第7話 初めてのコラボ配信!
とあるダンジョンの〝深層〟第一層の開始地点にやってくると、そこにはすでに、オレ様のチーム以外の今回のコラボ企画に参加するメンバーが揃っていた。
……いや、肝心の主役サマはまだみたいだな。
「お、来たか。『規律正しい乱暴者』。ピッタリ10分前に到着とは、いかつい見た目にそぐわず、チームの名前通りに律儀なヤツってのは本当みたいだな」
「初対面の第一声がそれとか、アンタもなかなかだろ」
『勇敢なる挑戦者』……もとい、勇者パーティーのリーダーである御剣の野郎がさっそく——その超絶イケメン顔に爽やかな笑顔を浮かべながら——からかい半分にそう声をかけてくる。
「ああいや、確かにお互いに初対面だけど、配信探索者として同じレベルの相手だからさ、なんか親近感あって。ついつい気軽に話しかけちゃったよ。気分を害したなら悪い、でも悪気は無いから許してくれ……ないか?」
「……ふん、別に、このくらいでキレたりしねぇから、いちいち気にすんなよ」
明確にオレ様よりも人気も実力も上の相手から、同格と認められたような物言いをされたことで、早くも気分を良くしてコイツに気を許している自分に驚きつつも、同時に納得する。
——実力もそうだが、人気が高いのにも、それだけの理由があるってことか……。
どうもこの感じだと、カメラが回ってないところでも、コイツは配信の時と特に変わらないんだろう。
配信用のキャラを持たない……天然の人格者ってやつだ。
なんて思っていたら、次にこっちに挨拶してきたのは……今回の企画に集められた三つのチームのうちの一つ——というか、ソロなのに「複数人で一つのチーム」と同等以上の扱いをされている、規格外の少女だった。
「初めまして、ですね。『規律正しい乱暴者』のリーダー、軽井沢一さん。いえ、この場では〝カイザー〟さんと、そうお呼びするべきでしょうか?」
「……そうだな。カメラが回ってる時は、そっちで呼んでくれるか? こっちもアンタのことは〝姫巫女〟サマと呼ばせてもらうからよ」
「あら、無理してわたくしにサマ付けなどしてくれずともよろしいのですよ? お互いに、配信用のキャラクターというものがありますでしょうし」
「それを言うなら、アンタのキャラに合わせるのが礼儀ってもんだろ? 心配しなくても、実力者にはちゃんと敬意を払うのがオレ様流だから、こっちもそれでいいさ。もっとも、オレ様が実力者と認めるのは、自分より強いヤツだけだからな……今回が例外だってだけさ」
「なるほど……でしたら遠慮なく——わたくしはいつも通りでやらせていただきますね?」
「ああ、そうしてくれ。こっちもいつも通りにやる。……やっていいんだよな?」
「ええ、わたくしはそれで構いませんよ。ただ……わたくしの親衛隊がどう反応するかまでは、わたくしの意思が及ぶ範囲ではないので、悪しからず」
「……お手柔らかに頼むぜ」
やれやれ、冗談キツいJKだぜ……。
誰が好き好んで、人気も実力も国内最大最強の配信探索者を相手に無謀にも向こうを張るかよ……
見た目は絵に描いたような超絶美少女の大和撫子、その名も巫姫美子。
古くよりこの国を陰から支えてきた有数の名家である「巫家」のお嬢様であり、一等優れた家柄と言う名の権力を持って生まれるだけに飽き足らず、アイドル活動をすれば一世を風靡し、探索者になれば単身にして最強の名を欲しいままにする。
冗談抜きで神に愛されているとしか思えない——どころか、もはや彼女自身が神として崇め奉られているレベルの、このダンジョン時代に彗星のように現れた現人神系女子高生が、目の前の人物だ。
触らぬ神に祟りなし……くわばらくわばらってなもんだわ。
そんな風に心の中で黙祷しながら合掌していたら、それまでは後ろの方でひっそりと佇んでいた最後の集団のうちの一人が声をかけてくる。
「どうも。事前に伝えていたと思うが、我々は配信の画面に映るつもりはないので、そのつもりで。まあ、距離をとって後ろからついていくので、そもそも映らないはずだが……仮に、何かの拍子に映りそうになったとしても、こちらで勝手に隠れるから、そちらが意識する必要は無いし、最初からいないものとして扱ってくれればいい」
「……分かった。一応、後ろを映すときには注意しておくようにする」
「そうだな、あくまでさり気なく、なら……そうしてもらえると助かる」
そう言ってソイツら……政府直属の〝特務探索者〟のチームは、それきり無言になって、それまでの待機の姿勢に戻った。
〝特務〟か……その実物を見るのは、このオレ様をして初めてだった。
——噂には聞いていたが……本当に実在していたんだな。
聞いた話じゃ——ダンジョンで力をつけた警察官でも手に負えないような高レベル探索者の犯罪者を人知れず捕まえてるだの、海の向こうからこっそりこの島国に侵入してくるダンジョン工作員と日夜やり合ってるだの、政府からの密命を受けて裏社会で秘密裏に暗躍してるだの、国が総力を挙げて集めたドリームチームでありダンジョンをかなり深いところまですでに踏破しているだの……そういった真偽不明の噂が、まことしやかに囁かれているのが特務探索者って連中だ。
——正体を探ったら何されるか分からねぇような、本名を尋ねることすら憚られるような連中だが……さっき話しかけてきた、おそらくはリーダーらしき女性……あの無機質な美貌、冷徹な雰囲気、そして底知れない強さ……と、三拍子そろって、マジでめちゃくそオレ様のタイプなんだよな……どうにかして連絡先とか聞けねーかなぁ……なんて。
ありゃ完全に、下手に突いたら藪蛇で闇に葬られそうな匂いがプンプンしてっからなぁ……ああおっかねぇ……。——もったいねぇ……。
しっかし……そんな——本来は闇に潜んでいるような幻の存在まで出張ってきているとなれば、いよいよ今回の企画のメインキャストである夜叉姫の異常性が際立つってもんだ。
マジでコイツ……夜叉姫って、何者なんだろうな……?
