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探偵は生徒会室で踊る  作者: 竜崎
2章 教授の予言
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学校説明会

 八月十九日

 僕は、千速(ちはや)高校の最寄り駅である、(やしろ)駅に到着した。駅からは歩いて五分ほどで高校に到着する。道中の坂道さえなければ、文句なしの立地だ。

 夏休み真っ只中の本日、部活動もなく、出不精な僕が登校する理由はただ一つ。学校祭の準備だ。

 千速高校学校祭。毎年、夏季休暇明けに三日間に渡って開催される。一日目と二日目は一般公開され、のべ五千人の来場者を迎える。県内の学校祭でも有数の来場者数を誇っているらしい。三日目は後夜祭として、在学生徒のみで熱狂の余韻を楽しむ。

 学校祭では、一年生と二年生はクラス展示を行い、三年生は体育館で演劇の上演を行う。規定として決まっているのはそれだけで、他は有志という形で企画参加を募る。部活動の発表から個人の歌唱披露まで様々だ。

 

 僕が所属する一年三組が行う展示はインターネットリテラシーに関するものだ。原則、クラス展示のテーマは教育的な内容を含んでいなければならない。()()進学校である千速高校としての体裁を保つため、だろうか。そのうえで、来客を楽しませるエンターテイメント性を備える必要がある。

 一年三組の展示では、近未来的な世界観を演出しながら、SNS等の身近なインターネットの脅威を説明する予定だ。

 僕は、インターネットにかじりついて生きてきた人間なので、クラスの中では知識があるほうだった。そのため、来客者に説明する内容や、キャストの台本の監修を立候補した。代わりに、展示の内装や衣装、小道具などの作成作業の担当量を減らしてもらうことに成功した。もちろん、出演キャストとしての出番も少なくしてもらった。

 ゆえに、僕の出番はある程度終わっており、他の生徒に比べれば、余裕を持って行動ができる予定となっている。このクソ暑い炎天下、屋外で木工作業をする生徒たちには頭が下がる。僕は室内で涼みながら読書でもしていようかな、と考えていた。

 

 千速高校の正門をくぐり、昇降口へ歩を進める。お祭り騒ぎに興味のない、僕のような人間は、学祭準備など憂鬱でしかないが、他の生徒たちは、活気に満ち溢れていた。それほどまでに、学校祭という行事は高校生にとって、特別な存在なのだろう。

 昇降口で上履きに履き替え、僕は一年三組の教室に到着した。

 

 集合時間の十分前ではあるが、クラスのみんなは既にほとんど集まっていた。

 教室の前方に相田(あいだ)の姿があった。病院で鉢合わせたぶりだ。挨拶でもしておこうかと思ったが、相田の周りにはすでに女子の群れができていた。

 この前の件があってすっかり忘れていたが、相田はクラスの中でも目立つ方だ。スクールカーストとまではいかないが、半年が経過したこのクラスにはある程度グループ分けが出来ていた。相田はクラスの中でも、中心的な女子グループに属している。目立たない、陰気な男子グループに属する僕とは本来無縁の存在だっただろう。

 

 ほどなくして、学祭実行委員が主体となって、クラス展示の準備が始まった。しばらくしたら、僕は空き教室にでも身を隠す算段だった。

 実行委員の説明が終わり、各々が作業を始めるために散会した頃だった。

「失礼します。神原(かんばら)君、楢崎(ならざき)君、相田(あいだ)さん。生徒会室まで一緒に来ていただけますか」

 突然、一年三組に現れたのは、生徒会副会長を務める、長谷部綾(はせべあや)だった。

 クラス中の注目は副会長に呼び出しを食らう三人に向けられた。何をやらかしたのか、と教室がざわつき始めた。

 長谷部も異様な空気に気が付いたのだろう。すかさずフォローを入れた。

「三人には中学生向けの学校説明会のお手伝いについてお話があります」

 長谷部の様子からして、本題は別にあるのだろうが、この場で聞くのはこちらとしても都合が悪い。

「分かりました。行きます」

 

 生徒会室にはすでに生徒会役員の面々が揃っていた。会計の関本(せきもと)、書記の京野(きょうの)がせわしなく書類を処理している半面、会長の才木(さいき)に働いている素振りがない。

