SCENE195 便利な反面
アルカナさんが能力を紹介してからというもの、僕のダンジョンの来客がまた跳ね上がった。それというのも、アルカナさんの死者呼びという能力のおかげだ。
話によれば、遺品の中には思念というものが宿っていることがあるらしく、それを通じて死者をこの世に呼び戻すことができるのだかとか。
ただ、その時間や回数などについては、アルカナさんの魔力に依存するために、尽きてしまえば回復するまで使えなくなるという欠点はあった。
だけど、その能力によって亡くなった人に会えると思った人たちが、こうやって僕のダンジョンにやってくるはめになってしまったというわけだ。おかげで、ダンジョンの中に部屋を追加することになったよ。
「大人気ですね、アルカナ様」
「まぁ、その通りですな。やはり、亡くなったという事実は受け入れられないことが多いですからな。ですが、あんまり依存するよなことがあっても困るというものですぞ」
「えっ、それってどういこと、バトラー」
アルカナさんがいる部屋の前の行列を眺めながら、バトラーがとても気になる発言をしていた。
僕だって魔法を得意とするモンスターだからか、ものすごく引っかかったよ。詳しくバトラーに聞いてみなきゃね。
そうしたら、バトラーは結構あっさりとアルカナさんの能力の問題点を教えてくれた。
なんでも、リッチというのは死霊使いの上位の存在らしくて、今回見せたような残留思念を実体化させるという能力を持っているのだそう。
ただ、呼び戻して一時的にでも完全な形で再現するということがかなり厄介で、ここがバトラーは問題だと言っているみたいだ。
「どう問題になるの?」
僕は詳しく聞いてみることにする。
「考えてもみてください、プリンセス。残留思念になるほどということは、生きていた時の世界に対して、強い未練を残しているということです」
「それは、確かにそうかも知れないね」
「そこにやってきた相手が、その未練を残した相手に同じように未練を持っていたとしましょう。実は、この時が一番危険なのです」
「どういうこと?」
僕にはまったく理解できない話だった。
「力の関係ですね。残留思念となった方は、未練という形で現世に引っ張られてはいますが、実は死者というのは無条件で相手を自分側に引き込もうとする力を持っているのですよ」
「えっ?」
ラティナさんが話に加わってくる。その内容を僕はよく分からなかった。
「そうですな。で、会いたいとしてやって来ている人たちは、その亡くなった方への思いを強く持っております。その時、相手を自分の側に引き込もうという考えを持っている方が少ないことが厄介なのです」
「う……ん……?」
「つまり、死者の側に、生者が強く引っ張られてしまうことになるんです。なので、最悪な場合、生きている方にそのうちに不幸が訪れることになります。バトラー様は、それを懸念されていらっしゃるのですよ」
「えっ、そ、それは大変な話じゃないか」
ラティナさんがはっきり言ってくれたことで、僕はようやくその問題点に気が付くことができた。危険すぎるじゃないか。
「そうなのですぞ。だからこそ、一度きりという条件を付けさせているのでございます。我らモンスターならば強い生命力と魔力によって影響を最小限にできますが、人間の場合はそうはいきませんからね」
「な、なんだ。すでに対策済みなんだね」
「当然でございます。常に先を読み、危険の芽を潰すのが、我ら執事の役目なのですからな」
「そうなのかな……」
あまりにも自信たっぷりに言うバトラーに騙されそうになっちゃうな。執事ってそこまではしないよね?
僕が疑惑の目を向けると、バトラーはそれはにやりと笑っていた。なんか怖いなぁ。
「それはそうと、プリンセス。うろこを何枚かはがして頂けますかな」
「えっ、なんで?」
話をしていると、バトラーが僕にうろこをはがすように言ってきた。
いや、これはがすの結構痛いんだけど?
「実はこれへの対抗手段が、魔法耐性の強化なのですよ。あまり知られてはおりませんが、これは誘惑、つまりは魅了の魔法の一種ですからな」
「な、なるほど……。確かに僕のうろこには魔法に対する耐性を上げる効果はあるけど。本当に役に立つのかなぁ……」
バトラーの話に疑いを持ちながらも、僕はとりあえず二、三枚のうろこをはがしてバトラーに渡している。
効くかどうかはまだ疑わしいんだけど、僕のダンジョンに来てくれている人たちを危険な目に遭わせたくないもの。万一に備えるのは、ダンジョンマスターなら当然だよね。
「確かに頂戴いたしました。では、我はアルカナ様のところに行ってまいります」
バトラーはそういって、ボス部屋を出てアルカナさんがいる部屋へと向かっていった。
それにしても、やっぱりこうやって思うと、モンスターっていうのは恐ろしいよね。アルカナさんは多分、よかれと思ってやってみせたんだろうけど、まさかそんな副作用があるなんてなぁ。
「わたくしも、バトラー様に言われなければ気が付きませんでした。こういうことを思えば、わたくしたちはやはりモンスターなのだと再認識させられますね」
「なんだ、ラティナさんも知っていたわけじゃなかったんだ」
「はい。アルカナ様とは交流があったくらいですが、能力についてはそこまで詳しくはありませんでした。そもそも、リッチモンド侯爵家は秘密の多い家でございましたから」
「なるほど……」
話を終えた僕たちは、なんともいえない気持ちでアルカナさんがいる部屋がある方向をじっと眺めていた。
何も問題が起きないことを、僕はただ祈るばかりだよ。




