予言者
透明人間を捕まえたと思ったら、予言者とは。僕らはオカルトハンターにでもなったのだろうか。
「もちろん、本当に予言者だとは思ってない。この投稿主も特定して、本人から話を聞き出したからな。」
「え?じゃあ、僕らは何をすれば?」
「投稿主は三年二組の朝倉っていう男子生徒だ。こいつは何者かに情報提供を受けて、千速新聞の内容を投稿してると言っていた。提供者については教えられないの一点張りで聞き出せなかったがな」
投稿主はあくまで投稿しただけ。『予言者』は別にいるということか。
ここまでの情報で、勇太は何かに気がついたみたいだ。
「待ってください。朝倉って先輩は誰かにそそのかされて投稿してたんですよね?手口が似てませんか、透明人間事件の時と」
確かに。自分では手を汚さず、計画だけを実行犯に伝えるやり口。僕らが『教授』と名づけ、正体を追っている犯人と同じだ。
「ああ、俺もそう思って、お前らを呼んだ訳だ」
才木は借りていたスマホを京野に返し、代わりにパソコンを取り出した。見るからにスペックは低い。安物のノートパソコンだ。
「京野、頼む」
また才木に呼び出された京野は、パソコンを開き、カタカタとパスワードを入力した。起動したパソコンには文書作成用のアプリが開かれていた。
「これが、千速新聞の原稿データ。このパソコンで最終版を作り上げて、毎週木曜日の放課後に生徒会担当の先生に提出する。先生からの了承が取れたら、生徒会室のプリンターで全校生徒分、ビラとして印刷して配布する流れになってます」
京野は才木の代わりに丁寧な説明をしてくれた。前に、京野が広報委員だという話をしていたので、恐らく制作担当なのだろう。
そして、才木はお役御免と言わんばかりに、再び本を手に腰をおろしていた。
京野は構わず説明を続ける。
「配布前に新聞の内容を知れる人間は限られる。掲載内容を議論する広報委員のメンバー、校閲を行う教員、そして、データを保存している、このパソコンを触れる人間だろうな」
京野の説明は簡潔で分かりやすい。しかし、僕の記憶と食い違っている点が一つあった。
「一つ質問なんですけど、先生の校閲が通ったらそのまま印刷して、配布するんですよね?」
「基本、そうですね」
「じゃあ、なんで『透明人間』の時は、配布してから先生に問題視されてたんでしょうか」
あの時、才木率いる生徒会は、千速新聞の掲載内容について先生達に問い詰められていたはずだ。
「ああ、あの時は校閲通ってから内容を変更したから。通した内容と違うぞって注意が入ったんだよ」
・・・・・・滅茶苦茶だ。才木のさしがねだろうな。
「じゃあ、おかしくないですか?ほら、朝倉さんの投稿には『透明人間』のことが書かれてますよ?ってことは、内容を差し替えた後の新聞の内容を知ってることになりますよね」
相田から鋭い指摘が入った。あの一瞬、見せてもらった京野のスマホから、朝倉のアカウントを見つけて、自分のスマホで表示していた。さすがはデジタルネイティブ世代の女子高生だ。
「『透明人間』のことを書いた新聞データはいつ頃できましたか?」
「午後四時半過ぎかな。そのあとすぐにそのプリンターで印刷作業したんだ」
京野は部屋の隅に置かれた、コンビニのコピー機くらいの大きさのプリンターを指さした。二台横並びで設置されている。
四時半過ぎ、ということは、僕らが生徒会室を出た直後くらいだ。入れ替わりで京野がきたのだろう。
「あの日は確か、関本と手分けして印刷して、そのあと職員室のクラス配布物ボックスに提出した」
つまり、印刷してから職員室に提出されるまで、京野の手からは離れてないってことになる。
「はい、質問です。クラス配布物ボックスってなんすか?」
勇太から素朴な疑問が投げかけられた。
「生徒会や委員会がクラス当てに配布物を渡すために使うボックスだね。翌日の朝に担任がその中にある配布物を回収して、生徒に配る仕組みになってる。もちろん、このボックスから誰にも見つからずにビラを抜き取るのは至難の業だろうね」
職員室から盗みを働くのは現実的ではないということだ。
「やっぱり、このパソコン乗っ取られたりする?」
