第一話 『約束と旅立ち』
前回のあらすじ
銀次の通う高校が今年中に廃校になることとなり、紆余曲折あって転校先と下宿先が決まった。銀次は家を後にし、電車に乗り込む。
今回は、電車に乗って、いきなり紆余曲折の部分を回想する話である。
俺は、電車に乗っていた。山にずっとこもりっきりだった俺にとっては電車から見る景色も珍しく、心躍るものがある。
「あの高層ビル、灰根山程とは言わないけど、相当高いぞ…。」
と、こんな風に、都会人には普通だろ、と言われそうなものでも、俺にとってはとても珍しい。こんなにはしゃいではいるが、同時に不安もある。それは、この都会の空気になれる事が出来るか、言った先の人と仲良くできるか…そういう不安である。でも、電車に乗り込んだ時点でもう変えることはできない。それに、せっかく親父が用意してくれた機会だ。親父の顔の広さと器の広さに大いに感謝しよう…。
ちなみに、なぜ俺がスーツケースやバッグなど大きな荷物をもって電車に乗っているか、話は今から数週間前に遡る。丁度、先生に今年中で廃校宣言をされてから数週間たった後の話である。
俺がしていた食器洗いが、あとちょっとの時点で親父がキッチンに現れた。
「銀次、話があるからちょっと私の部屋に来なさい。」
「ん?おう。」
何か俺悪いことしたかな、と疑問になりながらも食器洗いを終えて親父の部屋に向かう。そして、少し緊張しながら部屋のドアを開ける。
「洗い物終わったのかい?今日もお疲れ様、銀次。」
いきなり褒められて、ドアの前での緊張が一気に解ける。本当に親父は、話し上手だな…と、心の底から思う。
「別にどうってことないよ、で話ってなに?」
俺は、親父と机を挟む形で用意されている椅子に座りながら訊く。
「数週間前に、銀次から学校が廃校になるって話をしただろう?」
「うん、確かにしたね。それがどうしたの?」
「結論を言うと、転校先と下宿先が決まった。」
「マジ!?本当に!?」
驚きと嬉しさが同時に込み上げて、つい大声で問いただしてしまう。
「ああ、私の知り合いに喫茶店を経営している方がいらっしゃってね、そこで下宿させていただけるように話を通させてもらったんだ。ついでに、その下宿先の近くの学校にも話を付けて転校についても許可をもらっておいたよ。」
「つまり、本格的に転校の準備がほぼ完了してるってことか。」
俺の努力が実った…のではなく、親父の顔の広さと誠実さと献身的努力のおかげだろう。俺は、この時点ですでに親父に向かって大いに感謝を心に込めていた。
「そう言う事になるね…」
親父は少し、残念そうな顔をした。
「どうしたの?何か問題が起こった?」
「いや、何の問題も起こしてないよ…でも、しばらく銀次と一緒に生活できなくなると思うと、少し寂しい気持ちになるんだ。大の大人が、情けないな…」
俺は、その言葉を聞いて、親父の俺に対する愛情を強く感じた。こんなにも、俺の事を大事に思っていてくれたのか…。
「俺は、今凄く嬉しいよ。」
「…それは、家から出ることができるからかい?」
「それは、ほんの少しだけ。今俺が嬉しいと思ったのは、最高の父親を持てた事さ。」
「銀次…」
「俺、この機会を生かして、ちゃんとした大人になってくるよ。絶対にね。」
俺は、自信と感謝をこめて親父に宣言した。
「私も、銀次のような最高の息子に恵まれたことを感謝してる。だから、私たちは家で銀次を待っているよ。だから…たまには帰ってくるんだぞ。」
「それはちょっとなぁ…お母さんが面倒だし…」
「え!?ちょっと!それは…困るというか…」
「冗談だよ、余裕が出来たら帰ってくるさ。」
「なっ…全く銀次は…」
そんな親子の軽口を交わして、父親の愛情をずっと感じていた。
それからは、学校の手続きやら住民票についての手続きやら、荷物の準備やらで忙しく、しばらくの間余裕がなかった。そして、地元の皆や、家族に挨拶をして家を出て、電車に乗り込んだ。
そうして、今に至る。絶対に、親父に恥かかせないようにしよう…。俺は色んな不安を親父の想いでぬぐいながらそう決意した。
そしてついに、目的の駅に到着した。俺は急いで電車を降りて駅を出る。その先は、驚くような光景が広がっていた。私服で歩く少年少女の数々、スーツ姿の大人の面々。山の中の何もない、人通りも少ないでほぼ何もなかった俺の地元とは大きく違う。俺は、しばらく放心状態でいた。
「おっと、いけない…下宿先に向かわないと…」
通行の邪魔にもなっていることに気付いたため、さっさとその駅前を後にする。そして、バックから地図を取り出して、それを開く。目印や、特徴の強い建物が事細やかに描かれていたため、目的地に正しく向かう事が出来た。俺に、地図を持っていながらも迷っちゃうー、なんて残念スペックは持ち合わせてないからなっ!食堂
やがて、俺は猫のシルエットが目立つ看板を見つけた。猫のシルエットの下には、オシャレに『White Cat Cafe』と書かれていた。どうやら、ここが親父の言っていた『白猫カフェテリア』らしい。外観は、レトロで渋い感じを出しながらも、若者受けしそうなモダンで清潔な落ち着いた雰囲気の木造建築物…親父のメモ書きにはそう書いてあったが、全くその通りだった。というか、こんなに事細やかかつ正確に店の特徴を書ける親父は本当にすごいなと思った。まあ、わかってたことだけど。改めて更に親父の凄さを強く実感した。取り敢えず、中に入ろう。現在は、日曜日の休日の正午。closeの看板や、それに類する表示物がないことを考えると、今現在も営業している可能性が高い。俺は、そっとガラスのはめ殺し窓から中を覗いてみる。当たり前だが、普通にお客と従業員がいた。普通に営業中らしい。困ったな…表から入っていいものか…だからと言って裏から入ろうとしたら営業中じゃ迷惑になりかねないしなぁ…。いや、まてよ?これは、カフェとしての質を確かめるチャンスじゃないか?下宿してくる店子として扱われる前に、お客としてこのカフェテリアの現状を知っておくべきだ。親父の人間観を疑うわけでは無いが…客に対していい加減な態度をとったり、入れた紅茶や作った料理をいい加減に運んだり、そのくせ男性客の人気だけ根こそぎとっていく頭おかしい女が俺の身近にいたからな…。俺は、真新しい記憶を振り払って店に入った。
「いらっしゃいませ…」
これから頑張りましょう銀次さん、そしていきなり分析しようとするのはやめてください…。(by店員)
次回予告、
次回は引き続き、銀次の店分析タイム。中の雰囲気、従業員の質、料理の味等々…色んな観点から白猫カフェテリアを見ていくぞ!みんなも、就職する時する前は、就職先の事を調べておこう!
次回、第二話『白猫カフェテリアの中身』
次回も見てくださいね。




