SCENE190 槍使いの決着
私とサハギールの槍が交錯する。
まったく、思った以上に互角でまったく決着がつかない。ダンジョンボスとはいっても、その実力はまちまちなんだな。
このダンジョンに限って言えば、道中の敵は対策さえできれば大したことはない。
だが、ボスであるサハギールは、それを補って余りある実力の持ち主だ。私がこれだけ決め手を欠くんだからな。
異界のモンスターではあるが、軍人という言葉に偽りがない。なんだろうかな、こいつとの戦いにずいぶんと楽しみを感じてきてしまったよ。
「ううむ、なかなかやるな」
「そっちこそ」
よく見ると、サハギールも楽しそうに笑っている。
「いい加減に、決着をつけようか」
「ああ、そうだな。ならば、次の一撃を互いの最後にするか?」
「いいだろう。この槍に賭けて、貴公を倒す」
サハギールはがっちりと槍を構えている。
それにしても、私の呼び方が『お前』から『貴公』に変わっているな。つまり、私はこいつに認められたことになるわけだ。
「よかろう。ならば、私もこの槍に誓って、お前を倒す」
私もしっかりと槍を構え直す。
私たちの雰囲気に、剛力さんも色も入り込む隙は無い。それだけ、私たちは完全に二人の世界を作り出している。
完全に空気がピンと張りつめている。
あまりにも集中してしまって、周りの音は何も聞こえない。足元の水すらも、まったく抵抗を感じない。
ふっ、まったくすごいものだな。
私の槍を握る手に、ぎゅっと力が入る。
「参る!」
サハギールの声が響き渡ると、私たちは一斉に距離を詰め合う。
互いに、相手の急所目がけて槍を突き出す。
次の瞬間、おそらく真横から見たら私たちの体を互いの槍が貫いたように見えるだろう。そのくらい、私たちは槍を力いっぱい突いた。
「衣織?!」
「どっちなんだ? 衣織さんか? サハギールか? どっちなんだよ!」
ダンジョンの中に、剛力さんと色の声が響き渡る。
まるで時が止まったのかのように、私たちはまったく動くことはなかった。
「ゴハッ!」
次の瞬間、サハギールが口から血を吐き、手から二股の槍を離している。
サハギールの手から離れた二股の槍は、そのまま地面へと転がっていた。
「お、お見事……。貴公ほどの手練れと戦えたこと、俺様は誇りに思う……」
口から血を吐きながら、サハギールは私のことを褒めてくれている。
だが、私は素直に喜べなかった。
「……いや、私はお前に謝らないといけないな」
「……なに?」
私はポケットから、砕けた護石とうろこを取り出してサハギールに見せる。
それを見たサハギールは、一瞬驚いたかと思うと、すぐに笑みを浮かべていた。
「ふっ。万一に備えておくのも戦人ならでは……。なにも恥ずことはありますまい……」
「お前は、許せるというのだな」
私の問い掛けに、サハギールはこくりと頷いている。
そうかと思えば、サハギールはゆっくりと手を上げ、おもむろに指差し始める。一体何を始めるつもりなんだ。
その次の瞬間、ボス部屋が急に揺れ始める。
「なんだ、地震か?」
「いや、剛力さん。あれを見て下さい!」
色が叫びながら指差した先へ、私も目を向ける。
そこに出現したのは、四角い柱に水晶玉のようなものが取り付けられたものだった。
これは瞬やアルカナのダンジョンで見たものと同じものだな。つまり、ダンジョンコアだ。
「俺様は、敗れた。潔く、ここはダンジョンとともに消え去ろう。それと、俺様に勝った貴公に、これを託しておきたい」
サハギールはしっかりしゃべっているが、体は震えている。もう、かなり限界なのだろう。
「おい、ここで死ぬ気なのか? お前には帰りを待つ仲間はいないというのか」
「ふっ、仲間……か。確かに、率いていた部下どもは仲間かも知れぬ、な」
私が問いかけると、サハギールは静かに笑みを浮かべて話している。
「だが、もう俺様は長くない。……これを見ろ」
サハギールはそういうと、私の槍が貫いた場所を見せてくる。そこを見ると青色の宝玉のようなものが、割れていた。もしやこれは……。
「モンスターの核だ。これが傷ついてしまっては、モンスターはそう長くはない」
なんということだろうか。たまたま偶然ながら、私の一撃は、サハギールに致命傷を負わせてしまっていたようだ。
くっ、やっと見つけた好敵手だと思ったが、まさか一撃でこのようなことになってしまうとは……。まったくもって予想外だった。
「ふっ、この俺様のために泣いてくれるというのか」
サハギールがその様なことを言う。どうやら、私は知らない間に涙を浮かべてしまったらしい。
ところが、サハギールは続けて言い放ってくる。
「後悔するな、誇れ! 貴公は為すべきことを為したのだ。その胸を張って、仲間のところに戻るのだ!」
サハギールの言葉に、私はこくりと頷く。
「……このような場所でなければ、貴公とは、うまく……できたやも、な……。さらば、だ……」
サハギールは目を閉じ、全身から力が抜けたようにすべてを垂れてしまう。
なんだ。ダンジョンをクリアしたというのに、なぜこのような罪悪感に襲われればならぬのだ。
「うおおおおおおおっ!」
私の慟哭が、ダンジョンの中に響き渡る。




