SCENE184 新たな挑戦の前に
年越し配信からさらに時間が経って、二月に入る。
いつも通り僕が過ごしていると、ダンジョンに衣織お姉さんがやってきた。
「瞬、今は大丈夫か?」
「あっ、衣織お姉さん。うん、大丈夫だよ」
どうやら衣織お姉さんは僕に用事があるみたいだ。ただ様子を見に来たってわけじゃないみたい。
僕はいつものようにテーブルとイスを用意すると、衣織お姉さんと向かって座る。
「衣織お姉さん、どうかしたのかな」
「ああ、百鬼夜行の次の予定が決まってな。新しいダンジョンに挑戦することにしたんだ」
「そうなんだ。ということは……」
衣織お姉さんの相談内容というのは、衣織お姉さんのギルドである百鬼夜行の次の攻略計画に関する話だった。
となると、衣織お姉さんの目的はすぐに分かる。いくら僕でも、このくらいのことはよく分かるよ。
「僕のうろこと、ラティナさんの護石が必要なんだね。ちょっと待ってて」
僕は椅子から降りると、奥で休んでいるラティナさんとアルカナさんのところへと向かう。
まぁ、休んでいるというよりは、奥の小部屋で自分たちのやるべきことをしているってところかな。
僕はそこへとお邪魔する。
「ラティナさん、ちょっといいかな?」
「ウィンク様?」
僕が声をかけると、ラティナさんはきょとんとした顔をして僕の方を見ている。
ゴーレムだから、あんまり表情とか分かりにくいはずなんだけど、本当に不思議なくらい、ラティナさんの表情の変化はよく分かる。性格がそういう人だからかな。本当に不思議だよ。
とりあえず、僕はラティナさんに用件を話す。そうしたら、ラティナさんはすぐに了承してくれた。
「はい、このくらいでいいでしょうか」
「うん、多分足りると思うよ。ありがとう、ラティナさん」
「いえ、このくらいはなんてことありませんよ」
ラティナさんがにっこりと微笑む中、僕は衣織お姉さんのところへと戻っていく。
まったく、こういう時って、ラミアの体は不便だなって思う。走りたくても走れないんだもん。どんなに頑張っても、体をずるずると引きずることしかできない。普通の蛇みたいに俊敏な動きは、僕には無理だよう。
僕はゆっくりとした動きで、衣織お姉さんのところに戻ってくる。
「お待たせ、衣織お姉さん」
「待ってなどいないぞ、瞬」
悪いと思いながらも声をかけてみるけれど、衣織お姉さんはいつものようなけろっとした表情を見せている。
いつも思うんだけど、衣織お姉さんってば、僕にはずいぶんと甘いような気がするんだよね。怒る時は怒っていいと思うんだけどな。だけど、僕のことを真剣に考えてはくれているから、僕も強くは言えないんだよね、はぁ……。
とりあえず、僕は再び椅子に座ると、自分のしっぽを軽く持ち上げる。
ぷちっ、ぷちっ。
衣織お姉さんの目の前で、僕は自分のうろこを数枚はぎ取っている。
「はい、衣織お姉さん」
「悪いな、瞬。それにしても、あんまり人前でうろこをはぐような真似はするんじゃないぞ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
衣織お姉さんから注意された僕は、理由を尋ねてみる。そしたら、衣織お姉さんは強い口調でそういうだけで、具体的な理由は教えてくれなかった。
ただ、その際に周囲をきょろきょろと見回して、鋭い眼光を飛ばしていたな。もしかして、他人のことが気になっているってこと?
僕はそう思うんだけど、衣織お姉さんってあんまりちゃんと喋ってくれないから、なんかよく分からないや。
僕が渋い顔をしていると、衣織お姉さんはなぜか慌てた様子を見せている。
「悪いな。別に瞬を不安がらせるつもりはないんだ。とにかく、人前でうろこをはぐようなことはしないでくれ」
「分かったよぅ」
改めて念押しをされてしまったので、僕は渋々という感じだけど、こくりと首を縦に振るしかなかった。
僕が首を縦に振ると、衣織お姉さんはなぜか満足そうに笑っていた。うん、わけが分からないなぁ。
「それと、これ。ラティナさんの護石。ちょっと多めに作ってもらったんだけど、これでいいかな?」
「ああ、このくらいあると助かるってもんだ」
僕らうろこと護石を渡すと、衣織お姉さんは優しい表情を浮かべている。どうやらこれで問題ないみたいだね。
渡すものも渡したので、僕は次の攻略するダンジョンに土て、ちょっと話を聞いてみることにした。
「衣織お姉さん」
「なんだい、瞬」
「次のダンジョンって、どこを攻略するつもりなの?」
ものすごくストレートに聞いてみた。
ところが、衣織お姉さんは微笑むだけで答えてくれない。
「さすがにそれは教えられないな。ダンジョン管理局には報告義務があるで、どこのダンジョンに向かうかは伝えてあるんだがな。さすがにダンジョンマスターとなって部外者となった瞬には教えられない」
「そんな……」
教えてもらえないと聞いて、僕は落ち込んでしまう。
僕の後頭部に、手が当たる感触がある。どうやら、衣織お姉さんが撫でてくれているみたいだ。
「大丈夫だ。ちゃんとまた会いに来るさ。私は頼れるお姉ちゃんなんだからな」
「衣織お姉さん」
衣織お姉さんの言葉を聞かされて、僕は黙ってこくりと頷いていた。
話を終えて、衣織お姉さんは元気いっぱいに手を振りながらダンジョンから去っていく。僕は同じように大きくを振りながら、衣織お姉さんを見送ったのだった。その無事を祈りながら。




