SCENE186 最後のテスト
うん、頑張った。僕、頑張ったよ。
数日後、学校のテスト用紙を持って、谷地さんと日下さんがやってきた。
谷地さんは僕のテストの監視役で、日下さんはバトラーたちと話をするためにやってきたんだとか。
僕が受ける学年末テストは、全部で九教科。さすがに一日では可哀想だろうということで、二日間に分けて行われたよ。
テストの最中、僕はものすごく険しい顔をしていたんだとか。
右手にシャーペンを持って、左手は頭に手を当てて眉間にしわを寄せていたとか。
でもさ、僕が学校の勉強に真剣に打ち込んだのは、ダンジョンマスターになってからは初めてだよ?
衣織お姉さんに勉強するように言われて、大量の教科書が持ち込まれたことはあったけどさ。本当にこの十日間くらいは、ダンジョンの改造も配信も封印して勉強しまくった。うん、これだけ真剣に勉強したのは本当に久しぶりだ。
テストを受けた翌日のこと、再び谷地さんがダンジョンにやってきた。その手には何枚か紙が持たれている。
「それでは、昨日とおとといで行ったテスト結果を返しますね」
まるで死刑宣告のような、ものすごく真剣な表情で言われたよ。この時の谷地さんの雰囲気に、僕はごくりと息をのんでしまった。
そうして返されたテスト結果。
僕だけじゃなくて、バトラーたちも気になって覗きに来ていたので、僕はガッチガチに固まってしまっていた。
うん、見られるのってすっごく恥ずかしいからね。
「テスト結果が返ってきたのですね」
「あたくしたち貴族というのは、最低限の教養は持ち合わせているものですから、やはりこのような試験というものは気になってしまいますわね」
二人揃ってものすごく僕を見てくる……。
僕は、ものすごく全身に汗をかきながら、二つ折りになったテスト結果に手をかける。
ばっと、勢いよく開く。
全教科の満点は百点だ。なので、最大は九百点満点。こういう時の赤点回避っていうのは、大体三十点以上だから、二百七十点もあればいいはずだ。
僕はドキドキしながら、書かれた数字を眺めていく。
ちなみに、僕の受けたテストは、他のみんなも受けているものらしい。なので、すみっこをよく見ると順位も書かれている。よかった、順位は真ん中くらいだ。
「ええ、合格ですよ。今度、卒業式の日に卒業証書を受け取って参りますので、私の手から、ウィンクさんにお渡ししますね」
「はい、ありがとうございます」
僕は無事に、中学校を卒業できることになった。
ダンジョンマスターになったから関係ないと思われることだけど、配信を行うことを考えると、そこを突っ込まれる可能性は十分あるもんね。
とりあえず、ひと安心だよ。
「よかったですね、ウィンク様」
「まあ、このくらいは当然ですわね。でも、もうちょっと上を目指してもよかったのではないかしら」
「いやぁ、それを言われるとつらいかな。でも、勉強からしばらく離れていてこれなら、十分頑張ったんじゃないかな」
「それはそうでございますね。ですが、ラミアプリンセスとすれば、全然足りません。もっと教養を身につけていただきませんとな」
「うわぁ……。バトラーってば手厳しいや」
バトラーから指摘されてしまうと、僕はものすごく困ってしまう。だけど、ラティナさんやアルカナさんはそんな僕を見て笑っていた。
そんな風にしていると、日下さんがちょっとだけ遅れて僕たちのところにやってきた。
「まったく、人におつかいを頼むとは、谷地さんもずいぶんと偉くなったものですね」
「仕方ないでしょう。私たちは一足先に結果を知っているわけですからね。といいますか、さすが日下、いいタイミングで来ましたね」
「思ったよりも並びませんでしたからね」
うん、何の話をしているんだろう。僕はつい気になってしまう。
「あら、いい香りがしますわね。何を買ってこられたのでしょうか」
アルカナさんがものすごく反応している。
すごいなぁ。アンデッドだっていうのに、すっごく鼻が利くんだ。僕はびっくりしちゃったよ。
「ひな祭りも近いですからね。管理局からほど近い洋菓子店で、ピーチパイを購入してきたんです」
「まあ、ピーチパイですか。いいですね」
ゴーレムなラティナさんがものすごく喜んでいる。
そういえば、ラティナさんも僕と立ち同じ食事をしているんだよね。ゴーレムだから石や土ばっかりと思っていたから、これはすっごく意外だった。
ピーチパイを買ってきたということで、僕が何も言わないのにバトラーが姿を消していた。早いなぁ。
しばらくすると、バトラーが紅茶を持って戻ってきた。
「やはり、おかしには紅茶でございますね。さぁ、プリンセスの合格を祝いまして堪能しようではありませんか」
「はい、そうですね」
バトラーが声をかけると、みんなが喜んでいるようだった。
僕たちは早速テーブルを囲んで座る。僕たちの目の前には、これでもかと切り身の桃がのせられたピーチパイが置かれる。
日下さんは持ってきたナイフで、一つ一つ丁寧に切り分けていく。
それぞれ行き渡ると、日下さんが音頭を取る。
「ウィンクさんの卒業確定を祝しまして、いただきましょう」
「いただきます」
僕たちは一斉に声を出すと、ピーチパイを頬張った。
うん、たまに食べる外の料理もおいしいなぁ。
緊張した時間が過ぎれば、なんとも楽しい時間が待っていた。その時間を僕たちはしっかりとかみしめていた。




