魔国の状況
31話
魔国の中の一つの魔都にある城塞、その城の部屋の扉を叩く一人の魔人がいる。その魔族はリンを攫ったアークデーモンであった。
「入れ・・・。」
アークデーモンは扉を開け、部屋の中に入り、高貴な魔人へ報告を行った。
「アスモデウス様、エルフの娘を連れてきました。今地下牢に入れております。」
「うむ、ご苦労であった。して、そのエルフの娘は本物であろうな!?」
アスモデウスと呼ばれたアークデーモンは一緒に部屋に入ったエルフの男に問い掛けた。
「間違いございません。エディの娘です。」
エルフの男は言葉短に答えた。
「それで、ユダよ、禁断の力を使えるのは何時頃になるのか?」
アスモデウスはエルフの男をユダと呼び、リンの力のことを聞いた。
「そうですね、あと2、3年といったところでしょうか・・・。」
ユダと呼ばれたエルフの男は再度、言葉少なに答えた。
「うむ、ではアザゼルよ、力に目覚めるまでの管理を任せるぞ!」
アザゼルと呼ばれたアークデーモンも言葉少なに答えた。
「はっ!お任せを!」
アザゼルとユダはアスモデウスの部屋を後にした。途中の廊下で一人の鬼人の男とすれ違った。アザゼルは、すれ違うときに鬼人の男に話し掛けた。
「これは、ヤシャ殿、アスモデウス様へ御用ですかな?」
ヤシャと呼ばれた鬼人の男は軽く会釈をしながら答えた。
「アラハバキ様の使いで参った。アザゼル殿も息災ですかな?ところで、噂にあった禁断の力を宿したエルフの娘のことは如何なりましたかな?」
「ほう、鬼人の方達にも噂は届いていますか・・・。まぁ、首尾よく事は運べていますよ。」
アザゼルは警戒しながらヤシャの問に答えていた。
「天界を追われた御身の無念を晴らすことに口を出しはしませんが、この世界を滅ぼすようなことは勘弁してくださいよ!」
ヤシャはアザゼルへ釘を刺す様に伝えながらアスモデウスの居る部屋へ入って行った。
「ふんっ!鬼人風情がっ!!」
アザゼルは不快な表情を浮かべて吐き捨てた。
ヤシャはアスモデウスへアラハバキの伝言を伝えた。そして、エルフの娘のことを聞いてみた。
「以上がアラハバキ様の希望となります。よろしいですかな?」
「うむ、良く解った。心に留めておこう。」
「それと、件のエルフの娘を手に入れたと聞いたのですが、本当ですか?」
「ああ、その通りだが、それが何か?」
「いや、天族の一部が我々魔族を敵視しているのは理解していますが、だからと言って天族との戦は、この世界を滅ぼしかねません。あまり堕天した者たちに組するのは、どうかと思いますが・・・!」
「我がアラハバキ様や他の魔人や鬼人も憂慮しておりますよ!」
「ふんっ!そなた達はそうかもしれぬが、我々は主であるサタン様を悪魔と辱められているのだ!黙っている訳にはいかんよ!」
「我々魔族は確かに破壊活動を主にする種族であるが、それは古いものを壊して改革を進めるという意味がある。サタン様はその意味で『対抗』することを司っている。現状を監視し、不必要ならば破壊するという緊張感がなければ、この世界を維持することは不可能だ!」
「それを悪であるというのであれば、この世界の否定になる!そのことを秩序の神霊へ知らしめてやらないと・・・。」
「そうですか・・・。まぁ、ほどほどにしてください。」
「ところで、件のエルフの娘とは、どこにいるのですか?可能であれば一目見ておきたいと思いまして・・・。」
ヤシャの申し出に不信感を募らせながらアスモデウスは答えた。
「あるところに監禁している。それ以外は言えんよ」
「そうですか、まぁ、ちょっと興味がありましたもので・・・。」
「それでは用事も済みましたので、失礼するとしましょう」
「うむ、ご苦労であった。アラハバキ殿に良しなに伝えてくれ!」
ヤシャはアスモデウスの部屋を後にした。
「・・・あるところに監禁!・・・どうせ地下牢だろう・・・。探ってみるか!」
ヤシャは城の闇に消えていった。
アスモデウスの城の地下牢の影にヤシャが潜んでいる。攫われたエルフの娘、リンの様子を見ようとの行動である。
ヤシャは鬼人であるヤクシャ族の戦士である。速攻型の戦士であり、隠密活動が得意である。よって、城に忍び込むことは朝飯前であった。
「・・・ふむ、あそこの牢がエルフの娘か・・・。近くで見てみよう・・・。」
ヤシャは牢の前に行き、中を覗いてみた。すると一人のエルフの少女が床に座り込んで顔を伏せている。どうやら泣き疲れているようであった。
「・・・歳は10歳ぐらいか?こんな少女に禁断の力があるのか・・・?」
ヤシャは、そんなことを考えながらリンを見ていた。すると・・・。
「誰!?そこに居るのは?」
突然リンが顔を上げ、ヤシャの居る闇に向かって話し掛けてきた。
「魔族の・・・。鬼人の方ね!何しているの?」
ヤシャは心臓が飛び出るほどの驚きであった。今まで隠密行動を看破されたことは一度も無い。
今回の任務も表向きは伝言であるが、本命は出来るのであればエルフの娘を確認してくることであった。よって、隠密行動が得意なヤシャが指名されたのである。
「おじさん!隠れていないで出てきてくださらない!?大丈夫よ!今ここには私とあなたしか居ないから!隠れなくても大丈夫!」
リンは泣きはらした顔に笑顔を浮かべながらヤシャに出てくることを促した。
ヤシャは観念したようにリンの前に姿を現した。
「初めまして、リンっていいます!私、鬼人の方を見るのは初めてです。」
リンは屈託のない笑顔をヤシャに向けながら自己紹介をした。その笑顔を見て、ヤシャは即決した。
「・・・この娘、助けよう・・・!」
「しっ!静かに!今すぐ出してやる!」
そう言うや否や、ヤシャは錠前を簡単に外し、リンを抱いて闇の中に消えた。
アスモデウスの城の者たちは、この出来事にまったく気づいていない様子であった。




