第9話 ③——[探索準備!]
「それじゃ、紹介も済んだし、さっそく探索を開始しよっか」
配信を始める前の挨拶的なヤツも終わったので、すぐさま探索に乗り出そうと思い、私はそう声を上げて歩き出そうとしたのだけれど……
「ちょ、ま、待って待って。いきなり突撃はマズイでしょ、まずは索敵役を立てないと……」
「そうですね、わたくしも偵察役の式神を出しますので、少しお待ちいただけますか?」
「ウチは元からメンバーに斥候がいるが、まあ警戒する目は多いに越したことはねーわな」
何やらそう声をかけられたので、私は足を止める。
「そういえば、夜叉姫さんはソロだけど、普段の索敵はどうやってるの?」
すると、立ち止まって振り返った私に、勇者さんがそう訊いてくる。
「ウチはメンバーに専属の斥候役がいないから、普段はもっぱら、召喚師の左文字が呼び出した召喚獣に偵察をさせているんだけれど……」
言いながら彼が視線を向ける先を見てみると——召喚師だと紹介されていたメンバーの人が、今まさに召喚をしているところだった。
『“魔物召喚——狩猟狼”』
『“魔物召喚——暗影闇”』
〈勇敢なる応援者:お、いつものワンワンだ〉
〈勇敢なる応援者:召喚合体で闇のウルフに!〉
〈勇敢なる応援者:ウルフは犠牲になったのだ……〉
倒したモンスターが落とす魔石を核として、そのモンスターを呼び出す……それが召喚師の彼の能力のようだ。
「アレは索敵に優れるウルフ系モンスターと、隠密に優れるシャドウ系のモンスターのタッグで、こういう遺跡型や洞窟系のダンジョンではよく使う鉄板の組み合わせなんだよね」
召喚されたウルフに、薄ぼんやりとした影のような不定形な魔物がまとわりつくと……その存在感が希薄になっていく。
なるほど……モンスターの能力を組み合わせたら、単体では大したことないザコモンスでも、なかなか優秀な斥候になるってワケか。
それもこれも、普通なら協力しない完全に別種のモンスターを同時に使役できる召喚師ならではのやり方だ。
「へぇ、そうなんだね。じゃあ、ああいうモンスターの魔石は、いっぱい用意してるんだ?」
「そうなんだよ。お察しの通り、いくら隠密偵察向きの能力を組み合わせていると言っても、やっぱり独立して先行させる分、やられちゃうことも多いからね。まあ、召喚師の強みは魔石と魔力がある限り、いくらでも追加を補充できるってことだし、あのくらいのモンスターなら召喚に必要な魔力も大したことないし……こう言っちゃあ何だけど、彼らはやられることも仕事なのさ」
そりゃそうだ。
実際、この深層に対してだと、あのウルフたちはどう考えても不釣り合いなモンスターだし、あの弱さじゃ見つかったら速攻で終わりだろう。
「ウチの斥候役はそんな感じだけど……彼女——姫巫女さんも、呼び出した式神に偵察させるから、お互いに似たようなやり方でやってるんだよね」
言われて今度はそちらを見てみると、ちょうどその式神が呼び出されるところだった。
『“式神召喚——稲荷狛狐”』
『“祭具召装——神隠しの勾玉——真眼の宝珠”』
なにやら姫巫女ちゃんがお札みたいなものを投げつけると——ボフンとその札が変化して——そこに現れたのは、真っ白な毛並みの狐だった。
その狐の首には勾玉が下げられており、口には綺麗な玉を咥えている。
「キューン、キューン……」
ほぉう……あれが式神ってやつなのか。直に見るのは初めてだ。
ふむふむ……見たところ、召喚と使役を足して二で割ったみたいな仕様の能力みたいだね。
しかも、それだけじゃなく、どうやら特殊な力を宿した装備品すら呼び出して持たせているみたい。
