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10話

挿絵(By みてみん)

「これはこれは能島殿」 

 能島城にて村上通康と武吉は出会った。

「2000もの兵。見事ですね」

 彼が連れてきた手勢は2000。

 しかもその8割ほどが中型船の関船で構成されている。

 その船団は壮観なもので、普段船に見慣れている武吉ですら息をのんだ。

「100艘もの船を用意しておいてよく仰る」

 通康はそう言って笑った。

 能島村上家は他家に比べ小早に注力している。

 その為、船の数だけで言えば周辺の家を凌駕している。

「所詮は小舟です」

 武吉はそう言って謙遜したが、内心は違った。

 彼にとって小早こそが彼等海賊の要であり、手足なのだ。

 それを軽視して関船や安宅船に注力する連中の気が知れなかった。

「時に、河野様の兵は何処に?」

 そう尋ねた武吉に通康は溜息を吐くとある方向を指さした。

 武吉がその方向に視線を向けると、そこには見事に飾られた安宅船が8艘鎮座していた。

「……河野様は何か勘違いしておられるようですね」

「そう仰るな」

 武吉が呆れるように言うと通康は顔をしかめた。

 来島村上家は事実上独立した勢力とみられることもあるが、実際には河野家の重臣として鎮座している。

 そんな彼でも思うところはあるようだが、明確に口にすることはない。

大野利通おおのとしみち殿が来られたが、指揮は拙者が執らせていただく」

 そう言った通康の表情には疲労が見えていた。

 話に聞く限りだが、河野の人間は過去の栄光にすがり、今の衰退した河野家を認めようとせずいささか虚勢や見栄を張ることがあるらしい。

「では本隊の後方に構えていただきたい」

 武吉の言葉に通康は首を傾げた。

「よいのですか?」

 通康の問いに武吉はにやりと笑い、少し遠くの方を見つめた。

「此度の戦、どの隊であろうと激戦になるでしょうから変わりませぬ」

 武吉の答えを聞いた通康は大笑いした。

 その姿は海賊らしいもので見ていて心地の良いものだった。


 能島、来島、河野、大祝。

 その四勢力の軍勢はおよそ6000。

 対して大内方は大三島の北、高崎城に8000もの兵を用意していた。

 白井賢胤を筆頭に大内軍が持つほぼすべての水軍が招集された。

「軍勢は4つに分割せよ」

 賢胤は次々と集結する軍勢を見守りながら適宜命令を下していく。

塩谷隆房しおやたかふさを先陣の大将に。次鋒は宇垣正治うがきまさはる。本軍は野間隆実のまたかさね。後備は権田忠宏ごんだただひろ。それぞれ2000を振り分けろ」

 彼はすらすらと各隊の編成を紙に記すと配下の者に手渡した。

 本当ならば皆の前でこの沙汰を伝える必要があるのだが、一々評定を開く暇がない。

「拙者の出番はないのですか?」

 陣屋の奥から卑しく笑った男が出てきた。

 彼の服装はこの戦場にあって平服であった。

「相変わらず甲冑を身に付けぬのですね」

 賢胤は呆れるように言った。

 この男、合戦でも甲冑を身に着けず着物で縦横無尽に駆け回っている。

 普通ならただで済まないのだが、この男何度もその戦場を生き残っている。

「甲冑は重くて敵いませぬ」

 そういって男は笑った。

「しかし貴方様は毛利様のお子。お体にはご注意なされませ」

 賢胤の言葉に男はにやりと笑って応じた。

 男の名は、毛利元久もうりもとひさ

 毛利家次男にして庶子。

 兄の隆元よりも早く生まれたのにも関わらず弟とされた。


 彼は、歴史に存在しない人物であった。



「敵の陣容、判明いたしました」

 大山祇神社で終結した安舎らに一報が届けられた。

 村上家の船衆は各地に点在しておりありとあらゆる情報が能島や来島へと集まる。

 そしてその中には各地から集結する大内軍の陣容も含まれていた。

