第20話 ②——「砂漠のスピード狂たぁ、オイラのことよ!」
もはや果てが見えないほどに、ひたすら広大な砂漠を軽快に駆けていく——ラクダ型のモンスターである〝砂駱駝〟の背に、すでにソラと二人して乗った状態で……今日の配信を始めていく。
「やあ、みんな。馬上ならぬ駱駝上から、ごきげんよう。いきなりだけど、今日はこのまま、次の目標である〝砂迅土竜〟のところまで行こうと思ってるから、よろしく〜」
〈ニートの無職ん:開幕からラクダらしからぬ速度で爆走してて草〉
〈もっこり助兵衛:ぬぅぅっ! マジで馬も顔負けな速度で砂漠を走って……スカートも盛大にヒラヒラしてるのにっ、肝心のパンチラがっ、ギリギリで見えないぃ! あぁ、手強すぎるよ、やっきゅん……。んんんんでも! 昨日はついぞ拝めなかったけどっ、今日こそはっ……!!〉
〈やがてファンになる:有志による検証班がさっそく、昨日のアーカイブを念入りに見返したらしいのですが……肝心のパンチラは、ついぞ確認できなかったとの、無念の報告でした……なので、今日の続報に期待します!笑〉
配信を始めるなり、さっそく昨日の(それも、一部の)内容を振り返るようなコメントが目に入ってきた。
——昨日に引き続いて、今日もやってるよ……
その執念には、もはや呆れを通り越して軽く感心しつつも……私は昨日の配信のことを思い返す。
この〈第三区〉に入った初日の配信だった昨日は、最初に移動の足となるモンスターを確保しようという方針を固めて、まずは砂駱駝を倒しにいこうとしたのだけれど……
思った以上に、砂漠での移動には時間を取られてしまったので……お目当ての砂駱駝をようやく見つけて、どうにか倒した時には、もう遅い時間になってしまっており……そのまま、そこで配信を終えることになったのだった。
なので昨日の配信は、その大部分が移動ばかりで、あとは途中で戦闘がちょこちょこ挟まるくらいの……言っちゃなんだけど、かなり地味な内容だったと自分でも思う。
ではそれで、リスナーからの反応も芳しくなかったのかというと……実は、全然そうではなく。
一部のリスナーたちから始まった、なにやら異常な熱気に当てられたように……なんだかどんどん、異様な盛り上がりを見せていた。
それこそ、ウチのオリメンである、もこ助を筆頭にした——〝パンチラ見隊〟と私が(脳内で)勝手に名付けた——ソイツらが……戦闘中とかに、私のスカートがヒラヒラするたびに異様に盛り上がるものだから……気がついた時には、なんだか一種のお祭りみたいな雰囲気になっていたのだ。
退屈な徒歩での移動中は、早く次のモンスター出てきてくれと、敵の襲撃を待ちわびて……
そしていざ、モンスターが現れて戦闘になると……激しい戦闘に比例して、移動中とは比じゃないレベルで揺れ動く私のスカートの動きを目で追って——いま、見えたかっ?! いや、見えてない……!——なんて、一喜一憂するのである。
最初はパンチラに興味無かった人たちも、次第に悪ノリするように、その流れに乗っかっていったので……最終的には、みんなして私のスカートが捲れることを祈るという異常事態になっていた。
もはやそこまでいくと……私としても、そのノリに乗っかってあげないわけにはいかないので——
最後までしっかりと、スカートの中が配信に映らないように死守して、結局は一度もパンチラすることなく無事に戦い抜いてみせた。
するとみんなは、盛大にがっかりした——と思いきや、明日こそはパンチラが見れますようにと、むしろ次の配信を待ちわびている様子だったから……やはり、これで良かったんだなと私は思った。
——そりゃあ、簡単に見えてしまったら興醒めだろうからね……
配信を盛り上げるためには、私は何でもするつもりだから……今日もしっかりと、ギリギリを攻めていこうと思う。
「ふふっ——配信の画角には映っていませんでしたが、その場にいた私の目には、やっさんの魅惑のパンチラがバッチリ映っていましたけれどね……これが共演者の特権ですか、ふふ」
〈やが灰のファンである:したり顔のソラちゃんが、ぼくたちリスナーに対して謎のマウントを取ってきてて草なんだw〉
〈もっこり助兵衛:普通に羨ましすぎる……てか今も、バイクの二人乗りみたく、やっきゅんが後ろから抱きついてきてるし……やが灰お願い、そこ変わって?(白目)〉
なんて感じに、移動中は今日も適当な雑談をしつつ……
案の定、パンチラ見隊からは、ブーイングがきていたけれど——道中の戦闘は、極力避けるようにしながら……
私たちは、目的地に向かって一直線に進んでいった。
。
。
。
「——ん、来てるね……ソラ、例の爆弾を準備して」
「あ、はい——分かりました」
配信開始から移動を続けて、小一時間ばかり経って——。
本日の目標である、〝砂迅土竜〟の縄張りに入って、しばらく進んだところで……お目当ての相手が接近してきていたので、私はソラに声をかける。
すると、それに応じてソラが——天空城で手に入れた爆弾箱を使って、事前に作成しておいた——その爆弾……振動音響爆弾のスイッチを入れて起動すると、その辺に放り投げる。
カチッ——ポイッ——リィィィィィィン……
私たちの移動による振動を探知して、地中ならぬ砂中を猛スピードで迫ってきていたソイツ——砂迅土竜は……突然現れた、新たなる振動源に反応すると、すぐさまそちらへと標的を変え、猛然と襲いかかった。
ドッパァァァァンッッッ!!!
