第20話 水兵 リーベ ボクは姫
「さて、みんな……ごきげんよう。今宵もまた、この夜叉姫様による深淵なる配信の時間がやってきたのだよ。
さて……〈第二区〉の攻略が終わった昨日に引き続いての今日からは、またボクとソラの二人だけで探索していくからね。
これから足を踏み入れる〈第三区〉は、見ての通りに一面の砂漠が広がっているエリアだよ。
そんなわけで……ソラとのコラボ配信も、おそらくは最後の一週間になると思っている今回からは、また装いも新たに始めていこうと思っているんだけれど……ど、どうかな? ボクのニューバージョンは」
精霊ダンの〈第二区〉——〝浮遊列島〟(というか、ほぼほぼ天空城)を攻略してから、明けて翌日。
平日である今日も、昨日に引き続きソラとのコラボ配信をすることにした私は、お互いの学校が終わってからの時間——すなわち放課後にダンジョンで待ち合わせてから、こうして配信を開始したのだった。
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:うっひょぉ〰〰! 元祖セーラー服でJKスタイルな夜ちゃんもカワヨ♡〉
〈もっこり助兵衛:う、うそっ……あの——基本いつも肌の露出は控えめで、これまではほとんど顔くらいしか肌色を見せていなかった——桃色鉄壁ガードのやっきゅんが……! ここにきてついに、肌色を解禁してきただとぉぉッッ!!!?! っしゃあぁぁ!!!!(歓喜のガッツポーズ)〉
〈やが灰のファンである:うお、マジかっ……! いやいや、ミニスカ生足ヘソチラJKセーラー服の夜叉姫さんとか、マジでマブイっす!!〉
「えー……すでに色々と反応がきているようだから、まず初めに、ボクの装備について軽く触れておくとしようかね」
「分かります……完全に私も同感です……今回のやっさんは、マジでマブイんです……!」
なんか予想以上に反響が大きかったことに軽く動揺しつつも、私は今回の配信で使う装備をサクッと紹介していく。
・全身一式防具
名称『渚の水兵服』
形状「黒を基調にした白い襟に赤いリボンのセーラーブラウスと、黒いプリーツスカート」
能力【水流操作】
効果「水を生み出し、操る」
備考——本来は白を基調としたカラーリングだったが、着用者の好みに合わせて黒に変更している。
・武器
名称『剛破の籠手』
形状「肘の辺りまでを覆う金属製の黒い籠手」
武技【剛破拳撃】
効果「〝剛破〟の特性を持つ強力な一撃を放つ」
備考——防具ではなく、殴るための武器としての籠手。
・副武装
名称『水流の盾』
形状「片手用の円盾」
特性【水流反発】
効果「盾の表面が常に反発力を発揮しており、攻撃を受け流す」
備考——〝特性〟は常に効果を発揮しており、使用者の魔力を消費しない。
・装飾品(頭部)
名称『獄魔の封帯』
形状「びっしりと謎の紋様が刻まれた細長い布を、包帯のように巻いて左目を隠して眼帯のようにしている」
特性『魔餮生贄』
効果「魔物から真っ先に狙われるようになる」
能力【蝕魔封印】
効果「STを封じ込める」
備考——着用者の魔力を封じて、|中級上位クラス《中層深域に相応しいレベル》にまで落とし込んでいる。
・装飾品(※秘匿情報)
名称『悪神の片外套』
形状「左肩のみを覆うマント(ペリース)」
特性『神秘隠匿』
効果「自身の情報を完全に秘匿する」
能力【悪神偽装】
効果「自身の情報を偽装する」
備考——〝秘匿〟の絶理特性を発揮している。
今の私の装備を——一部を除いて——視聴者に開示し終えたところで、さっそく反応が飛んでくる。
〈ニートの無職ん:おいおい……今までの種族チェンジから一転して、いまさら原点回帰な中二ファッションって、どういう風の吹き回しだ?笑〉
〈探索兵長:なるほど……今日の姫は、装備や能力も含めた実力を、完全に中級上位レベルに調整しての挑戦になるということなんですね。階層に見合う実力になった姫が、どう立ち回っていくのか……楽しみです〉
〈もっこり助兵衛:このスカートの短さは……っ、絶対パンチラあるやんっ!! 待ちに待った待望の瞬間を目前にして、おねーさん大歓喜!! 今日の配信は、やっきゅんの大勝利っ!!!〉
