第20話 ③——「課外授業で、ダンジョン学習」
教室の端、窓際の一番後ろという、私のいつもの(特等)席にて。
——さーて……平日の放課後に行うコラボ配信も、今日でもう三日目か。
——あんまり時間は取れないし、色々と慌ただしくもあるんだけれど……でもこれはこれで、なんだか部活動でもやっているみたいな感じで悪くない……かも。まあ、私は部活なんてやったことないんだけれど。
——だけどそれも、もうあと少しでいよいよ終わるんだよなぁ……クライマックスをどうするかも考えないとなんだけど、その辺を抜きにしても……いよいよソラとのコラボが終わってしまうんだと思うと、なんとも……
——なんやかんや、ソラと一緒に探索するのは、とても楽しかったから……このまま、あと少しで終わってしまうのが、すごく寂しいと思うくらいには、ね……
なんてことを——今日の最後の授業を次に控えた、小休憩の時間に——つらつらと考えていたら……
キーンコーンカーンコーン——
「ほらチャイムなったぞ〜、お前ら席つけ席〜」
「え、なんでさなっち? つぎ社会ぢゃね? 竹原は?」
「おい呼び捨て〜、先生と呼べ〜。えー、今日は社会の竹原先生がお休みなので……時間割を変更して、この時間は、課外授業としてのダンジョン学習をやっていきます。じゃあ日直、号令」
「起立、気をつけ、礼……着席」
チャイムと共に入ってきたのは、予想していなかった意外な人物だった。
——へぇ、竹原は休みか……それはいいんだけれど、代わりに担任の真田先生がダンジョン学習って?
社会の授業なら、適当に考え事してて良かったんだけれど……ダンジョン学習って何すんだろ——よく分からんし、一応ちゃんと聞いておくかー。
「つーか、竹原休みなら自習でよくね? なんで、さなっちが課外授業?」
「授業中は先生、な? ——いやいや、自習とかしても、どうせお喋りするだけだろ、お前ら。まあそれに、ダンジョン学習にはノルマがあるから、こうして適当なタイミングでやっておくの」
「先生、ダンジョン学習ってー……何すんの?」
「そのまんまだよ。去年もやってるだろー? 私たちの生活に大きな影響を与えるダンジョンについての知識を深めましょうっていう——そういうアレだよ」
「あー、りょ。そーいうアレね」
ああ、なんかあったっけな、そんなやつ。
まあ、ゴリゴリの探索者である私からすれば、いまさらダンジョンについて学ぶも何も無いんだけれど……探索者でもない一般人からすると、ダンジョンって特に関わりもないからねぇ。
だからこうやって、学校でもたまに専用の時間とか取って教えたりするって——そういうアレがあるんだったっけな。
「じゃあ、まず歴史からな。えー、約半世紀前に、ダンジョンは突如として世界中に出現したわけだが……その後、世界は大きく変わっていきました。では、具体的に、どんな変化があったのか。分かる人ー?」
「あれやん、魔石によるエネルギー革命でしょ? これは簡単」
「え、西暦から聖暦に変わったとかじゃなくて?」
「男なら、ここは第四軍の設立一択やな」
「いや、その前に第三次世界大戦だろ?」
「おお〜、けっこうみんな、スラスラ答えられるんだな。先生ちょっと驚いたぞ。まあ大体それ全部、正解。
じゃあ次は、少し踏み込んで……そうね、第三次世界大戦。これは、ダンジョン出現黎明期からしばらく経った頃に、スタンピードが世界中で同時多発的に発生した際の混乱から戦禍が広がっていったと言われているが……この時、我が国を他国の侵略軍から守るために多大なる活躍をした、教科書にも載っている今もなお現役の偉人については——みんな知ってるよな?