私たちが少し前に通り過ぎた、まさにその場所で——突如として盛大に砂が舞い上がると同時に、その怪物が姿を表す。
「今だよ、ソラ!」
「はい!」
地上へと飛び出してきた砂迅土竜が、その爬虫類じみた姿の巨体を空中に踊らせている——まさにその時に、ソラが(爆弾箱の機能の一つである)遠隔操作で、さっき投げた爆弾を起爆する。
ポチ——パァン——ギャイィィィィィィンンンッッッ!!!
すると、あたりに爆音が響き渡り——
ギシャァァァァァァァッッ……!!!
間近でそれを喰らった砂迅土竜が——敏感な聴覚に大打撃を受けて——一時的に行動不能になる。
その音量ときたら凄まじく、少しは離れた場所にいるこちらにも、爆音に空気が震える衝撃が伝わってくるほどだったけれど……事前に妖精ちゃんの魔法などで防音対策していた私たちには、なんの問題もない。
「さ、今のうちに距離を稼ぐよ」
「了解です!」
砂の上でのたうつ砂迅土竜を尻目に、私たちは颯爽とラクダを駆って〝とある地点〟を目指す。
しかし、相手である砂迅土竜も、中ボスと言えるくらいには強敵であるからにして、行動不能も長くは続かず……しばらくしたら、また砂に潜ってからの高速移動を開始し、こちらを目がけて一瞬で距離を詰めてくる。
とはいえ、有効な対処法はすでに用意してあるので……近づいてくるたびに、さっきのように爆弾を使えば、同じことの繰り返しで安全に距離を稼げる。
——さすがに、何度も同じことを繰り返せば、そのうちに学習されそうだけれど……むしろ、何度もしてやられて怒っているのか、はたまた、聴覚に頼って索敵している以上、大きな音を出している爆弾を無視して私たちを狙えないのか……なんにせよ、結局は毎回成功するのだった。
そうこうしているうちに、私たちはお目当ての場所である——砂の中から大小無数の岩石が露出している岩場へと到達していた。
岩場にたどり着いた私たちは、ちょうど良さそうな広さの、岩に囲まれた砂地に振動爆弾を設置し……各々が迎撃の準備をしつつ、砂迅土竜が来るのを待ち構える。
そして……
ドッパァァァァンッッッ!!!
「っ、やります!」
ポチ——パァン——ギャイィィィィィィンンンッッッ!!!
