第9話 ⑤——[行くべきか戻るべきか、それが問題だ……]
「……それで、ソイツがさっき襲ってきたモンスターってワケかい」
「そう。見ての通りに、尻尾が鋭い刃になってるのと、あとはめっちゃ素早いってのが特徴で、外見はイタチに似てるから……ボクは〝鎌鼬〟って呼んでるんだ」
「けっ、カマイタチ、ねぇ……もう治したとはいえ、このオレ様のことを血ダルマのボロ雑巾にしてくれたわりには、ずいぶんとまぁ、こじんまりといたいけな姿をしてくれちゃってんなぁ、オイ」
「確かに、見た目だけなら可愛らしいと言えないこともないですけれど……それ、まだ生きているんですよね? その、それは……いったいどうされるおつもりで、まだ生かしているのですか?」
「え? あ、いや……生きた実物をちゃんと映しておきたかっただけだから——えい」
「「「——っ!?!」」」
コキリ、と首を捻ることで、カマイタチは絶命し、塵となって消え——後には魔石とドロップ(素材)アイテムの尻尾(刃)だけが残った。
〈ニートの無職ん:勇者や姫巫女氏すら苦戦して、カイザーとか軽く死にかけてた敵を……片手でコキって殺すのワロタww〉
〈浮世の社畜ん:あーこれこれ、この不条理な感じ、これぞひいさまの配信って感じ〉
〈アンチ二号:あーあ、イタチそっくりでカワイイやつだったのに、すぐにそーやって殺すんだから……これだからヤシャコは〉
〈アンチ太郎:おい夜叉公、「せっかくの可愛らしい小動物をもっと見たかったのに、あっさり殺しやがって、この鬼畜が」ってコメントで言われてるぞ。なんとか言ってやれよ〉
「いやいや……ダンジョンでモンスターを倒して、なんで文句を言われないといけないのさ。つーか、わざわざそんなコメント教えてくれなくていいし。てかさ——ホントにそんなコメント来てたの? アン太が適当なこと言ってるんじゃないよね?」
〈アンチ太郎:信じられないなら、ミュートを解除して自分で確認したらいいだろ。誰も嘘なんて言ってないぞ〉
「……だったらなおさらミュートでいいよ。そんなしょーもないコメントなんて見る必要ないんだから」
〈探索兵長:一応言っておくと、そんな変なコメントは、ごく一部なんですけどね。ほとんどは普通に問題のないコメントなので……問題があるのは、むしろ選出者の方かと〉
「まあ、どうせそんなところだろうと思ってたよ……。それはともかく、最初の戦闘が終わったけれど、相手が相手だったから、あんまり盛り上がらなかったよね。こればっかりは運だから、気を取り直して次に期待しててよ」
なんて風に初戦闘は締めくくって、私はさっさと次の戦闘を目指して、先へ進もうと思ったのだけれど……
歩き出そうとした私を引き止めるように、勇者さんから声をかけられる。
「あっ、その……ちょっと待ってくれないかな、少し相談がしたい」
「え……まあいいけど。相談って?」
「いやぁ、そのぉ……言いにくいんだが——」
「……?」
本当に言いにくそうにしている勇者さんが言い淀んでいると、そこでカイザーが口を挟んできた。
「しゃあねぇなぁ……こうなったらオレ様がズバリ言わせてもらうが——さっきのカマイタチとかいうのは、オレ様たちの手に余るヤツだった。あんなのが今後も出てくるんだとしたら、当初の方針を変えてもらわねぇと、この先は付き合えねぇぜ。それこそ最悪の場合は、ここで引き返させてもらうしかねぇな」
「えっ……当初の方針——っていうと、敵は全部避けずに倒していくってやつ?」
「ああ。あんな厄介な敵は本来、避けて進むのがベストだし、それが無理でも、しっかりと準備して挑むのがベターだ。——まあ、あの機動力からいって、避けようにも避けられるのかは微妙なところだろうが……。まあ、だからこそ、遭遇自体を回避できないなら、この階層自体を避けるしかなくなるんだよ。当たり前だが、大前提として命あっての物種なんだからな」
「え、じゃあ、せっかくのコラボ配信なのに、もう帰っちゃうかもしれないってこと?」
「ああ、少なくともオレ様たちは——事と次第によっちゃあ——そうなるな」
「……悪いが、オレたちも同意見だ。さっきのカマイタチは、対策無しで挑むには危険なレベルのモンスターだと判断した。そして、この場ですぐに対策を組むのが現実的ではない以上……即座の撤退は、最も賢明な判断だと言えるだろう」
勇者さんにまでそう言われたので、私は慌てて姫巫女ちゃんの方にも視線を向ける。
このまま彼女にも同じ事を言われたら……まさかの——始まって五分で今回のコラボ企画は終了です! ってコトに……っ?!
