第6話 【がちバズ】動き出す組織たち
「それで……いつになったら次の配信やるのよ、ヨル」
「いや、それなんだけれど……」
大親友のラブちゃん——ではなく、ヒナの家の彼女の部屋にて。
「まさか……パイオニーアがあんなこと言ったせいで、本格的にバズって登録者数がいよいよ10万の大台に乗ったから、それにビビっていよいよ配信を辞めたいだなんて、そんなこと言わないわよね?」
「……」
「え、まさか、本当に……?」
「いや、それは無いけど……」
私はここ最近悩んでいること——すなわち、夜叉姫チャンネルがバズって人が増えまくっていることについて、ヒナに相談していた。
「そう……なら、続けるつもりはあるのね?」
「うん、まあ。辞める気はないよ」
「それじゃあ——」
「でも、さすがに人が増えすぎてて、なんか怖いから……ほとぼりが冷めるまで、新しい配信は控えようかなって……」
「——はぁ?」
「思ってるんだけれど……」
「……いやいや、意味が分からないでしょ。というか、どれだけ待つつもりなのよ?」
「人の噂も何十日と言うので……」
「うろ覚え……って、本気? 本気で二ヶ月以上も放置するっていうの?」
「ダメかな?」
「ダメというか……あんまり放置し過ぎたら、それはそれで変な噂とか立って、余計に話が拗れるかもよ?」
「えぇ? 拗れるって、どんな風に?」
「それは分からないけれど……でも、例えば——夜叉姫の正体を知りたい人が、あの手この手でアンタのことを探り始めたりとか……するかも?」
「ええぇ……?」
少し前まで、登録者数が1万を超えたとか言って騒いでいたと思ったら、あれよあれよといううちに、もう一つ桁が増えてしまった。
しかもいまだに、登録者数はジワジワと伸び続けている……
そのことに恐れ慄いているうちに、完全にタイミングを逃してしまい……あれからすでに数日経った今日に至るまで、私は次なる配信を始めることが出来ないままでいた。
「放置するのは悪手よ。怖気づいてしまう気持ちも分かるけど……辞めるつもりが無いんだったら、そろそろ覚悟を決めなさいな」
「ううぅ……」
「だいたい……あれだけダンジョンを平気な顔して攻略しているのに、今さら何に怯えているのよ……?」
「モンスターなんかより、たくさんの人間の方が、よっぽど怖いよ……」
「ヨル……」
「モンスターなら殺せばいいだけだもん」
「……ヨル」
「冗談だよ」
呆れた顔のヒナに、そう言って笑う私。
とはいえ、たくさんの人が怖い——というか、苦手というのは本心だ。
その辺は性格というか、生まれ持った気質だから……探索者として力をつけた今でも大して変わらない。
「しょうがないわね……だったら、私が秘策を授けてあげるわ」
「え、何? 秘策……?」
「そう、秘策。これを使えば——まあ、アンタの気の持ちよう次第ではあるけれど——増えた視聴者をほとんど気にせずに、今まで通りに、お馴染みのメンバーだけを相手にして配信をすることができるわよ」
「な、何それっ、本当に? そ、そんなことが……っ?!」
「どう? それならいけるんじゃない? 実質的に、今まで通りのメンツで配信できるなら——やることは今までと一緒なんだから、それなら出来るでしょ?」
「……出来る、出来るよ! それなら私にも出来る! と思う! たぶん、おそらく……」
「ちょっと、速攻で自信無くさないで。せっかくアンタのために考えたんだから……この秘策で、もう一度、私にアンタの配信を観させてよ」
「ら——ヒナ……」
「ちょっと、今ラブちゃんって言おうとしたでしょ」
「……ぼ、ボクやるよ! だ、だから秘策を教えて! 早く!」
「……まあいいけど。てか、慌てるあまりにアンタいま、ちょっとやしゃ——」
ピンポーン。
「——ん、誰かしら。ごめん、ちょっと出てくるわ」
「あ、うん」
いいところだったけどインターホンが鳴ったので、ヒナは私に一言断ってから部屋を出ていくと、階段を降りて玄関へと向かっていく。
「……」
まだかな……
宅配の受け取りか何かですぐ終わるかと思っていたのに、なかなか戻ってこない。
「……?」
知り合いでも来たんだろうか。
——ここはヒナの自室だし、無いとは思うけれど……
家に上がってきた人と鉢合わせるのも気まずいし、念のため気配消しとこ……
スンッ……
「……」
長いな……
どうやら完全に、家に上がり込んで長話でもしてるっぽいぞ。
盗み聞くつもりは無いけど、うっすらと階下から話し声が聞こえてくるし……
あー、どうしよう、立て込んでるならこのまま居てもアレだし、なんなら私、帰った方がいいかな?