「次はボクだね——喰らえっ、〝大水流蛇〟ッ!!」
飛び出してきた砂迅土竜が、またまた爆音を喰らって怯んだところで——私は練り上げていた魔力を解放し、水兵服の能力により、巨大な水の蛇を生み出すと……そのままの勢いで砂迅土竜にけしかけ、その全身を絡めとらせて動きを封じる。
「今だよっ!」
「はいっ! ——にゃんたろー、黒套、やるよ!」
私が動きを止めている砂迅土竜に対して、七矢の弩の使い手である三人が、三者三様の位置取りにて、一斉に構えを取る。
『“七矢魔弾——二矢結合——黒鋼線弾”』
そして、黒と白の組み合わせである、実体を持つ強靭な鋼線を、次々と砂迅土竜に撃ち込んでいき……さらには、いまだ弩と繋がっているワイヤーのもう一方の側も、近くの岩に撃ち込んでしまうことで、砂迅土竜の動きを妨害する〝鎖〟と成してゆく。
「どんどん撃ち込んでいってね〜、ボクのこれも、長くはもたないからさ」
「わ、分かりました! ——二人とも、飛ばしていくよ!」
その宣言通りに、出来る限りの早さでワイヤーを撃ち込んでいく三人により、砂迅土竜を縛る〝鎖〟はどんどんと増えていき……
「ん……もう大丈夫かな?」
ついには、私が水の蛇による拘束を解除する段になって、砂迅土竜が動き始めても……どうにかこうにか、ヤツの動きを妨害し、その場に釘付けにすることが出来ていた。
そうなれば……あとはもう、こっちのものだ。
「うん、大丈夫そうだね」
「よし——コクトー、貴婦人に変身! にゃんたろーと私は、そのままワイヤーを撃ち込み続けるから……他のみんなは、一斉攻撃して!」
その後は、ソラが告げた作戦通りに、動きを封じた砂迅土竜に対してひたすら攻撃していく。
もちろん砂迅土竜も、ワイヤーを引きちぎる勢いで暴れ回って抵抗していたけれど……今も新たに撃ち込まれ続けている、多数のワイヤーにより動きを大きく制限されているので、反撃はおろか逃げることすらままならない。
そんな相手に対して、こちらは容赦なく苛烈な攻撃を加えていく。
それこそ、弱点となる水や氷の属性攻撃を筆頭にして——中でも、同じボス級で氷魔法の使い手である貴婦人による魔法攻撃は特に効いているようで、砂迅土竜はどんどんダメージを蓄積させていく。
そんな様子を私は、砂迅土竜からたまに飛んでくる地魔法による攻撃を盾でいなしながらも、のんびりと眺めていた。
まあ、実力制限中の今の私だと、大きな技を使ったら魔力がすぐに無くなるので……もはや私の仕事は、最初の拘束を成功させた時点でもう終わっているというか、後の攻撃は他のみんなの仕事だから、これは役割分担というやつで、別にサボっているわけじゃないんだよね。
なので私は、主にパンチラ見隊から飛んでくる「サボってないで、もっと激しく動いて戦って!」というヤジもスルーして、その後も適当に観戦を続けて……
結局はそのまま、その後も私が特に手出しする必要もなく、砂迅土竜は無事に討伐完了したのだった。
。
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「ッ、ッッ……! す、凄い……思ったよりも断然、は、速いですねっ——!」
「いや〜、でもなかなか、豪快でいいよね。楽しいよね?」
「……ですね!」
砂迅土竜を倒した私たちは、ドロップした魔石をコクトーに取り込ませて、砂迅土竜に変身させると……さっそく、この新たな騎獣を使っての移動を開始したのだった。
と言っても、現在の私たちは、砂迅土竜の背中に乗っているわけではない。
——砂迅土竜は地魔法を使うことによって、砂の中をかなりの速度で移動できるのだけれど……逆に言えば、全身を砂に潜らせていないと、持ち前のスピードも本領を発揮できない。
砂迅土竜のスピードを活かすためには、砂の中に潜ってもらう必要があるため……必然的に、背中に乗ることは出来なくなる。
では、どうしたのかというと……一言で言えば、犬ぞり形式にした。
まずは——戦闘中にも使った、あの黒鋼線弾を使い……(もちろん、撃ち込むのではなく)砂迅土竜の体にしっかりと結びつけて固定する。
次に——砂迅土竜から伸びる——そのワイヤーの先に取り付けるのは、ソラが腕輪の能力で出した巨大な氷の盾で……これが、私たちが乗る部分である橇の代わりになる。
最後に、高速で走ることによって吹き付ける風を防ぐために、妖精ちゃんに風魔法の結界を使ってもらえば……これにて完成。
砂迅土竜は砂中を進み、ただ氷の橇のみが、砂上を猛スピードで爆進する。
そんな様子を傍から見ると、それっぽい形の氷の上に乗った私たちが、単体で砂の上を爆速で移動しているように見えるのだけれど……
しかし、ソラがやっていることは——摩擦による抵抗を減らすために——氷の橇が砂に触れないように浮かせておくことだけであり、推進力そのものは、砂の下に隠れている砂迅土竜が担っている。
なので、ソラの負担も大したことなく……しかして、その機動力ときたら、この階層最速クラスの砂迅土竜の名は伊達ではなく、もはや砂駱駝など目ではないスピードが出ていたので——
最初はどうなることかと思われた、この広大なる砂漠ステージの攻略も、終わってみれば、なんともアッサリとしたもので……
最終的には……私たちはその日のうちに、この〈第三区〉の前半部を一気に踏破してしまうことが出来たのだった。
……ちなみに、今日もパンチラは無かったので、一部のリスナーがとても悔しがっていましたとさ。まる。




