第20話 ④——「相談を受けたことの……相談?笑」
「まずウチさぁ……ガチめに探索者になりたいなぁって思ってるんだけどぉ、相談、乗ってくんない?」
帰りのHRが終わり、下校時間になった途端——すなわち、放課後になった瞬間に、有言実行とばかりに、前の席のギャルが話かけてきた。
「っ?! 聞こえたぞギャル沢、探索者やるって……マジか?」
「探索者の黒月に相談とかいうから、まさかとは思ったが……ギャル——じゃない、軽沢、お前、本気なのか?」
そしてなぜか——クラスメイトで私と同じ探索者の速見君と、担任の先生で元探索者らしい真田先生の二人までこちらにやってきて、窓際にある私たちの席を取り囲むように並んで位置取ると、矢継ぎ早に話しかけてくる。
「いやこれガチだからねセンセ。でさぁ——ま、そうは言っても、ぶっちゃけ探索者のコトとかウチ全然知らんしぃ、だから誰かに相談しようと思ってたんやけどぉ……まあ最悪は、ハヤミンに訊くしかないかぁって思ってたところで……まさかの、黒月さんが上級っていうから——しかも真後ろの席だし! ヤバまぢ運命じゃね? って思ったしぃ——これはもう、相談相手決まったな、っつーかんじ?」
「おい待て、なんでそれでオレが最悪のパターンになるんだよ!?」
「え、だってハヤミンって初級なんっしょ? んな、初心者に相談しても……ってなるやん?」
「おまっ、初級は別に初心者って意味じゃねーよ! オレとか軽く三年以上やってんだから、もうほぼベテランだからな?」
「——ん、いや、ベテランは言い過ぎじゃないか? 速見」
「え、なのに初級なん? いやいや、初級のベテランって何? 意味分からんくね?」
「はぁ……これだから素人は。いいか、言っとくけどなぁ、探索者人口の八割くらいは初級って話だからな?」
「は? マジ? え、そーなん先生?」
「ん、そうだな……実際、そんなもんらしいぞ。ほとんどの探索者は、〝中層の壁〟——すなわち、中級に上がるための最後の関門である、上層の終界主を倒すことができずに、初級のままで終わるものだからな。それこそ……かくいう私も、現役時代はエンドボスはおろか、その手前である上層中域のエリアボスすら倒せずに引退した口だからなぁ」
「えー、マジ? んー……じゃあさ、上層クリアして中級になれてる時点で、実はけっこうスゴイってコト?」
「そうだぞー。なろうと思えば、探索者には誰でもなれるが……中級以上になれるのは、その中でも才能がある者か——そうでなければ、よっぽど努力した者だけだろうな」
「マジかー……才能かぁ」
「そして……上級ともなれば、才能だけでは無理だ。才能がある上で、さらに努力を重ねた者でなければ……〝下層の壁〟は突破できないだろうな」
「はあぁ……ナルホド」
「ですよねぇ……だからこそ黒月さんは、マジでスゴイっていうか、もはや尊敬するレベルってゆーか」
「っ……」
「そういう意味では——確かに、私や速見よりも、黒月に相談する方が理にかなっているとは思うが……」
そこで先生は——わりと当事者のはずなのに、さっきから一切口を挟めずに黙ったままだった私を一瞥して……陽キャの高速トークに圧倒されていた私が、しかしここでも何も言わないのを見てとると、視線をギャルへと戻してから続ける。
「クラスメイトだし、あまり意識していないんだろうが……上級探索者ってのは、お前たちが思っている以上に凄いし、探索者の中でも相当の上澄みだと言っていい存在だ。つまり、何が言いたいのかと言うと……普通なら、上級探索者に〝依頼〟するとなると、それ相応の報酬を用意しなければならない——ということでな……要は、クラスメイトの誼で済ませられるほど、上級の肩書きは軽くないってことなんだよ」
「うぉ、え、マジ? そんなに?」
「ああ、確かに……言われてみれば、そうっすよね。初級のオレなんかからすれば、まるで縁のない話っすけど……上級ともなれば、指名依頼とかも普通にくるんでしょうし。ぶっちゃけ、上級に依頼する金額の相場とか、マジで桁違いだって聞いたことあるっすわ」
「中級の時点でも、専業で十分に探索者をやっていけるくらい稼げるが……それが上級ともなれば、もはや一流のプロだ。そしてプロは、自分の技術を安売りしたりしないし——プロの時間を奪うなら、それ相応の対価を払う必要がある。
なぜなら……黒月に時間を使ってもらうということは——同じ時間で、黒月がダンジョンに潜ったら稼げていたであろう金額を奪っているにも等しい、とも言えるわけだからな。であれば当然、それに見合う対価を払うのが筋ってことになるだろう」
「あー……なるほど。え、じゃあ、ちなみに——黒月さん、アナタの探索者の時給とかって、いくらかとか訊いてもヨロシ?」
「き、訊いちゃっていいのかそれ? ——いやまあ、オレも気になるけど……」
そう言ってこちらを見つめてくる、ギャルと陽キャ男子……いや待て待て。
まだ一言も口をきいてないのに、なんで最初に私が答えるのが、よりにもよって時給の話になるんだよ……おかしいだろっ!
もっとこう……あるだろ、先に訊かなきゃというか、言うべきことみたいなのがさぁ……!
