SCENE189 槍使い同士
私とサハギールは睨み合っている。互いに強者と認め合ったためだろな。つい顔がにやけてしまうというものだ。
剛力さんと色は呆れているという感じだな。
「剛力さん」
「なんだよ、衣織」
「せっかくです。大々的に私とこのサハギールとかいうやつの戦いを配信してくれ」
「……分かったよ。まったく」
クローズドにしていた配信を、剛力さんが設定を変えてオープンにする。
富山湾の蜃気楼ダンジョンのボスとの戦いだ。こんな楽しいもの、自分たちだけのものにしておくのはもったいないだろう。
「くくっ、妙な物を持っているな」
「ああ。これがこっちの道具ってもんなんだ。今、私らの戦いをたくさんの連中が見守っているってわけさ」
「ふふっ、それは面白い。この俺様の戦いを広められるというのなら、名誉なことってもんだ」
驚くかと思ったんだが、逆に興味を覚えていてくれてるな。こいつはなかなかに変わったやつのようだな。
だが、私としてはその方が面白いというもの。やはり、目の前のサハギールというやつとは気が合いそうだ。
「ああ、そうだ。ちょっと聞いておきたいことがある」
「何かな?」
私が質問をしようとすると、サハギールはびっくりした様子で反応している。
「お前は、異界で何か地位を持った人物だったのか?」
「俺様はただの軍人だ。地位があるかと言われたら微妙なところだが、小隊長を務めていたな」
「そうか。今まで貴族な連中とばかり会ってきたから、お前もそうなのかと思ってな」
「ふむ。面白いことを言うものだが、俺様はそういったことには興味がない」
私との会話の中で、サハギールははっきりと言い放っている。
「俺様が興味あるのは、戦いのみ! 戦いこそが、俺様の存在を証明できることなのだからな!」
はっきりと言い放つと、サハギールは私に向かって突進を仕掛けてきた。
やれやれ、根っからの軍人ってやつだな。戦って勝つ。それこそが自分が生きている証。
ふふっ、そういうのも嫌いじゃないな。むしろ分かりやすくていい。
ならば、私もその想いに答えてやるというのが礼儀というものだろう。
やつは二股の槍の使い手だ。ならば、私も槍で応戦をしてやろう。太刀をしまった私は、新調した槍を構えてサハギールを迎え撃つ。
ガキーンッ!
金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。
「ふっ、これを受け止めるとはさすがここまでやってくるだけのことはあるな。褒めてやろう」
「私も相当にダンジョンに潜ってきたのでな。それに、最近はとあるモンスターに鍛えてもらっているんだ」
「ほう、それは興味があるな」
槍を押しあいながら話をしていると、私の話した内容に興味を示しているようだ。
「バトラーっていうやつを知っているか?」
「なにっ、バトラーだと?!」
興味がありそうなので名前を言うと、サハギールは露骨に動揺を見せていた。どうやら、知っている人物のようだ。
だが、戦いのさなかに隙を見せるのはどうかと思うな。
ところが、その隙に攻撃を仕掛けようとしたら、見事に躱されてしまった。まったく、大した奴だぜ、このサハギールってやつは。
「なるほど……。バトラー様が関わられているのなら、その強さは理解できるというものだ。実に懐かしい名だな」
「まったく、バトラーの奴はどこまで顔が広いんだ。ラティナやアルカナ、セイレーンまで知ってるとか、ただの蛇じゃねえな、あいつは……」
サハギールの話を聞いていた私は、バトラーの顔の広さに思わず呆れてしまう。あいつ、自分のこととなったらほとんど話やしない。ダンジョンについても何か知ってそうだし、本当に怪しすぎるってもんだぜ、あいつは。
とはいえ、そういう話はこいつとの決着をつけてからだな。
力も均衡している感じだし、向こうも攻めあぐねている感じだ。さて、どうしたものだろうかな。
「さあ、どうした。人の動揺を誘っておきながら、攻め手を欠くのか?」
「まぁそうかも知れないな。お前は思った以上に隙がないからな。こんなに攻めきれない相手は、バトラー以外には体験したことがない」
「ふっ、バトラー様と並んでといわれると照れくさくなるというものだ。あの方は、俺様たち軍人の憧れだ。並び立つにはまだ早いのだ!」
バトラーと同じような感じだと話をしていると、サハギールは照れくさくしたくせに、すぐに意を引き締めて襲い掛かってきた。
気持ちの切り替えがとにかく早い。そのせいでなんとも隙が小さくて、私としてはなんともやりにくい感じだった。
「メイルシュトローム!」
攻撃を躱せば、着地した場所で範囲攻撃を放ってくる。
かと思えば、接近戦でもこれといった隙は見受けられない。さすがは軍人って感じだと思うよ。
だが、私の攻撃だって攻撃を相殺できるくらいには威力がある。ならば、こっちからも積極的に打って出るべきだろう。ラティナの護石もあるから、多少のごり押しもできるはずだ。
私とサハギールとの間では、一進一退の攻防が繰り広げられている。その激しさに、剛力さんも色もとても割って入れるような状況じゃないみたいだ。
くそっ、このままじゃどっちかが疲れるで決着がつきそうにないな。
互いに決め手を欠いたまま、戦いは持久戦へと突入してしまったようだ。