〈†漆黒の堕天使†:ふむ……確かに、今までにない雰囲気の装いだが、とはいえ、いつもの片外套だけは今宵も変わらず身につけているのだな〉
〈やが灰のファンである:こうしてみると……なんやかんや夜叉姫さんって、スタイルってかプロポーションもいいっすよねぇ。まあ、高位の探索者は、基本的にみんな理想的な体型してるけども〉
〈やがてファンになる:若い女性に特有の健康的で瑞々しい太ももに、降り注ぐ太陽の光が反射する白い輝きが……マジでまぶしいっス!!(熱弁)〉
〈もっこり助兵衛:それにしても、どうして今回はそんなに露出多めのサービス全開なの?! やっきゅんの首から下の肌とか、マジで見るの初めてなくらいなんだけど!〉
〈もっこり助兵衛:もぅマジ最高……今日が生きてて一番嬉しい日かも……!〉
装備解説の一環で——今は装備の効果でSTを調整しているから、中層深域に相応しい実力になっていることや……その〝眼帯〟の特性を利用して、今日は盾役をするつもりであることとか……この探索中については、いま挙げた装備の能力の他には、あとは「基本三項」までの魔功術くらいしか使うつもりはないということなど——今回の方針について、その辺も説明していたのだけれど……
そんな説明よりも、さっきから視聴者たちの関心は、私の新衣装に対するものが大半を占めている。
——にしても、もこ助よ……お前、そんなに連投するほど嬉しいのかい……。
確かに、今までの私はいつも大体きまって全身フル装備だったから、肌の露出なんてほとんどなかったわけだけど……
それが、ちょっと露出が増えただけで、ここまで反応が変わるだなんて……そんなことは、まったく予想してなかったので、少しだけ面食らう。
〈アンチ太郎:夜叉公……お前の唯一の取り柄は、肌を晒せば数字が稼げるなんて安易な風潮に流されない硬派なところだったのに……なまじ人気が出たからって、調子に乗って変わっちまったのか〉
マジでやかましいなコイツ。
——てか、他にも取り柄はあるだろ! 具体的には……ちょっと、すぐには思いつかないけどっ!
……なんか勘違いされるのも癪だから、一応、弁明しておくか。
「……いや別に、そういうんじゃないし。これは単に、砂漠は水属性が弱点の敵が多いし、とにかく乾燥してるから、水を操る能力があった方がいいって理由から選んだだけで……。肌の露出が多いって言われてもねぇ……これはそもそも、そういうデザインの装備だったってだけだし」
まあ、色だけじゃなくて、デザインも変えようと思えば変えられるけれど……露出度に関しては、場所が砂漠ならこんなもんかと思って、そもそも特に意識してなかったんだよなぁ。
〈ニートの無職ん:だとしても、インナー的なのを着ればよかっただけでは?〉
〈もっこり助兵衛:え? 本気で言ってんの? てか君さ、どっちの味方なの? 敵なの? やるの? パンチラ戦争勃発なの?〉
〈ニートの無職ん:ワロタw〉
おいおい……こんなしょーもないことでケンカするなよ。
「いやそりゃ、タイツとか着れば露出は抑えられるかもだけどさぁ。でもそれって、普通に……観てて暑くない? ここ砂漠だし——って思ったから、あえて何も着てないんだけれど」
〈もっこり助兵衛:英断! さっすがやっきゅん! 分かってるぅ!!〉
〈アンチ太郎:砂漠の強烈な日差しや乾燥から身を守るために、本来はむしろ、肌の露出は極力控えるべきなんだが?〉
「ああ、そういう? まあ……地上の砂漠地帯はそうなのかもね。でも、ここはダンジョンで、ボクは探索者だよ? 日差しくらいでどうこうなるほどヤワじゃないし、そもそも、その辺りを解決するための能力が備わっている装備として選んだのが、このセーラー服なんだから……これでいいのさ」
〈もっこり助兵衛:まったくもってその通り! それで大正解だよやっきゅん! アンチの意味不明な難癖なんて気にしちゃダメ! パンチラは絶対の正義なんだから!!〉
なんだか今日は、もこ助がえらい荒ぶってんなぁ……マジで、どんだけパンチラ見たいんだろ、コイツ。
「まあ、ボクの服装についてはもういいでしょ。それより、ソラの新装備をお披露目させてよ。
まあ、新装備というか、改造した照面鏡のことなんだけれど……詳しい説明がまだだったでしょ?