 才木はいつもの通り、この部屋の一番奥の独立した席に座っていた。仕事をしている様子の他のメンバーとは違い、才木は本を読んでいた。紙のブックカバーが付いているため、どんな本なのかは分からない。

「才木、サボってないで仕事してくれる?」

 長谷部の注意には全く耳を貸さない様子で、構わずページをめくっている。僕はその態度が頭に来た。

「才木さん、人を呼び出しておいてそれはないんじゃないですか」

「お?神原来たか」

 才木は僕のことを認識すると、すぐさま本を閉じ、席から立ち上がった。

「お前を待ってたんだよ。いや、正確にはお前らか」

 才木は、後ろの相田と勇太(ゆうた)にもちらりと目をやった。

「私たち、ですか」

「ああ、カイダとハラザキだったっけ?」

「相田です」

「楢崎です。勇太って呼んでいいですよ」

 相田は不服そうにしている。勇太は気に留めていないのか、表情を変えず訂正した。

「あとは俺が対応するから、長谷部は仕事に戻れ」

「不当な扱い受けたって、不信任案提出してもいい?」

「いいけど、勝つのは俺だ」

 

 長谷部は関本、京野と合流し、生徒会業務を再開したようだ。僕らは才木と同じ卓に座り、話を聞くことになる。

「さて、お前らを呼んだ理由だが、また犯人捜しをしてもらいたい」

 また、厄介なことに巻き込まれる予感がする。しかし、才木自ら頼み込んでくるとは、何事だろうか。

「私、必要ですか?そんな頭よくないですよ?勇太もですけど」

「おい、俺を巻き込むなよ」

 勇太は相田からの評価に異議を唱えた。正直、僕から見ても評価は変わらないが。

「ああ、犯人捜しのほうは別に神原だけでいいや」

「ほうは、ってことは、何か別の用があるんですか」

 もったいぶるように間を開けて、才木は言った。

柏木(かしわぎ)さんのこと、知りたくないか?」

 

「学祭期間中に中学生に向けた学校説明会を行うのは知っているか?」

「はい、校舎案内とか、模擬授業とかするやつですよね」

「説明会に協力してくれる生徒が足りてないんだ。お前ら三人が参加してくれるなら、柏木さんのこと、知っていることは全て話そう」

 要は、情報提供をダシにして、人手を確保する魂胆なのだろう。

「俺は全然参加できますよ。クラス展示のシフトと調整は必要だと思いますけど。相田はどうだ?」

「私もスケジュール的には問題ないけど。癪だなあ」

 勇太はあっさり快諾したのに対し、相田は渋っている。

「お前は気にならないのか?柏木さんの事件と、その事件を探ってる奴の正体」

「私も気にはなってますよ。ただ、説明会とか面倒じゃないですか」

「そうでもないぞ。基本、台本通りに喋ればいい。必ず教員一人付いてるから、困ったら頼ればいい」

 うーん、と相田が考え込んだ。

 勇太がやればいいじゃんと勧めると、相田も承諾した。

「あの、僕は参加する前提なんですか」

「生徒会入るなら参加必須だから」

 僕の生徒会立候補も、説明会参加も才木の中では決定事項らしい。

「まあ、いいですけど。柏木さんについては、今話してもらえるんですか」

「ああ、だが、先に犯人捜しについてだ」

 

 才木は、一枚のビラを机に出した。

『千速新聞』と書かれた紙には、『透明人間』のことが取り上げられていた。

 この前全校生徒に配布された、広報委員が作成している新聞だ。

「千速新聞がどうかしたんですか?それにこれ、一か月前のですよね」

「これ自体は問題ないんだよ。問題は・・・・・・おい、京野」

 才木は、京野を呼び出し、京野からスマホを受け取り、僕らに見せた。

 画面にはSNSの投稿。投稿主は千速の生徒。投稿内容は、千速新聞の内容について触れている。『透明人間って誰だと思う?てか、盗撮とかやばくね?』と。

「これの何が問題なんですか?」

「問題は投稿された日付だよ」

 才木の言った通りに投稿日を確認すると、『七月九日午後十八時五分』とあった。

 もしかしたら、と思い、先ほどの千速新聞を手に取った。左下に記載されている発行日は『七月十日』。

「見ての通り、生徒に配布する前にこいつは新聞の内容を投稿してやがる。透明人間の次は予言者現るってとこだな」

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