第6話 ②——「尋問——(という名の〝ひと睨み〟)」
私は、椅子に座って完全停止している二人組の〝停滞〟を解除する。
「——……っはぁっ?!」
「——……っぬぉっ!?」
「どうも、こんにちわ。お二人さん。ボクは夜叉姫。まず初めに言っておくけど、下手なことをしようとしたら容赦しないから、これから先の言動には細心の注意を払うようにしてね」
「っ、——……」
出鼻を挫くように私がそう言うと、さっそく何か言おうと口を開きかけた男の人の方が、ギリギリの所で声を出すのを止め、そのままゆっくりと口を閉じた。
「……よろしい。じゃあちょっと静かにしていてくれるかな、すぐに済むから」
そう言って私は、二人組の方の素性を調べるために、過去視の能力を使用する。
——魔眼系の過去視が一番使い勝手がいいのだけれど、アレは他の魔眼能力と干渉するから、〝停滞〟を解いてから使った方が無難なのだ。
さて、どれどれ……
『“魔公の瞳——追憶の魔眼”』
「「——ッ!?」」
両の瞳で過去視を発動し、二人をそれぞれ片目ずつで見据えることで、時系列にそって過去の出来事を垣間見ていく……。
ふむ、ふむ……。
なるほど——この二人が、政府から派遣されてきたというのは本当らしい。
目的は、私——というか、〝夜叉姫〟だ。
この——正体不明だが、かなりの実力を持つと思われる探索者に対して、いち早く接触するために、あらゆる手段を講じた結果……最終的にたどり着いたのが、日白ヒナの存在だった、と。
ああ、そうか……夜叉姫に接触しようにも、私ってそもそも正体不明だし、配信で使ってる動画サイトのアカウント以外には何も関連する痕跡が無いし、そのアカウントについても最近は放置してたから、まるっきり音信不通だったと。
——一応、あのアカウント宛てに、ちゃんとメールとか送ってたっぽいけど……
人が増えて一気に色々とメッセージとか来るようになったから、もう完全に無視するようにしてたんだよね。
とはいえ、政府からの正式なオファーがあんなとこに送られているとか思わんから、仮に見ていたとしても、結局は偽物かイタズラと思って無視して放置してたような気しかしないけれどね……。
夜叉姫の正体は判ってないけれど、配信を遡れば、ラブちゃんが一番最初のチャンネル登録者だと気がつく。
しかも、ラブちゃんは私がチャンネルを開設したその日に、真っ先に登録している記念すべき登録者第一号だ。
となると、誰でもその可能性を疑う。
このアカウントの人物は、夜叉姫のリアルの知り合いなのではないか?
……ということを。
……そしてそれは、確かに間違っていない。
とはいえ、政府の方も確信があるわけじゃないので、とりあえずこうやってヒナに接触してみて、探りを入れるところだったみたいだ。
アカウントの売却がどうこうというのは、どうもただの名目だったようだ。……だとしても、もうちょいなんか他に無かったんかね。
まあいい……とりあえず、この二人はただの政府からの交渉役で、とにかく迅速に私とどうにかコンタクトが取りたいだけで、私やヒナに敵対する意思は無いということは分かった。
とはいえ、現状では別に、こちらが交渉の席についてあげる必要も義理も何もないのだけれど……
断りを入れるにしても、まずはもう一つの方をどうにかしておくか。
『“精神停止”』
いまだに〝停滞〟したままの四人組に精神系魔法を使い、意識を完全に飛ばして無力化する。
その後に〝停滞〟も解いてやれば……
ドサッドササッ——
四人まとめて床にくずおれる。
「「っ……?!」」
驚きつつも口を噤んでいる政府の二人組を尻目に、私は四人組の一人に無造作に近寄っていき、とりあえず過去視の魔眼を使ってみる——が……
ほう……プロテクトされてる。
——さっきの魔法で精神が止まってるから、これは本人の能力ではないはず。
となると、装備か、はたまた……
私は倒れ伏す四人組のことを軽く調べてみるが……すぐに気がつく。
ふむ……これ——下手に探ろうとしたら、トラップが発動して情報を隠滅する仕掛けになってるみたいね。
そして当然のように、隠滅される情報の中には、この四人組の身体や命そのものすら含まれている。
なるほどね……