とりあえず、メインの新機能をさっそく紹介しておくよ。——じゃあソラ、お願いね」
「あ、はい! 分かりました」
私が水を向けたことで、ソラが自分の照面鏡を操作して、空中に仲間たちの姿を映し出していく。
「じゃあ……まずはにゃんたろー、りんちゃん、ウェンディね。——それ!」
そして、ソラが名前を挙げた三名が前に出てきて——ピカッ——と一瞬、光を発したら……
なんと、次の瞬間には——さっきまで幻像だった——その三名が、実体を持った実物として、その場に現れていたのだった。
「——とまあ、これが追加されたメイン機能の一つだね。照面鏡と合体させた魔鏡の能力で作った異空間に、普段は仲間たちを収容しておいて、いつでも好きな時にああやって呼び出せるんだよ」
これに関しては——使役獣を地上に連れ出せる云々を抜きにしても——戦術的な意味合いとしても有意義なものがあった。
そもそも、場所の性質によっては、そのエリアと相性の悪いメンバーもいたりするわけで……
——今回の場合は(というか、今回も)魔人花のハナハナちゃんが、まさにそれだった。
以前の、雪エリアだった〈第一区〉に引き続いて、酷暑乾燥地帯であるこの砂漠エリアについても、彼女が苦手とする場所だったので……おそらくは今回も、残念ながら彼女は控え室で待機することになりそうだ。
まあ、だからこそ、メイン盾役である彼女が抜けた穴を埋めるために、今回は私が盾役の役を買って出たというワケなのだけれどね。
「この他にも、新機能は色々とあるんだけれど……まあ、それはおいおい披露していければと思うよ。
メンバーも揃ったことだし、それじゃさっそく、探索を開始しよっか」
「そうですね……じゃあ、行きましょうか?」
「ああいや、そうだった、ごめんごめん——そういえば今回は、ソラがリーダーだから、ボクはソラの指示に従うんだったね」
「う……そう、でしたね」
そう、今回はそういう趣旨でやるつもりだった。
まあ、これもまた、ソラの修行の一環だ。
この〈第三区〉については、ソラが主導で探索を行っていく。
私はあくまでもオマケであり——立ち位置としては、今回たまたま組むことになった、知り合いの探索者ってところか。
実際、盾役の代役を協会で募集したら——斡旋された野良探索者と組むことになって、似たようなシチュエーションになることも……ありえるかもしれない。
だから予行演習の一環としても——というほど、厳密にやるつもりはないけれど……
コラボ配信の集大成として、ソラの成長振りを確認するためにも……今回の私は、最後になる〈第三区〉の進行を、彼女に全面的に委ねることにしたのだった。
「まあ、そうは言っても、組んだ相手と相談して方針を決めるってのも一つの手というか……むしろ、相談するのが普通な気もするし。そういう意味では、ボクに色々と訊いてくれても全然構わないからね。
とはいえ……今回のボクは、あくまでも中級探索者ってことになってるから。何かやったり教えるにしても、その範疇から逸脱しない程度で——となるだろうけれどね」
「な、なるほど……分かりました! で、では、さっそくなんですが——やっさん的には、まずはどうするのが良いと思いますか?」
「んー、そうねぇ……——」
あんまりガッツリとアドバイスしてしまっては、ソラにリーダーを任せた意味が薄れるような気もするけれど……
——とはいえ、ロクに事前準備とか出来ないスケジュールでやってるのも確かだし……
——配信的にも、あまりグダグダに進めてしまうのも考えものだし……
その辺のバランスを考えたら、ある程度は方針を示しておいてもいいかな。
〈流浪の探索者:やが灰がリーダーを上手く出来るのか、そして、夜の字に中級探索者のロールプレイが出来るのかも……ちょっと不安か?笑〉
おいおい……私にだって、かつては中級探索者だった時代ってのがあるんだからね。一度通った道なんだから、出来ないワケないじゃんね?