——あれらはそれぞれ、隠密と索敵(というか隠密破り)に特化した性能のアイテムのようだ。
狐ちゃん自体もけっこう強いし、装備も付けて強化されたなら、この深層でもそれなりに通用しそうだね。
『“擬人式神——前式鬼・後式鬼”』
さらに姫巫女ちゃんは、新たに二枚の札を使い、追加で二体の式神を呼び出した。
それぞれ、赤色を基調とした鎧具足を身にまとい刀や槍で武装した武士然とした大柄の人物と、烏帽子に狩衣のような青い衣装で手に笏を持った長髪の人物が現れる。
——姫巫女ちゃん自身が和風な感じの衣装なので、狐ちゃんもだけど、この二体の式神も全体的に雰囲気がマッチしてていい感じに見える。
前者は顔全体を覆う仮面というか面頬で、後者は女性風の能面のようなものによって顔が隠れているので、その容貌までは窺い知れない。
しかし、その二体のどちらもが、この場にいる他の面々にも決して引けを取らない実力を持った猛者であることは疑う余地のないほどの威容を放っているのだった。
まあもちろん、それはあくまで、この私や——今はすでに後ろの方に隠れている——特務の人たちを除いての話だけれどね。
「お待たせいたしました。ひとまずはこれにて、わたくしの準備は完了いたしましたので、いつでも出発できますよ」
〈姫巫女様の親衛隊:白明ちゃんだ! キュンキュン可愛い♡〉
〈姫巫女様の親衛隊:出ましたっ、赤武と青蘭の鉄板コンビ! 深層でも姫巫女様の護衛は任せたぞ!〉
〈姫巫女様の親衛隊:勇者パーティーの召喚師もだけど、やっぱ召喚して味方を増やせるのってめっちゃ便利だし強いよね〉
「揃ったか? んじゃあ、どうする? 順当な役割分担でいうなら、狼と狐に手分けして先行させつつ、近場の警戒はウチの斥候を筆頭に全員でやるって感じになると思うが」
「そうだね、まあ、そんなところじゃないか」
「ええ、わたしくしもそれで異論ありませんよ」
「……夜叉姫はどうなんだ? アンタもそれでいいか?」
「うん、いいよ」
同意を求められたので適当に答えつつも……頭の中では別のことを考えている私だった。
——確かに、動物っぽいモンスターとか呼び出して一緒に探索するのも、それはそれで配信映えしていいのかもしれないよね……。
——マスコットキャラクターってか、相棒のペットみたいなのって、やっぱ定番だもんなぁ……。
——召喚かぁ……まあ私も、やろうと思えば出来なくもないし、今度やってみようかなぁ……?
なんて、私がぼんやり考えている間にも、チームリーダー三人の話は進んでいた。
「ルート取りはどうしようか。まあ、ここから先はお互い初めて潜る場所だし……なんと言っても〝深層〟だし、しかも高難易度ダンジョンときてる。となると、やっぱり最初は慎重に、敵はなるべく避ける方針でいいかな?」
「そうですね、無理は禁物ですから、安全重視でいいと思います」
「まあ、仕方ねえな。配信の盛り上がり的には戦闘もバリバリこなしたいところだが……場所が場所だからな、オレ様もそれで構わないぜ」
「じゃあ、夜叉姫さんも、それでいいかな?」
「……え、ルート? えーっと、それについては、最短距離でボスまで行くルートでいこうと思ってたんだけれど……」
〈勇敢なる応援者:そりゃあ、深層なら慎重にやるべきっしょ〉
〈姫巫女様の親衛隊:姫巫女様の安全が最優先です!〉
〈皇帝の臣民:さすがのカイザーも深層では大人しいなw でも配信映えを常に気にしてるのはいつも通りか〉
流れるコメントを横目で追いつつ……私はそう当初の予定を打ち明ける。
本来の探索なら、正解のルートを一から探るところから始めるものだけれど……
今回は配信だし、あんまりグダグダやってたら尺の問題もあるから、その辺は別にいいかなって思ってたんだけど。