その人物は——当時、まだ第四防衛軍が組織される前には——陸軍の一兵卒だったが、その後、〝第四〟発足後はそちらに所属し、現在は第四界軍の大将にまでなった……人呼んで〝極東の守護神〟の異名を持つ、この人物の名前を……速見、答えよ」
「え、オレ? なんでオレ?」
「なぜってお前、一応は探索者だろー? ってか、こんなん普通に常識だし、サービス問題だぞー?」
「いやいや、答えは分かるっすよ。——神風大将でしょ。ただ、なんでオレが当てられたんかなって思っただけで……いや、探索者とか関係あります? ってか、一応って酷くないすか? これでもオレ、最速の中二で始めたから、すでに三年越え選手なのに」
「——え、でもハヤミン、まだ初級なんだよね?」
「いや、そーだけど……いやいや普通そんなもんだぜ? 高校生——ってか、未成年なら初級で当然ぞ?」
「えーでも、最近話題のソラちゃんとか、高校生だけど中級だし……ってか、もうすぐ上級になるんじゃなかったっけ?」
「いやいや、それは例えがおかしいから! あの子——ソラちゃんって、いうてたいがいヤベェからね?」
「マジ? そーなん? じゃあさ——」
「おいこら私語禁止〜! 一応、授業中だぞー」
「ウケる、一応てセンセ」
「でもダンジョン学習なら関係あるくないっすかー? これも一応、ダンジョンの配信の話なんでー」
「お前ら……そんなこと言って、今話題の配信の話をしたいだけだろー」
「まあぶっちゃけそれはある」
「せやけど先生、いうて僕らも歴史の授業とか真面目に受けてるんで、その辺はもう十分知ってるんすよ。だから、せっかくダンジョンの授業するなら、もっと別の話がしたいかもってゆうかー」
「お前らなぁ……で、なんだよ? 別の話って」
……わービックリしたぁ〜。
まさか授業中に、私のコラボ配信の話が出てくるとは思ってなかったから……嬉しさ半分、驚き半分ってところじゃん。
——とはいえ、それもすぐに話が変わったみたいね……ホッとしたような、少しだけ残念なような。
——にしても、陽キャ連中ってヤバいよな。普通の授業とは違う感じのアレとはいえ、授業中に普通にお互いに喋るんだからさ……陰キャな私からしたら、信じられん自由さだわ。
ともかく、歴史の授業よりは、なかなか面白そうな話になってきたじゃないの。
「そりゃー先生、やっぱアレっすわ。——ぶっちゃけ、探索者ってどれくらい儲かるのか、みたいな……そういう話っす」
「おいおい、金の話かい」
「お金は大事っすよ〜先生ぇ〜」
「いやてかウチもそれ知りたいっす、先生!」
「んー、そう言われてもなぁ……じゃあ、速見。現役探索者のお前が教えてあげたらどうだ?」
「オレすか?! またすか!?」
「さっき私語した罰だよ。なんだ、嫌なのか?」
「いやアレは、アイツが話しかけてきたから——まあ、いいっすけど。でもオレ、ゆうて初級っすよ?」
「それでも現役なんだから、それなりには詳しいだろ?」
「いやぁ……ってか、それを言うなら、先生だって探索者してたんですよね?」
「え、マジ?」
「さなっち探索者なの?」
「元な、元。大学時代に、サークル活動で少しだけやってたんだが……言ってなかったか?」
「えー初耳っす」
「なら、さなっちってギフト持ち? え、マジ? どんな能力? 気になる!」
「ギフトは持ってるが……秘密な」
「えーケチー」
「言っておくが、探索者に能力を訊くのは割とマナー違反だからな。中には敏感なヤツもいるから、トラブルになりたくなければ気をつけるように」
「え、マジ?」
「でもハヤミンとか、自分から自慢してたくね?」
「別にいいだろ。悪いかよー?」
「まあ、人によるってことだな。だから、初対面で真っ先に訊ねるのはやめておけってことだ」
すごいな……授業とか言いつつ、完全に雑談の時間になってるわ。
——まあ、元々が休んだ教師の代理で、自習だったのを適当に穴埋めしただけみたいな感じだったし……そんなもんか。
にしても、さっきから話が飛びまくりで、全然まともに進行してなくてヤバいわ。
——私って、こういうハイスピードな話題の転換についていけないんだよなー、そもそもコミュ障だから……
まったく、これだから陽キャって連中は……コミュ力おばけどもめ。
「——で、実際のところ、どーなん? 探索者ってどんくらい稼げるんすか? 速見センセ?」
「んー、まあ……他の適当なバイトとかに比べたら、やっぱ断然稼げると思うぜ? 初級でもな」
「へー、どんくらい?」
「まあ……少なくとも、いつもお前らに奢ってやっても全然平気なくらいには、な」
「おお、その節は……いつもゴチになってます!」
「いよっ、ハヤミン太っ腹!」
「また今度もよろしく!」
「はぁ……こういう時だけ調子いいよなぁ、お前ら」
「……言っておくが、上層を探索している初級探索者でも、命懸けなんだからな? ほどほどにしておけよ」
「いやぁ、ちゃんと感謝してるっすよ」
「そうそう、その分ちゃんとお礼に——他校の女子と遊ぶ時は、いつもハヤミンをそれとなくヨイショしてあげてるから。な?」
「おまっ、今それ言うなよっ……!」
「うーわ、ハヤミン……それ、マジでダサいよ?」
「つーか男子ってサイテー」
「はぁ……心配して損した気分だな。というか——先生役として指名する相手を間違えたか」
そう言って真田先生は、なぜか私の方を見てくる。
いや、なぜというか、私も探索者だからか——って、まさか、今度は私に当てようってんじゃないよね?