……とかって思っていても——いやそれ以前に、教室の中でこんなに注目されながら話すとか、普通に無理なんだけれど……
——だって普通に、ギャルたち以外にもクラスメイトがめっちゃこっち見て聞き耳立ててんだもん……そんなん普通に無理ぃ……!
——夜叉姫状態なら平気で配信すら出来るけど……マジで自慢じゃないが、素の状態じゃ私は、クソ雑魚ナメクジ陰キャコミュ障なんだよ……!
つーかそもそも、私これから普通に用事あるし……話している暇とかないんよねー。
って言いたいんだけれど……言い出せないよぉ……
だって私……人と話すの苦手なんだもん!!!(心の叫び)
「……いや、二人とも、私の話を聞いていたか? 放課後になった時点で、こうして黒月を引き留めるのは、すでに探索者活動の邪魔になっている——かもしれない、って話なんだが……
まあ、担任の私としては——黒月にはもう少し、クラスメイトとも関わりを持ってほしいと思うから……その、こうして様子を見にきているわけだが……
しかし、黒月本人が、高校生である前に探索者である——とでも言うなら……私としても、これ以上は無理強いはできん。まだ未成年とはいえ上級探索者なら、ある意味では、すでに社会人みたいなものだからな。
だからまあ……その辺、どうなんだ? 黒月。ってかお前、放課後は予定とか入ってるのか? なんだか、さっきからソワソワしてるように見えるが」
「っ! ……えっと、その、実は……そうなんですよ。今日は普通に、予定が入ってて……」
「え、マジ? なら引き留めちゃったのマジごめんじゃね? ってか、それならそうと先に言っといてくれれば……あーいや、ウチは別に、いつでもいいからさー、時間空いてる時で」
「あ、まだ相談する気なんか……ギャル沢お前、さすがの厚かましさだな」
「ハヤミンそれ、褒めてなくね?」
「ああ」
「ああ、て……いや別に、無理なら無理でいいケドさ? でもまずは、相談していいかのー、相談? ……くらいはしても良くね?」
「まあ、それくらいはな……どうだ、黒月? 近々、空いてる時間とかあるか? なんなら、先生もその場に立ち会って、一緒に話を聞いてもいいが……一応、これでも元探索者だし、担任教師だしな」
「あ、じゃあオレは? オレもぶっちゃけ、黒月さんに色々と訊きたいってゆーか……上級と話せる機会とか貴重だし、なんならオレも相談したいくらいなんすけど——ど、どっすか?」
「ハヤミンも? ってか、誰に訊いてんのそれ? ウチ? 黒月さん?」
「え? まあ……両方?」
「……あー、無理ならハッキリと断っていいぞ、黒月。上級なら、それこそ依頼とかで忙しい場合なんかも、普通にあるだろうしな」
「…………いえ、まあ……まずは話を聞くくらいなら、別に……その、今日は無理なんですけど、後日……とかなら……まあ……」
「ん、そうか? いつの放課後なら空いてるんだ?」
「あ、いや……放課後は、しばらく予定が埋まってるので……えっ、と……そう、ですね……だからその、昼休みとかの方が、いい……かも、ですね」
「それは……明日とかでもか?」
「……あ、はい、大丈夫です……たぶん」
「ん、おけ! じゃあ明日の昼休みに、また改めて——ってことで! よろっす!」
「っす、オレもよろしくっす、黒月さん」
「明日だな……先生も参加していいか?」
「あ、はい。……あ、あと……他にもう一人、参加してもらう人がいるかも……ですけど……いいですか?」
「ん、そりゃ構わんが……」
「じゃ、じゃあ……そういうことで……すみません——急ぐので、今日はこれで失礼します……」
「うぃ〜あんがとね、黒月さん! んじゃ、また明日〜!」
「……っす——さ、さようなら……」
「おっす、バイバーイ〜」
「ん、じゃあね〜。あと、明日はオレもよろしく!」
「気をつけて帰れよー。って、上級探索者には要らぬ心配だったか——?」
ギャルの元気のいい声を筆頭に、陽キャ男子や先生からもかけられる一声を背中に受けつつ——帰り際に挨拶されることに慣れず、なんだかやたらに恐縮しながらも——私はそそくさと教室を後にする……
なんか……流れで——というか、流されて——相談を受けることになっちゃったな……
いやぁ……いやいやいや、え、マジ? ……どーしよ?
そんな、相談とかされても……こちとら、相談以前にまともな会話すら覚束ないコミュ障陰キャなんですが……??
——むしろ私が、相談を受けることを誰かに相談したいくらいなんだけれど……?!
ん、まあ……そんなことは分かりきっていたからこそ、なんとか一つの条件だけは、どうにか捩じ込んでみせたわけだけれど……
さて……事ここに至っては、私が頼れるのは、もはや一人しかいない……
——いつも陽菜と一緒にお昼を食べている空き教室……あそこなら、さっきよりは落ち着いて話せるはず……
そう、頼れるマネージャーであるヒナが隣にいてくれるなら、陽キャ全開のイケイケギャルや、パリピ系ウェーイ男子が相手だろうが、何も問題はない……きっと大丈夫……!
……つーわけで、そういうことになっちゃったよ——って報告も兼ねて……
早いとこヒナに泣きついてしまおう、そうしよう——
なんて……後ろ向きな決意を早々に固める私なのだった。