「そうねぇ……オススメは、まず始めに〝砂駱駝〟を探して倒すことかな」
「えっと……その心は?」
「うん、えっとね————」
この砂漠エリアには、厄介な点がいくつもある。
細かいところをあげればキリがないくらいだけれど……中でも重要なのは、次の四つか。
一つ——強烈な日差しや極度の乾燥などの、過酷な環境。
二つ——足場の悪さからくる、機動力の低下。
三つ——道も標も無い広大な砂漠で、迷わず進むことの困難さ。
四つ——【飛行禁止】の領域効果が、この〈第三区〉の全域に渡って発揮されていること。
とはいえ、一つ目に関しては——例の『真冬の指輪』を筆頭に——ソラには対策装備や魔法があるので、特に問題無し。
三つ目についても——照面鏡とも連携している——DMSのアプリを使えば、大雑把な現在地くらいは把握できるだろう。
そして、四つ目に関しては——中級探索者からすれば——もはやどうしようもないので、受け入れるしかない。
となると、問題は二つ目の「足場の悪さ」となる。
砂漠とは言わずとも、砂浜を走ったことがあるなら、なんとなく解ると思うけれど……砂漠もまさにあんな感じで——というか、砂漠の砂の方が乾燥してサラサラしているから、砂浜よりもさらに足が沈むので——砂に足を取られて、とても動きにくい。
なので、普通に進んでいたら、一向に距離を稼ぐことが出来ず……いつまで経っても探索が進まないなんてことになりかねない。
他にも、モタモタ進んでいたら、ひっきりなしにモンスターに襲われるとか……強い敵に見つかっても逃げられずに窮地に陥るだとか、問題点はいくらもある。
だからこそ、機動力を向上させることは、とても重要なのであるが……
とはいえ、場所が場所であるからには、有効な解決策がそう簡単に見つかるものではない。
しかし、他でもないソラに関しては、機動力の問題をサクッと解消できる手段を見繕う方法があった。
そう……使役師ならではの画期的な方法——砂漠の移動に特化したモンスターを使役して騎乗するという解決策を使えるのは……まさにテイマーの面目躍如というか、ソラの特権だと言えた。
——まあ、本来は使役自体がけっこう大変なんだけれど……コクトーがいれば、それも倒すだけでいい。
——ちなみに、今回の禁止カードは女王だけで、他は貴婦人などのボス枠も含めて、すべてソラの裁量で出していいことにしている。
もっとも——ラクダの名に反して、砂の上を軽快に走れるという——〝砂駱駝〟を最初に見つけるまでは、普通に歩きにくい砂の上を必死に進んでいくことになるだろうけれどね。
「————とまあ、そういう理由からオススメしたんだけれど」
「な、なるほど……!」
〈探索兵長:さすがは姫……ダンジョン探索に関しては、本当に一流なんですよね〉
〈やがてファンになる:このJK……できる!笑〉
〈もっこり助兵衛:見た目がキュートでファッションがセクシーなだけじゃないところもステキ……♡〉
「確かに、おっしゃる通りですね。私もまったく異論ありません。では、まずは砂駱駝を探すという、その方針でいきましょう」
「よしきた。なら、さっそく行こうか」
「えと……やっさんはどちらに向かえばいいのか、心当たりが?」
「おっと、そうだったね……行き先はソラが決めてよ」
「……すみません、またやっさんに頼るところでした」
「ボクもうっかりしてたよ……はは」
「ちょっと待ってください、今、モンスターの分布を確認しますので——」
そう言ってソラは、おもむろに照面鏡を操作すると——おそらくは、事前にダウンロードしていたのであろう——この階層の魔物の分布図を空中に表示して、確認し始めるのだった。




