魔族襲撃
9話
今日も至って平和だ。いつものようにレプラコーンの里で、いくつかの手伝いをしているところだ。天気も良く、順調に作業をしているとカイがルリとモンチと一緒にお昼にしようと話しかけてきた。
「優司、お疲れ様。お昼にしようよ!」
「ああ、ありがとう。遠慮なく頂くよ。」
4人でお昼を食べながら他愛のない話をしていたときだった。サラが急いだ様子で飛んできた。
「優司!大変!!マリアが魔族に襲われて!リンが連れて行かれちゃった!」
俺は聞くや否や家に向かって走り出した。後ろからカイ達も慌てて走り出した。
俺は走りながらサラに状況を聞いた。
「マリアは大丈夫か!?」
「わかんない!マリアが優司を呼んできてって言うから急いで来たの!!」
「リンは!?」
「無理矢理に馬車に乗せられて、連れて行かれちゃった!」
「でもフェンリルとヤタとアピスが追いかけている!」
「・・・二人とも無事でいてくれ!・・・」
俺は祈るような思いで家に走って行った。
家の前に来るとマリアが血まみれで倒れていた。かろうじて息があるような状態であった。すぐに抱え上げた。
「マリア!大丈夫か!?ケガは!?」
「ゆ、優司、私はもうダメ・・・、リ、リンを、リンを助けて!!」
「は、早く、リンを・・・、お願い!!」
「わかった!もうしゃべるな!」
すぐにカイ達も到着した。
「モンチ!回復術をっ、早く!!」
「わ、わ、わかった!や、やってみる・・・。」
「ルリ、家の中から回復薬をっ、早く!」
「・・・・」
「は、はいっ!」
「ゆ、優司、お願い・・リンを、リンを、早く!!」
「・・・・。」
「わかった。」
「モンチ、マリアを頼む!」
「は、はいっ!優司は!?」
「俺はリンを追う!」
そう言って俺はリンの後を追った。その後をカイとサラが追いかけて来る。
しばらく走るとフェンリルとアピス、そしてヤタが何者かと戦っていた。その相手は深緑の肌に翼が生えた異形の者たちであった。
「・・・あれが魔族!?・・・ガーゴイルだ!!」
そう、それらは元の世界の置物などにあるガーゴイルそのものであった。そのガーゴイルが3体、それぞれフェンリル達と戦っている。
さらにその奥には赤い体に牡牛の角を生やした異形の者と薄い水色をした異形の者が戦闘を見物していた。
「あれはレッサーデーモンとグレーターデーモンか!?」
俺は元の世界のファンタジーに出てくる悪魔の姿を重ね合わせていた。
「・・・敵は5体、こっちは6人だが、サラは無論のこと、カイも丸腰だから人数には含められないな・・・」
俺は後ろに着いて来ているカイとサラを無言で制止し、劣勢であったヤタに加勢した。
「ヤタ、変わるぞ・・・。」
ヤタは何も言わず、俺の後ろに引き下がり、カイの横の木の枝に止まった。
ヤタの相手をしていたガーゴイルは前に出てきた俺を不思議な生物でも見る様な表情で見ていた。
2メートル近くはあろうかという怪物はニヤリと不敵な笑みを浮かべて俺に近づいてきた。そして間合いに入るなり、右手の鋭い爪を俺の顔めがけて薙いできた。
俺は空蝉を使い、左半身で躱した。すかさず右半身に切替え、右掌底をガーゴイルの右腕の内側から交差するような形でガーゴイルの顎を突き上げた。ガーゴイルは鈍い声を上げた。
これは、組手や乱取りといった稽古では無い。ましてルールのある試合でもない。命のやり取りをする『実戦』あり『戦闘』である。さらに言えば、相手はマリアを襲い、リンを攫って行こうとする『敵』である。手加減をする必要は一切ない。
俺はそのまま動きを止めたガーゴイルの額に掌底を当て、右足をガーゴイルの足へ掛けながら頭を地面の石へ叩きつけた。
「ぐえっ!」
という声を一瞬上げ、ガーゴイルはすべての動きを止めた。
その場に居たすべての魔族は、得体のしれない種族に一瞬で仲間が倒されたことを呑み込めないようであった。
しかしながら、俺の右斜め前でアピスと交戦していたガーゴイルがすぐさま飛び上がり、俺めがけて右足の爪を刺してきた。
その攻撃を空蝉で左半身に躱し、右手で攻撃を捌いて往なした。回転をしながら、すかさずガーゴイルの背中へ左足刀を入れた。ガーゴイルは目の前の木に頭を強打した。
振り返るともう一体のガーゴイルが俺の顔めがけて爪を薙いできた。俺は体を沈めて躱し、右正拳突きをガーゴイルの鳩尾へ渾身の力を込めて打ち込んだ。
ガーゴイルの体は、くの字に折れ曲がり、血液の様なものを吐きながら崩れ落ちた。
崩れ落ちたガーゴイルの先で赤い魔族が魔術の詠唱をするのが見えた。すかさず持っていたレプラコーンの里で使うつもりであったクギを棒手裏剣として赤い魔族に打った。クギは見事に赤い魔族の心臓に突き刺さり、詠唱は止まった。
背中に足刀を入れたガーゴイルがふらつきながらも近づいてきて攻撃をしてきた。攻撃は右手の爪を袈裟懸けに振り下ろす様な感じであった。
俺はガーゴイルの振り下ろしてきた手首を左手で流し取り、ガーゴイルの懐へもぐり込んで、一本背負いでガーゴイルを地面に頭から叩きつけた。ゴギュッという鈍い音が鳴り、ガーゴイルは二度と立ち上がることはなかった。
この場にいるすべての者が呆然と俺の戦闘を見ていた。
呆然としていたグレーターデーモンが我に返り、レッサーデーモンを立ち上がらせてこちらを睨んでいた。
俺とフェンリル達はレッサーデーモンを支えてこちらを睨んでいるグレーターデーモンへ近づいて行った。
「エルフの娘を返してもらおうか・・・。」
「応じない場合は容赦しない。この状況を見たら不利であることは理解できると思うが・・・?」
俺はグレーターデーモンへリンの返還を要求した。しかしながら、グレーターデーモンは不適な笑みを浮かべながら言い返してきた。
「ふん、奴隷風情が生意気な!返して欲しければ取り返しに来い!エルフの娘は魔国へ連れて行った!」
俺たちはグレーターデーモンへ詰め寄った。そのタイミングでグレーターデーモンは支えていたレッサーデーモンの胸に刺さったクギを一気にレッサーデーモンへ突き刺してレッサーデーモンを絶命させた。そしてその亡骸を俺たち目掛けて投げつけてきた。
俺たちはレッサーデーモンの亡骸を躱し、戦闘態勢を整えたが、グレーターデーモンは既に飛び上がり、不敵な笑みを浮かべながら飛び去って行った。
ヤタが後を追おうとしたが、返り討ちに遭う可能性があるので、それを制止した。
「ヤタ、追うな!」
「救出の準備をしっかりしてから行くぞ!それとマリアが心配だ!一旦戻るぞ!」
俺たちは急いでマリアの元へ戻って行った。戻りながら俺はグレーターデーモンが言った言葉を思い出し、疑問に思っていた。
「・・・奴隷風情!?どういうことだ!?俺が奴隷ということか・・・?」