「えっと……それが出来るなら、それに越したことはないけど……出来るの?」
「出来るよ。マップあるから」
「え? あ、あるんだ?」
「は? おいおい、すでにマッピング済みなのかよ……先に言えって。だったら確かに最短距離一択だろ」
「そうですね……では、ルートはそれでいいとして、道中に遭遇したモンスターとの戦いはどうしますか? なるべく避けて通るのでしたら、それはそれで、最短経路以外のマッピングも出来ていないと難しくなってくると思いますが……?」
「確かにね……夜叉姫さん、そのマッピングってのは、どこまで網羅している感じなの?」
「どこまでかと言われたら……全部だけど」
「マジかよ!? でもそれなら、モンスターとの戦闘は最小限に進めるな」
「いや、モンスターは全部倒して進もうよ。わざわざ避けるよりそっちの方が早いし、配信的にも戦うシーンがあった方がいいでしょ?」
私がそう言うと、三人が揃ってお互いに顔を見合わせる。
〈勇敢なる応援者:いや夜叉姫さん、深層なのにめっちゃ強気だなw〉
〈姫巫女様の親衛隊:ちょっとこの夜叉姫って人、ストロングスタイル過ぎません??〉
〈皇帝の臣民:すげぇカイザーより無茶苦茶言ってて草〉
〈流浪の探索者:戦闘を避ける夜の字とか確かに今まで見たことないから、これはいたって順当やな笑〉
〈探索兵長:なんだか新鮮ですねぇ……姫が探索の段取りを一から模索している感じの、この絵面。普段はもっと大雑把に進んでいくだけですから〉
「……とか言ってるけど、おいおい、どーすんよ?」
「……そうだな、まあ、とりあえずはそれでやってみて、問題ありそうなら変更する——ってことで、どうだ?」
「マップを提供してくださる夜叉姫ちゃんの言うことですから……わたくしは彼女に従いますよ」
「おっと、そういえば……マップ情報は配信で公開してしまって大丈夫なの? 夜叉姫さん」
「別にいいよ。というか、このダンジョンって一定間隔でマップが変化するから、どうせすぐに使えなくなっちゃうし」
「そ、そっか。——てかここって、深層以降も変わらずランダムマップ型なんだね……」
「でしたらなおさら、夜叉姫ちゃんには感謝しないとですね。今回のために、直前にマップを作成してくれていたのですから……」
「だぁー、分かってらぁ。ひとまずここは、夜叉姫——アンタの采配に従ってやるよ」
「じゃあ、決まりだな。ルートはボスまでの最短距離。道中に出たモンスターは避けずに倒す! 索敵は全員で協力して行い、情報の共有も密に行う……ってところか。みんなそれでいいか?」
「別にいいが、夜叉姫は索敵はこっち任せなのか? ……まさかアンタ、索敵無しで出てくる敵は全部倒すストロングスタイルだったりするのか?」
「まさか……索敵も出来るよ。心配しなくても、もしも君たちが敵を見つけ損なっても、ちゃんと教えてあげるから、安心してね」
「へっ……言うねぇ、コイツ」
「ははっ、それは頼もしいな。是非とも頼む」
「ふふっ、それはそれは、とっても安心ですね」
話し合いも終わり——最後は和気藹々とした雰囲気でまとまったので、どうやら幸先のいい探索開始となりそうだ。
では行こうか……!
〈勇敢なる応援者:なんという自信……それも、このメンツに言ってのける度胸ヤベェな〉
〈姫巫女様の親衛隊:これにはさすがの姫巫女様も、会心の暗黒微笑でお気持ち表明でござる〉
〈皇帝の諫臣:おいカイザー大丈夫か? 言われてんぞw 親切ないい子で良かったな笑〉
〈ニートの無職ん:無自覚か知らんけど、最後めっちゃ煽ってて草〉
は、煽り?
なんのことだか……。




