SCENE188 蜃気楼ダンジョンのボス
「疾風閃! 剛腕衝!」
私の槍と太刀が唸る。
「グギャーッ!」
「アギョーッ!」
モンスターたちがまるで紙屑のように舞い散っていく。
「これ、俺ら必要でしたかね……」
おい、色。全部聞こえているぞ。誰が「全部あいつ一人でいいんじゃないか」だ。仮にも女性に対してその言い分、恥を知れ。
せっかく爽快にモンスターどもを倒しているというのに、一気に気が悪くなるではないか。
「衣織、気合いを入れているのはいいが、少しは休憩も入れたらどうだ。肝心のボス部屋でへばっていたら、笑えやしないぞ」
そこに、間髪入れずに剛力さんから声をかけられる。
確かに、一気にここまで進み過ぎたか。今は第四階層の中ほどだ。ここまで一時間もかかっていないから、言われるとおり、少々飛ばしすぎたかもしれないな。
「分かりました。すみません、一人で突っ走りすぎました」
「ああ、分かってくれればいい。俺たちの方は君について行くので精一杯だったからな」
少し困ったような表情を浮かべながら、剛力さんは色へと視線を送っている。
それにしても、ここまでちょっとばかり急ぎ足で来ただけだというのに、色はどうしてそこまで疲れているんだろうな。鍛え方が足りんぞ。
少し休憩を入れた私たちは、最奥を目指し、再び移動を始めた。
最下層に入ると、いつぞや見た横浜ダンジョンの第十階層のように水が大量にあふれた光景が広がっている。となると、やはりこの蜃気楼ダンジョンのボスも水に関係したモンスターということだろう。
これだけ水があふれているところを見ると、どこからモンスターが襲い掛かってくるか分かったものではない。私たちはとにかく警戒しながら奥へと進んでいく。
ところが、確かにモンスターは襲い掛かってきたのだが、これでもかというくらい弱い魔物ばかりだった。うん、ネタ切れなのかな。
ダンジョンのボス部屋と思われる場所へとやってくる。そこは、大きな渦巻きがあり、いかにも何かしらイベントが起きそうな雰囲気を放っている。
「どうやら、ここが最奥だな。ということは、ボスが出てくるはずだ。警戒を緩めるなよ」
「もちろんですよ、剛力さん」
「なんでも来やがれってんですよ」
剛力さんの声に、私たちは武器を構え直す。
それと同時に、ゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が聞こえてきた。
次の瞬間、渦巻きが大きく持ち上がり、ザバーンという音ともに弾けて何かが飛び出してくる。
「ケーッケッケッケッ! よく来たな、死にたがりどもよ!」
二股の槍を持った、半魚人のようなモンスターが飛び出てきた。
ゲームなんかでいうところの、いわゆる『サハギン』みたいなやつだな。マーマンともちょっと違う感じだ。
マーマンなら人魚だから足は尾びれになるはずだ。だが、目の前のやつは二本の足を持っている。ならばサハギンだろう。
「俺様の名は、サハギール。お前らを海の藻屑にする男だぁっ!」
聞いてもないのに名乗ってきたぞ。まったく、なんと威勢のいいやつなんだ。
「さぁ、墓標に刻んでやるから、お前らも名乗れぇっ!」
「うん、うるさい」
「アバッ?!」
前置きが長いんだ。大体、ダンジョンってのは命のやり取りをする場所だろ。いつまでも食っちゃべって隙が多すぎるというものだ。
「おい。人の話はちゃんと聞くものだろうが」
おっ、生きているじゃないか。ちゃんと太刀を入れたはずなんだがな。さすがはダンジョンボスといったところだな。
にしても、文句を言ってくるということは、こいつもそれなりに知識を持ち合わせたやつのようだな。
「お前、サハギールといったか。こんな場所にダンジョンを作って、お前の目的はなんだ」
剛力さんがサハギールとか名乗った半魚人に話しかけている。
「ふん。話したところでお前たちには理解できまい。お前たちを殺してマナを吸収し、我が領域を広げてやるのだ。これで十分だろう!」
サハギールはそう言い放つと、私たちへと襲い掛かってきた。見た目からすると、思ったよりも速いな。
「無礼なやつらの名など要らぬ。我が海の領域の藻屑となれ!」
動きは速いが、躱せないほどじゃない。
私たちは奴の動きを見てからでも十分躱せている。
ところがだ。奴は私たちが立っていた場所に着水すると、にやりと笑みを浮かべていた。
「メイルシュトローム!」
サハギールが降り立った場所を中心にして、水竜巻が発生する。その場だけで渦を巻いていたかと思ったら、発散するかのようにどんどんと渦巻の半径が広がっている。
「ちっ! 疾風閃!」
予想外の攻撃に、私は素早く槍を突いて水竜巻をぶち破る。
「ほう……。この俺様のメイルシュトロームを破るとはな。やはり、敵というのは強くないといかんな。くくくく……」
サハギールの奴は、実に楽しそうに笑っている。
私と剛力さんは無事だが、色は思ったよりもダメージを受けているっぽいな。まったく、ラティナの護石をもってしても防ぎきれないとはな。
だが、どういうわけか私も楽しくなってきてしまっているようで、槍を持つ手に思わず力が入ってしまう。
「どうやら、とても楽しめそうだな」
「ふっ、俺様たちは似た者同士というわけか。いいだろう。その勝負、受けて立ってやる」
私とサハギールは、笑顔を浮かべて向かい合っている。
「もう、勝手にしてくれ……」
私の耳には、かすかに剛力さんの呆れ声が聞こえたのだった。