「……それは、勇者さんのチーム単体で見た場合の話ですよね? 確かに、あなた達だけでは厳しいのかも知れませんが……ここには他のチームもいるではありませんか」
「それは、そうだけど……じゃあ、姫巫女さんは、あのカマイタチは脅威ではないし、自分が協力すれば問題無く対処できると言いたいワケかい?」
「いえ、そうではなく……私というよりは、夜叉姫ちゃんですよ」
「え、ボク?」
「ええ……夜叉姫ちゃんは、あのカマイタチを誰よりも早く発見して、結果的には一人で易々と制圧してしまい、あまつさえ——それこそ、まるで赤子の手を捻るように——簡単に討伐してしまわれたのですよ……?」
「それは……そうだけれど」
「であれば……その夜叉姫ちゃんがいれば、次にまた同じ敵が出てきたとしても問題ないのではないですか?」
「っ……」
勇者さんに向けられた姫巫女ちゃんの視線が、そのままぐるりと移動して、今度はこちらにも向けられたので——なんとも言えない表情の勇者さんを尻目に——私は頷く。
「そうだね……次にあれが出てきたら、ボクが矢面に立って倒すよ。だからその、できればまだ帰らないでほしいっていうか……」
「……まあ、オレとしても、こんなすぐに帰りたくはないからね。君がそう言ってくれるなら——」
「ホント?! うん大丈夫だから任せて! 次は様子見しないで真っ先に対処する!」
「あ、ああ……よ、よろしく」
「うんうん……というかそもそも、アイツってこの階層の中でもかなり厄介な方の敵だと思うし、最初に出てきたのは運が悪かったよ。でもここはカマイタチばかりが出るわけじゃないし——むしろアイツは出現頻度が少ないレアな方の敵だし——他の敵ならもっとマシだからさ。そこまで警戒し過ぎないでもいいと思うよ」
「ホントかぁ? それぇ……まあ、そこまで言うならもうちょい進んでみるか。だが、あのカマイタチだけはマジで頼むぞ! もしも次また様子見してオレ様がズタズタにされたら、責任取ってもらうからなっ?!」
「大丈夫、大丈夫……任せといて」
「あー、その……夜叉姫さんってこの階層に詳しいみたいだけど、出てくるモンスターはどれくらい把握しているの?」
「どれくらい、っていうか……全部知ってるよ」
「マジかよっ!? だったら次から出てくるモンスターについては事前に教えてくれよなー?」
「い、いや、ボクは最初からそのつもりだったよ? ただ、あのカマイタチは来るのが速すぎて……ま、間に合わなかったダケダカラ……」
「まあアレはな……しゃあねぇか」
〈ニートの無職ん:ホントかなぁ……? コイツのことだから、普通に教える気無かった可能性あるだろ。さっきも様子見がなんとかって言ってたし〉
〈アンチ太郎:騙されてるぞ、カイザーとやら。コイツはそんな殊勝なヤツじゃない〉
〈アンチ二号:怪しい……というか、本当に最初からそんなに協力的なら、ずっと後ろでボケっと見てるのおかしいでしょ。なんか別窓の映像まで出してたクセに〉
「さ、さぁ、そうと決まればすぐに行こう! 時間は有限! 善は急げだよ!」
こんな時だけ鋭い〝観測者〟が余計なことを言っていたので、私は慌ててみんなに移動を促して進行を再開した。