この夜叉姫とかいう謎の人物は、探索者界隈で今、最も注目されている存在だ。
パイオニーアによる一連の出来事によって、その存在が明るみになって——まあ元々、配信はしていたらしいが、マジでほぼ誰にも知られていない存在だったっぽいので——表舞台に現れたその瞬間から、大いに話題を集めている配信探索者。
そのくせ、新たな配信をせずにしばらくの間、黙りを決め込んでいると思ったら——まさか、裏ではこんなことを画策していたとは……
今回のコラボ配信企画は、政府の要請と夜叉姫の要望が一致した結果として行われる運びになったのだという話だった。
正体不明だが、おそらくはかなりの実力者である謎の探索者——夜叉姫。
その存在がすでに明るみに出てしまった以上は——そして、放置するには、その実力があまりにも突出しているように見えるときたら——政府としても、何のコンタクトも取らないわけにはいかない。
まずは実力をはっきりさせたい政府に、夜叉姫が突きつけた要求が、配信で証明させろというものだった……らしい。
舞台はダンジョン〝深層〟——そして、そこを探索するに相応しい実力を持つ超一流の配信探索者を集い、一緒に攻略する様子をコラボ配信する……。
そうすれば、少なくとも、夜叉姫が深層級の実力を持つ探索者だということは、誰の目にも明らかになる。
意外だったのは、政府が夜叉姫のこの無理筋な要求に応じたことだ。
——本来、深層以降のダンジョンの情報ってのは、それだけ慎重に扱われるものだからな……。
——オレ様だって深層に到達しているほんの一握りの配信探索者の一員だが、これまでは深層での配信は一切許可されていなかったから、しようにも出来なかった。
それだけでなく、夜叉姫の意向なのか知らんが、集められたチームもこれ以上ない豪華なメンツだし、しかしその反面、スケジュールは異常なくらいにタイトだし……
——それこそ、人気に比例するように多忙を極めるはずの勇者パーティーや姫巫女サマとか、ホントよくスケジュールの空きがあったもんだぜ。
——いや、相手が今をときめくあの夜叉姫である以上は、コイツらだってそれくらいの無茶は通すか……
——ぶっちゃけ、たまさか運が良くて参加できたオレ様たちだって、他の予定はすべてブッチしてやってきたわけだしな。
——まあ、そこまでする価値はあるって判断なんだろーな、お互いに。夜叉姫とのコラボ自体が話題性的にこれ以上ないくらいに有益だが、何がヤバいって、その場所が深層ってのが、それに輪をかけてヤバい。
そう……あまつさえ、深層の配信を解禁しちまったんだから、これはもはや夜叉姫だけの問題じゃねぇ——どころか、この国だけの問題でもねぇ、全世界規模の問題だ。
今回、政府がそこまで思い切った理由ってのは、一体なんなのか……
パイオニーアが(というか、結果的には夜叉姫もだったが)、すでにその〝暗黙の了解〟を破ってしまったからか……
もしくは、夜叉姫の実力が、普通にそんな無理難題を通せるほどにヤバいのか……
あるいは案外、元からそろそろ解禁するつもりだったところで、ちょうどいいタイミングに話題の人物が転がり込んできたとか……そんなところだったりする可能性もあるかもだが、さて……——。
なんて風に、色々と考えていたら、あっという間に集合時間になり……
——おいおいおい、まさかドタキャンってんじゃねーだろうな……?!
そんな風に、一瞬だけ危惧したオレ様の心配は無用とばかりに……
「——あれ、もうみんな来てるんだ。待たせちゃったかな? お待たせしたね。今日はよろしく」
なんて言いながら、待ち望んでいた人物が——深層の開始地点からは反対側の方に——いつの間にやら、こちら側の誰も気がつかない間に現れており、スタスタと歩いてきていたのだった。