——まあ、来ようと思えば、いつでもすぐに来れるし。
玄関に靴を置いてきちゃったけど、私なら窓からでもこっそり帰れるし……
なんて思っていたら——唐突に、こちらに向かって接近してくる不穏な気配を察知した。
——ッ!
瞬間、私は即座に臨戦態勢になると、一瞬で〝夜叉姫〟装備に換装し、すぐさま周囲の状況を(こっそり)探る。
一階の部屋に、ヒナと向かい合うようにして座って話している、男女二人組の来客。
そして、玄関からは——今まさに、何者かが気配を消しつつ、この家の中に侵入してきている。
数は四人。全員が魔力反応あり。——探索者だ。それも、なかなかの手練揃いのよう。
まあ、〝夜叉姫〟には遠く及ばないけれど。
その四人組が、ヒナたちの居る部屋のドアを開ける——それと同時に、私はヒナのすぐ隣に転移する。
『“刻印転移”』
シュン——シュパ!
「「「「——ッ!!??」」」」
ヒナのすぐ側に現れた私は——部屋のドアから、今まさに突入してきた謎の四人組を含めた——その場にいる自分とヒナ以外のすべての人間の動きを止める。
『“魔王の瞳——停滞の魔眼”』
ギンッ——!
睨みつけた瞳から、金色の光と魔王の力を放って。
ピタッ——……。
目の前の六人の動きが——まるで時が止まっているかのように——ほぼ完全に静止する。
——それこそ、突入してきた四人組の中には、とっさに宙に飛び上がった拍子に止められたので、空中に静止している者すらいる。
そんな〝停滞〟中の面々を尻目に……私はヒナ——ではなく、ラブちゃんを落ち着かせるように、ゆっくりと話しかける。
「お待たせ、ラブちゃん。あなたの夜叉姫が、危機を察知して颯爽と馳せ参じたよ」
「っ……夜——夜叉姫、き、来てくれたのね」
「うん、だからもう安心していいよ。ボクが感知した不審者は、ひとまずはコイツらだけだったから。まあ、他にもどこかにいる可能性はあるけれど……何が出てきてもボクが守護るからね」
「う、うん……ありがとう、夜ちゃん」
私の感知には、他に引っかかるものはない。それは確かだ。
しかし、すでに録音機器やら監視カメラを仕掛けられている可能性はある。
そう言った電子機器すら、すべて感知できるかというと……さすがにそこまでは断言できない。
なので念のため、私はこの場では〝夜叉姫〟として振る舞うことにした。
——ヒナならきっと、私の含みを持たせた話振りで察してくれると思っていたけれど、すぐに合わせてくれたのはさすがだ。
ほんのわずかな油断が、すべてを失わせる……その教訓は、ダンジョンで嫌と言うほど身についている。わずかな隙すら見せるつもりはない。
「さて、それで……この四人組の闖入者はともかくとして、こっちの二人は誰なのかな? 敵? 殺す?」
「……味方——ではないけれど、敵でもないわ。……多分ね。なんか……政府の人だって。本当かは分からないけれど、でも嘘でも無さそうだった」
「政府……? ——が、いったい何の用なの?」
「それが……あなたに——夜叉姫にコンタクトを取りたいけれど、連絡先が分からないから、もし何か知っているなら教えてくれないかって、そう言われて……」
「……言われて?」
「何も知らないなら、チャンネルを通して夜叉姫に接触するしかないから……あのアカウントを売ってくれないかって」
「アカウントって、ラブちゃんの?」
「うん、そう」
「えぇ? 何それ? そんなこと言われても、断るしかないよね? 断ったんでしょ?」
「いや、それが——なんか、断れる雰囲気じゃなかったというか……」
「え?」
「そもそも、断らせる気がなさそうだった、というか……」
「……はぁ?」
私は思わずギロリと二人組を睨みつけて……しかし何の反応も無いので、眉間にシワを寄せつつ〝停滞〟を解除した。




