ深刻な問題になってんだけど……?!
うぇっ、マジでどうしよう……
「だが、これだけは先に一つだけ言わせてもらうぜ。夜叉姫、アンタは次の戦闘には参加しねぇでもらおうか」
「っ?」
「というより、ちゃんとした釈明を聞くまでは——次だけと言わず、もはや最後まで——今後は一切の言動を控えてもらいてぇところだな」
「……」
「これは別にオレ様の独断ってワケじゃねぇ、この場にいるアンタ以外の全員の総意のハズだ。——そーだろ、お前らも、なんか異論あるヤツはいるか?」
「一つ、いいですか」
「おう、手短に頼むぜ」
「牛頭の武器の能力が判明しました。二つあります。一つは斧による攻撃——斬撃を飛ばす能力で、もう一つは、斧を振るのに合わせて衝撃波を発する能力のようです。これらは、両刃斧の片方の刃にそれぞれ宿っています。なのでおそらく、同時には使えないと思われますが……とにかく、相手には近接以外の攻撃手段もあると留意しておいてください」
「お、流石だな、助かるぜ。……それだけか? ってことは、異論は無いってことでいいんだな」
「いえ、もう一つ……」
「なんだ?」
「敵がこちらに気がつきました。一気に距離を詰めてきていますから、間もなく会敵します」
「りょーかい……話は後ってコトだな」
言うが早いか、ミノタウロスが曲がり角からその姿を現した。
そのまま勢いよくこちらへと突っ込んでくるので、確かにすぐに戦闘になるだろう。
さて……まあ、うん。
こうなっては、私が望むのはただ一つ。
なるべく……倒すまでに時間かけてほしいなぁ。
だって……アレが倒されるまでに、何とか上手い言い訳を考えておく必要があるみたいなので。