「総大将は恐らく白井賢胤。他にも塩谷、宇垣、権田勢を筆頭に8000程度の軍勢が集っている様子」

 報告を読み上げた武吉に安舎は唸った。 

 我等とは2000もの兵数差がある。

「それと……」

 武吉はそう口を開いた。

 皆が耳を傾けるなか驚愕の一言を口にした。

「毛利勢もいるとのこと」

 その言葉に一同はどよめいた。

 先にあげた白井賢胤や塩谷は大名の家臣だ。

 対して毛利は大内家に臣従しているものの安芸の国をほぼ手中に収めている名家。

「この戦、簡単には行きませぬな」

 毛利が出てくるということは大内の一門衆が出てきてもおかしくない。

 それほど相手にとってこの戦は重要なものになっているということだった。

「必死ですな」

 通康がそう声を上げた。

 必死なのだ。

 大内家は近年負け戦が続いている。

 民心も離れ、家臣の裏切りがいつ起きてもおかしくない。

 ここで勝って家臣の心をつなぎとめるまたとない機会でもある。

「所詮は烏合の衆……、と言いたいですが」

 そう言った武吉に安舎は眉間にしわを寄せ呟いた。

「これで3度目。恐らく敵はここの潮にも慣れてきたころですね」

 安舎の言葉に一同はうなずいた。

 手ごわい相手である。

 この陣には何度も大内と戦ってきた将がそろっているが、大内は手ごわいというのが彼らの総意であった。

 皆が思案を巡らせていると突然、一人の兵士が駆け込んできた。

 そして平伏するとこう叫んだ。

「大内勢! 高崎岬城を出陣! その後南下しているとの由!」

 兵士の言葉に武吉は立ち上がると怒鳴った。

「ここに向かっておるということか?!」

 その問いに兵は困惑と共に応えた。

「敵はやや西に針路をとり甘崎城に向かっていると思われまする」

 甘崎城、その名はここにいる者にとっては聞きなれているものであった。

 大三島の左隣にある同規模の島に構えられた城の名前である。

 島は大崎島といい、この位置に敵が陣取るということは重要な意味があった。

「……困りましたな」

 通康はそう呟いた。

 甘崎城の位置は来島、能島、湯築のそれぞれの島を活動圏内に収めている。

 高崎岬城よりは小規模な城だが、地理的優位は大きい。

「そもそもどれほどの規模なのだ?」

 武吉の問い。

 兵はそれに声を上げた。

「高崎岬城から5000ほどが移動した模様です」

 その言葉を聞き、今まで押し黙っていた大野利通が声を上げた。

「っ! 湯築じゃ! 湯築に来る!」

 焦って声を上げた彼に皆が嫌悪の目を向けた。

 だが、彼は意に介せず言葉をつづけた。

「我等、河野衆は湯築に帰らせていただく!」

 そう言った彼に通康はうろたえた。

 ここで大祝を見捨てると河野家の信頼が地に落ちる。

 それだけはしてはいけないと感じたのだろう。

 だが、面と向かって彼を叱責することは通康にはできなかった。

「お待ちくだされ」

 通康の代わりに彼を押しとどめたのは武吉であった。

「これは敵の策にございまする。陣を移動するだけで我等の分散を狙っているのでございまする」

 そう言った武吉に利通は錯乱しながら声を荒げる。

「ではどうするのだ!」

 彼の問いに武吉は通康、安舎と視線を向け、最後に利通を見つめて、口角を吊り上げた。

 そしてゆっくりと口を開く。


「打って出まする」

 

 武吉の言葉に一同は驚愕したのであった。

資格試験落ちた雪楽党です。

もう少し勉強しなければならないので更新頻度はこのままです。

ご容赦ください……。


ご感想ありがとうございます。

日々の励みになっています。

ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします。

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