ちょ、まっ——そんな、心の準備がっ……!
『“真眼の瞳”』
その時——先生が持ち前の魔眼の能力を使い、私のことを見てきたので……
これ見よがしに——私は焦った感情を乗せて、話しかけないでオーラを出しておく。
「……まあ、探索者も中級ともなれば、控えめに活動していても平均年収を軽く超えるくらい稼げるというし……上級までいけば、完全に成功者の部類だろうな。そして、特級ともなれば……もはや億万長者だ。なにせ、それこそ特級のポーションでも手に入れれば、オークションで天井知らずの値がつくというんだからな」
私の拒否感をしっかりと見て取ったのか、先生は私に話を振ることなく、自分でそう言って話を続けた。
——ほっ……助かった。
つーか、魔眼なんて使わなくても、私が授業中に当てられることが苦手だってくらい分かってくれてると思うんだけどなぁ……探索者の話だからいけると思われたんかなー。別に、そんなん関係ないんだけどな……コミュ障的には。
「とはいえ、さっきも言ったが、探索者は命懸けだから、成り手はそう多くない。だからまあ、私という元も含めたら、同じ教室に探索者が三人もいるってのは、だいぶ珍しいことだぞ。というか普通、学生探索者は探索者専門学校とかに行くもんだからな……こんな普通高校には来ないんだが」
「で、なんでオレを見て言うんですか? いやオレは——あの頃はまだ、探高行くほどガチじゃなかったってゆーか……まあ今でもすけど、ぶっちゃけ、エンジョイ勢なんで」
「え、三人? あ、そーか。そういや——黒月さんも、探索者なんだよね?」
「——っ!」
その時いきなり、すぐ前の席のギャル——ではなく、軽沢さんが、こちらに振り返って話しかけてきたので、めっちゃビビる。
「そっか、そーじゃん。え、じゃあさ——ねぇねぇ、黒月さんって、ギフト……は、訊いちゃダメなんだっけ? あ、じゃあ、アレは? 初級とか中級とか言うヤツ。黒月さんは、どれなん?」
「…………えっと、私の——探索者としての等級を訊いてるの?」
「等級……そうそれ! ハヤミンは初級でしょ? 黒月さんは? 黒月さんも初級〜?」
「いや、私は……一応、上級だけれど」
「へー、上級……っえ!? 上級!? マジ?? それって……凄くね?!」
陽の者であるところのギャルが、驚きを露わにしてめっちゃ大声で喋るので——小声で答えた私の声はともかく——彼女の声は、クラス中のみんなに聞こえたことだろう。
その証拠に……
「え、上級? マジ?」
「上級って……普通にヤバいんじゃないのけ?」
「さっき先生、上級は成功者って——なら、黒月さんって……高校生にして、すでに成功者ってコト!?」
「ヤバ……てかすご、黒月さんの探索者等級とか初めて聞いた」
「わ、わ……ぶっちゃけ、いくら稼いでんだろ、気になるっ」
「なんだろう……黒月さんの上級に比べたら、ハヤミンの初級とか、もはやカスやん」
「おい誰だよ今の言ったヤツっ……てかマジか、黒月さん上級ってマ?! え、普通に尊敬すんだけど。——てか上級何位?? さすがに下位か? まさか、中位ってんじゃないよな……??」
なんて感じに、にわかに教室内が湧き立っていき……さらには、
「え、ヤバ! 普通に見落としてたわ、こんな近くに凄い人がおった! うぉーテンション上がるわ! ね、ね、黒月さん! ウチさ、実はさ、色々と相談したいコトが——」
目の前のギャルがグイグイ詰め寄ってきて、いよいよヤバいぞと思ったところで——
「しーずーかーに〜! おいお前ら、いま授業中〜! 私語は慎め〜。——あと軽沢! 黒月が困ってんだろ、てか後ろ向くな! ちゃんと前向け」
「——あ、ハーイ……すません」
た、助かった……
——まあ、私も別に自分が探索者だって学校で隠してるわけではないんだけれど……とはいえ、元はと言えば、先生がうっかり「ここには探索者が三人いる」とか言わなきゃ、普段から影の薄い陰キャな私にこんな注目が集まる事態にはなっていなかったハズなんだけれど……
もちろん一番の原因は目の前のギャルなんだけれど、その前に先生が要らんこと言ったのが原因の一端ではあるんだから……そこはちゃんと、責任取って場を収めてもらわんとね……
「まあ、黒月に話を聞きたいなら、放課後にでも改めて頼むんだな」
「うっす! ——じゃあ放課後、よろしくね、黒月さん!」
「…………へっ?」
……なんでやねん!
おいこら、担任教師!
そういうことじゃないんだけれど!?