まあ、やろうと思えば、トラップを無効化——あるいは破壊して、無理やり情報を抜き出すことも出来なくはない……とは思うけれど。
ただ、それをやってしまうとしたら、この四人は死ぬことになる。
別に、この四人がどうなろうが知ったことじゃないから、その点は気にしてないのけれど……問題は、ここがヒナの家の中だってこと。
まさか彼女の家の中で、人死になんて出すわけにはいかない。
もちろん、ヒナを守るためなら私は何だってするし、今さら人間の命を奪うことに躊躇するような私ではないけれど。
とはいえ……他でもないヒナの前で物騒なことをするのは避けたいと、そう思うくらいの分別は私だって持ち合わせている。
この四人組が私に匹敵する実力を持つとでもいうなら、悠長なことは言っていられないので、私だってなりふり構わずやる羽目になっただろうけれど……
現時点ではまだ、そこまでの相手ではないから、何が何でも探りを入れなきゃいけないわけでもない。
——この程度の手合いなら、何をしてこようが問題ない。
だとすれば、私が優先するのはヒナの気持ちだ。
彼女は私が人を相手に無闇に力を使うのを望まないから……コイツらに手を下すのは、私以外の誰かがいい。
そして、ちょうどいい候補が、すでにこの場にいる。
となると……さて、どうやら交渉をしなければいけない義理が生まれてしまったようだ。
苦手な話し合いに臨まなければいけないことに早くもウンザリしながらも……私は何とか口火を切ってみる。
「……君たち二人は、この四人組について、何か知ってる?」
「……っ、い、いえ、何も……分かりません、です」
「そう……。二人は政府の使いとして、ボクと交渉しに来たんだよね?」
「え、えっと……そ、そうですね」
「ああ、でも、本格的な交渉の前に、まずはボクの実力をちゃんと確認しておきたいんだったっけ?」
「っ!? ど、どうしてそれを……?!」
過去視で観た内容を言われて、男の人は動揺する。
配信の映像だけじゃ、やはりどうしても確信に欠けるから、交渉するにしても先に実力をちゃんと確認したいという話は分かる。
分かるけれど……さて、どうするか。
私が話をどう進めるか悩んでいたら……その時、ヒナが口を挟んできた。
「……ついにこの時が来たのね。——ええ、何となく、どういう話の流れなのかは分かったわ。ねえ、夜ちゃん。ここからの話し合い、私も混ぜてもらっていいかしら?」
「え、うん、全然いいよ。というか、もうラブちゃんがメインで話してくれた方が助かるくらいなんだけどね」
「そう? それならまあ、そうしてあげてもいいけれど」
「うん、お願い」
「なら、念のため、一つだけ確認しておくけど……夜ちゃんは、自分の実力が世間に知られても別に平気なのよね?」
「そうだよ? 配信とかしてる時点で、秘密にする気とかないよ」
「だよね。了解。それなら……この際だし、夜ちゃんのチャンネルがもっと成長するためにも、政府の人にも協力してもらいましょ。それでいい?」
「え、うん、いいんじゃない?」
「夜ちゃんの要望があるなら、何でも言ってよね」
「ボクは、別に……あ、そうだ。その四人組だけれど——」
「——っ!」
「……このままにされても邪魔だから、君たちの方で持っていってもらっていいかな?」
「あ……っと、は、はい。わ、分かりました」
「そんくらいかな。ボクからは。あとはラブちゃんに任せる」
「分かったわ。任せて。いい感じに話をつけてあげるから」
「ふふ、ありがと」
「ふふん、いいのよ」
なんて頼もしい……さすがはヒナ。
ダンジョン探索以外に何の取り柄もない私と違って、そつなく何でもこなせる彼女なら、政府との交渉だって難なくこなしちゃうよね。
そうは言っても一応、私もちゃんと、この二人が——私が来る前にやってたみたいに、政府の肩書きを前面に出してちょっと威圧的に凄んでみせて、ヒナに有無を言わせないような交渉と言う名の軽い脅迫とかしないように……後ろで睨みを効かせるくらいはしておくつもりだ。
まあ……私の登場からの一連の流れを経た今となっては、すでに可哀想なくらいに怯えて及び腰になっている様子を見るに、ほとんど必要なさそうだけれどね。