京野は生徒会メンバーを疑っていない様子だ。当たり前なのかもしれないが、才木達に対する信用はあることが伺える。
こうなると、僕は直接パソコンを調べてみたいと思った。
「ちょっと、パソコン見せてもらえませんか?」
「え?いや、生徒会の情報も入ってるし・・・・・・」
ここまで傍観、いや、我関せずだった才木は、本を勢いよく閉じて言った。
「神原、パソコンを調べてくれ。生徒会に入るという条件で許可する」
「分かりました。じゃ、調べますね」
あっさりと条件を呑んだ僕に対して、一同は驚いた表情を向けていた。
僕としては、この夏休みの間で決心をつけていた。好奇心をくすぐられたまま、途中で降りるのは性分に合わない。それに、相田に言われていたように、なんとなく才木と上手くやっていけるような気がしてきたのだ。
「へえ、決心したんだ。思ったより早かったな」
「賭けは私の勝ちってことで」
賭け?何のことだ。
「俺と相田で勝負してたんだよ。いつ神原が折れて立候補を決めるかってね」
「私が学祭準備期間中で、勇太は夏休み明けに賭けてたの。私が勝ったから、ジュースおごりね」
全く、品のないゲームをしている。
僕は、京野からパソコンを受け取り、原稿ファイルなど一通りの説明を受けた。
まずは、パソコンに入っているアプリ一覧と、現在稼働しているプロセスを確認した。
「特段、異常はないですね。そもそも、このパソコン、インターネット繋げてないじゃないですか。もし、遠隔操作のソフト入れてても動かせないですね」
「へえ、君、こういうの得意なの?」
京野が感心したように、僕の操作を見ていた。
「こいつ、この間の情報の試験で学年一位だったんすよ。クラスの展示も監修してるくらいで」
勇太が虎の威を借りる狐のように、誇らしげに語っていた。
「どうりで、才木が生徒会に欲しがるわけだ。現メンバーはパソコン強いやついないからなあ」
なんとなく気づいてはいたが、才木は情報系が弱いのだろう。パソコンの操作は全て京野に任せっきり。その京野もお世辞にも得意とは言えない実力だ。
「この状態でパソコンから情報を抜くには物理的な方法しかないですね」
「物理的というと?」
「原稿を画面に写している状態を目で盗み見るか、USBメモリとかで、データをコピーして盗むかの二択ですね」
「うーん、そりゃあり得ないな。だって、原稿作り終わったあと、すぐにこのパソコンはシャットダウンしたから。その間、部外者は一人も生徒会室には入ってないよ」
盗み見も、データのコピーも不可能。となると、残る可能性は。
「京野さん、印刷作業について詳しく教えてくれませんか」
「まず、生徒会室には二種類、合計三機のプリンターがある。一つはこの家庭用プリンター。直接ケーブルでつないでパソコンのデータを印刷する。」
京野は実際にプリンターとパソコンをケーブルで繋げて、千速新聞のデータを印刷して見せた。印刷された紙を取り出し、次はコンビニでよく見るプリンターへ僕らを導いた。
「そして、二種類目のプリンター。この業務用のやつ。こいつは大量印刷に特化してる半面、モノクロ印刷しかできない。」
京野は、慣れた手つきでプリンターのボタンを操作し、先ほど印刷した原本をプリンターに装填し、数枚のビラを刷って見せた。
「印刷の手順はこんな感じかな。全校生徒分印刷したら、職員室に生徒会全員で持って行ったよ」
「全員で、ですか」
「なにせ、全校生徒分だからね。持っていくのも、ボックスに分配するのも、人数いるほうが効率的でしょ」
勇太がううんと唸った。
「無理じゃね。生徒会のメンバー以外で『透明人間』の内容を知るなんて」
「いやいや、何のメリットがあるのさ。僕ら生徒会がリークして」
京野の言うことも一理ある。生徒会側にこんなことをするメリットは一見、見当たらない。
「じゃあ、あくまで生徒会に犯人はいないとして、推理を進めます」
少し、わざとらしく言ったので、相田に勘づかれてしまった。
「その言い方、分かったんだね」
「ああ、教授の正体までは分からないけど。情報が流出した原因は見当ついたよ」




