SCENE197 制服を着たからとはいってもね
ふぅっと、ひと呼吸して僕はボス部屋に戻る。
目の前のテーブルにはラティナさんとアルカナさんが座って待っていた。
「お、お待たせしました」
僕は衣織お姉さんの高校時代の制服を着て、恥ずかしそうに声をかけている。
そしたら、二人は僕も思っていなかった反応をしている。
「えっと……。ラティナさん、アルカナさん?」
予想に反して二人とも黙り込んでしまっているので、僕はどう反応していいのか分からない。声をかけてみるも、とても反応に困っているようだった。
二人の様子に僕も戸惑っていると、バトラーが近付いてきた。
「おお、プリンセス。よく似合っておりますぞ。ささっ、こちらにお座りになって、一緒に食べましょうぞ」
「あ、うん。そうするよ」
僕はバトラーに言われて、空いている席へと移動する。僕が座ろうとすると、バトラーが後ろに回ってすっと椅子を座りやすいように入れてくれる。さすがは執事だよ。すっごく座りやすい。
僕の後にやってきた衣織お姉さんにも同じことをして、僕たちは椅子を取り囲むように座る。
「改めまして、プリンセス。中学卒業、おめでとうございます」
「おめでとうございます、ウィンク様」
「ご卒業、おめでとうございますわ」
バトラーの言葉を起点として、ラティナさんとアルカナさんにも僕は祝ってもらっている。なんとも嬉し恥ずかしというのが正直なところかな。
「うん、ありがとう、三人とも」
ちょっと恥ずかしいから、なんともぎこちない笑顔になっちゃったかな。お礼はかまなかったから、まあいいとしようっと。
「それにしても、変わった服ですわね」
僕の服を見ながら、アルカナさんが声をかけてくる。
そうはいっても、僕の方からしたらアルカナさんの服の方が変わった服に見えるよ。そろそろ服を着替えた方がいいんじゃないかな、アルカナさんは。
「なんですの。あたくしの服に何か文句がございまして?」
「えっと、文句というかなんというか……」
「アルカナ様も、そろそろ向こうにいた時のように、ドレスに着替えられてはいかがでしょうか。ダンジョンマスターらしい格好にしたつもりでしょうが、やはり侯爵令嬢としては少々破廉恥かと存じますので」
「うっ……」
さすがにラティナさんに指摘されては、アルカナさんも困った顔をしている。
「し、仕方ありませんわね。ウィンク様、妹様にお願いしまして、何か作っていただけませんかしら」
「あっ、そういうことならいいですよ。あとで採寸して、衣織お姉さんに届けてもらいます」
「うん? ああ、構わないぞ。その格好でお嬢様言葉をしゃべられては、なんとも違和感しかないからな」
アルカナさんがすんなり折れたおかげで、話は簡単にまとまってしまった。
でもね、ダンジョンポイントを使えば、ドレスくらいはすぐに出せるんだよね。僕の普段着も基本的にはそうしているからね。でも、今はそれは黙っておこう。
なんだか、瞳に服を作ってもらうことがひとつのステータスになっているみたいだしね。
あ、セイレーンさんにもまた新しい服を贈ろうかな。あとで衣織お姉さんにまとめて頼んでおこう。
話をしながら、僕はそんなことを考えていた。
「でも、ウィンク様がこの制服を学校に通われているという姿を、わたくしたちは見ることができませんのね」
「そうですね。僕はモンスターになっちゃった以上、ダンジョンの外には出られません。お二人のような特殊な状態になることもできませんからね」
「残念ですね」
ラティナさんが本気で残念がっているなぁ。でも、無理なものは無理なんだもん。
落ち込む姿を見た僕は、衣織お姉さんへと視線を向ける。すると、なんとも悪い顔で笑っているじゃないか。
「ちょっと、衣織お姉さん。何を考えているんだよ」
「いや、ここまで残念がられてしまうとな、知り合いとしてどうにかしたくなってしまうものだ。服のこともそうだが、瞬が高校に通えるように掛け合ってみてもいいと思うんだ」
僕を見ながら話してきた内容に、僕はものすごく驚かされる。なんで高校に通えるようにしようとか言えるの?
考えてもみてよ。僕はラミアプリンセスで、モンスターなんだよ? 高校卒業したって、その先の就職先だって存在しないじゃないか。何がどうしてそういう意見になるわけだよ。
衣織お姉さんに向けて、僕は露骨に不機嫌そうな表情を向ける。
ところが、衣織お姉さんはものすごく余裕な表情を浮かべている。
「いや、可能だと思うよ」
僕の睨むような視線を受けながらでも、衣織お姉さんはすっごく余裕な態度を崩さなかった。
「さっき思い出したんだ。瞬は配信システムを使えるわけだから、通信教育という手があるってことをね」
「ああっ、その手があったのかぁ?!」
衣織お姉さんの提案に、僕は大声で驚いてしまう。だけど、そこはすぐバトラーが冷静に対応してくれる。
「いや、衣織殿。その提案は却下させていただきますぞ」
「なぜだ?」
「ここはダンジョン内ですからな。いつ人が来るか分からぬ以上、どんな形であれ妨害を受けます。それでは、授業して下さる方にとても失礼ですからな。せっかくですが、執事としてお断りをさせていただきますぞ」
「バトラー……」
一生懸命かばってくれたバトラーに、僕はつい感激してしまう。うん、さすが僕の執事だよ。
さすがにこの上ない反論を受けてしまっては、衣織お姉さんも諦めるしかなかったようだった。
そうだよ。世界中の探索者を相手に、完璧にコントロールできるわけがないんだ。ただでさえ、このダンジョンは探索者の楽しめる場所として開放してあるんだからね。
そんなわけで、衣織お姉さんはごみとアルカナさんの新しい衣服を作るための情報を持って、僕のダンジョンから帰っていった。
次に来る時にはアルカナさんの服と一緒に卒業証書を持ってきてくれるだろうな。
ちょこっと楽しみにしながら、僕はその後ろ姿を見送ったよ。




