スマホの薬
8話
ある日、マリアが深刻な表情で話しかけてきた。何かと思い、詳しく聞いてみた。
「優司、ちょっといいかな?話があるの。」
「ん?なんだい?改まって。」
「実は、スマホの薬が出来たの・・・。」
「スマホの薬!?・・・何それ・・・?」
「そう、世界にアクセスできる薬・・・。」
俺は納得した。以前、スマホの話をしたときに、そんな話をしていたことを思い出した。
「よかったじゃないか!目的が達成できて!」
俺は素直に喜んで見せたが、マリアは相変わらず深刻な表情を崩さないでいる。よって、どうしたのかを聞いてみた。
「どうしたんだい?浮かない顔をして。せっかく完成したんだから喜べばいいのに。」
「確かに、完成は嬉しいのだけれど。ちょっと問題があって・・・。」
「問題!?」
「この薬は優司のために作ったの。理由は2つ。まずは優司が素霊を見られるようにするため。素霊を見られるようになるにはこっちの世界にリンクする必要があるのではないかと考えたの。」
マリア曰く、俺が素霊を見ることが出来ないのは、俺自体に素霊が宿っていないからであろうとのことだった。よって、こちらの世界にリンクするには俺の体に各素霊を宿した物質を浸み込ませる必要があるのではないかと・・・。
まずは8つの素霊が宿りそうな物質を作り、その物質に素霊を宿すことに成功したそうだ。そして、その物質を生物に投与して効果があることまで確認できたそうだ。
「凄いじゃないか!信じられないよ!」
俺はマリアを元気づけるため、ちょっと大げさに驚いて見せた。
「ありがとう。でも、優司に効果があるかは判らない。成功したと言っても、こっちの生物で試しただけだから。あくまでも8つの素霊を宿していない生物に投与して、8つの素霊を宿すことが確認できただけ。まったく素霊が宿っていない異世界人の優司に効くかは解らないの。」
「・・・なるほど、効くかどうかは飲んでみないと解らないってことだな・・・。」
「・・・というと、変な副作用が出たり、もしくはポックリっていうのもあるのかもなぁ・・・。」
「ちなみに副作用とかあるの?」
「解らないの。さすがに死ぬことは無いと思う。なぜなら優司はこっちの食べ物をたべても平気だから。こっちの世界の食べ物には全て素霊が宿っているから。」
「・・・おおお、知らずに食べてた素霊さん達。確かにお腹が痛くなったりとかは一度も無いなぁ・・・。」
「つまり、素霊が俺の体に宿ったとき、どんな副作用が出るかが解らないってことだね?」
「そう、その通りよ。実際に副作用があるみたいだから・・・。」
「えっ!副作用がもう出ているの!?」
「うん、実は翻訳の薬なんだけど、本当は半年で効力が無くなるの。だから半年に一度は服用する必要があるのだけれど。そのために何本か作って準備をしていたの。でも優司は2年経った今でも薬が切れていない。その理由が全く解らないわ。」
「・・・おおおおおっ!衝撃的事実が発覚!!俺は今、絶賛副作用中だったのだ!!確かに体は何ともないが・・・。」
「それと、もう一つの理由がこれ。」
マリアが巻物を俺の前に差し出した。
「これは『転移の巻物』、自分の思う場所に瞬間移動できる呪文が書かれているわ。」
「この呪文も前に話した『翻訳のペン』で書いているの。だから優司にも読めると思う。でも条件は素霊が見られるようにならないと効果はないと思う。」
俺は納得した。マリアは俺が元の世界に帰る方法を探していてくれていたんだと。俺は心の底からマリアに感謝の気持ちを持った。
「ありがとう。俺の帰る方法を探していてくれたんだね・・・。」
マリアは悲しそうな目で俺を見つめてきた。
「ええ、私が同じ状況になったら、やっぱり帰りたいと思うはずだから・・・。だけど、もし帰れたとしても、こっちに戻ってくることが出来ないかもしれないから・・・。」
マリアの中で相当な葛藤があったことが伺える。俺は意を決してマリアに伝えた。
「とりあえず、スマホの薬を飲んでみよう。副作用の件は症状が出てから考えればいいよ!なぁに、超優秀な錬金術師さんが居るから大丈夫!」
「ただ、転移の巻物は使わないよ。」
マリアが驚きの目でこちらを見ている。
「俺はリンのガーディアンだからね!ガーディアンが守るべき対象を置いてどっかに行っちゃったら変な話だから!」
俺は笑顔で話し、さらに続けた。
「転移の巻物を出来る限りの数を作っておいてよ!スマホの薬が効いた場合に使って練習をしておきたいから。それに、瞬間移動なんて俺の元居た世界では夢のまた夢のことだから!是非経験してみたい!!」
マリアはプッっと噴出した。マリアの顔に笑顔が戻った。やっぱり美人には笑顔が一番と俺は思った。
早速スマホの薬を飲もうとしたが、副作用が出たときの準備をしたいとのことで、明日に伸ばすこととなった。
次の日、スマホの薬を飲むことになった。マリアは一晩かけて副作用が出たときの薬を作っていた。一晩で出来るの!?と思っていたがスマホの薬ができたことで、この薬もできたとのことだ。というよりもこっちの薬の方が簡単だそうだ。
マリア曰く、8つの素霊はそれぞれ対になっているらしく、相対する素霊をくっつけると打ち消しあってしまうそうだ。よって8つの素霊を同時に同じ物質に宿らせることが難しいらしい。だから2年も掛かったのであろう。
それであれば、消す方の薬が簡単に出来るというのは納得できる。
「じゃあ、早速飲んでみよう。大丈夫、心配ないよ。」
俺の前で心配そうにマリアとリン、サラ、フェンリル、ヤタ、アピスが見ている。それとカイとルリ、モンチも心配して駆けつけたようだ。
昨日の夜にヤタが知らせてくれたらしい。
俺はニコッと笑顔でスマホの薬を飲みほした。味はほとんど無い、というよりも何というか無機質な感じ?さすがスマホの薬と言ったところか・・・。
どうなるかちょっと待ってみたが、体に変化はない。素霊も見える様にはならない。
心配してフェンリルが話し掛けてきた。
「どうだ?優司、素霊は見えるか?」
「いや、まったく・・・。」
「え~!見えないの!?」
サラが割って入る。
「体はどう?だるいとかは無い?」
マリアが心配そうに話す。
「特になんともない。いつも通り。」
「効かなかったみたいだね。」
ヤタがズバッと結論を言う。
「残念、残念。」
と言いながらアピスが牛舎へ戻って行った。
「まぁ、しばらく様子を見てみよう。俺の場合は異世界人だから。効果がでるのに時間が掛かるのかも知れないし。」
俺は、良いも悪いも効果がまったく出ないことが俺のせいのような気がしてバツが悪かった。
「そうだね、まぁ、いつも通りなら問題ないよね。これでいつもの様に剣術の稽古が出来る。」
カイがニコっとしながら話した。
俺はマリアに転移の巻物はちゃんと取っておくようにお願いした。




