第六十六話
停泊場に到着したドレッドと、彼に随行していた兵士達は遠目に映る異様な人影に身構える。ドレッドの後ろで歪な縦隊だった隊列を横隊に変える兵士達。反射的な行動だ。練度の高さが窺える。その一方、一行の中でマリアンだけはドレッドとの遭遇を気に病んでいて、人影どころではない。
兵士達は停泊場の町側入り口から人影までの、半ばまで進んだところで人影が土塊で出来ているのに気付く。その人影が誰かを押さえ付けていることもだ。地面が抉れているのもはっきりと見え、人影が何から形作られたかは容易に想像できた。
兵士達に動揺が走る。土魔法で造形可能とは言え、そのための魔法回路の構築や発動の手間を考慮するなら非現実的。戦闘やそれに類するものに使えるとはとても思えない。どんな酔狂者か。
これは、土塊の人影が動くとは思いもしていないことから、割と呑気に考えているのだ。
そんな彼らの到着をシーリスはサーシャに先んじて察知しており、幾分かの注意を向けている。それに遅れること暫くして、賊の一人も気付く。
「いいところに来てくれた! 手を貸してくれ! 早くこの賊の女を捕らえてくれ!」
いけしゃあしゃあとそんなことを言った。
「その女が賊か! 待っていろ。直ぐに助ける!」
兵士の一人が芝居がかった口調で前に出る。残る二人は顔を見合わせて首を傾げながらも、同僚がそうしているのだからと、前に出た兵士の横に並ぶ。
慌てるのがマリアンだ。項垂れている場合ではないとばかりに叫ぶ。
「違います! その女性はわたし達を助けてくださった方です! 賊はその男です!」
「そうか、読めたぞ! お前は賊の仲間だったのだな!」
最初に前に出た兵士がまた芝居がかった口調で言った。その言葉をマリアンは本能で拒絶し、二の句が継げなくなる。残る兵士達はマリアンと、マリアンに矛先を向けた兵士を交互に見やる。シーリスは腰に腕を当てて小首を傾げて傍観し、サーシャはおろおろしながらマリアンを案じる。ドレッドは憮然として賊の味方をした兵士を見た。
「そこの二人、その兵士を捕らえよ」
ドレッドはゆっくりと、そしてはっきりと言った。誰の言葉を信じるかなど、端から決まっているのだ。マリアンに出し抜かれた格好になったからと、サーシャに関わる部分で彼女への評価を減じたりはしない。彼女のサーシャを案じる心根は本物だ。安全に関わるようなところで嘘など吐かないと確信している。
しかし二人の兵士は戸惑った。彼らにとっては見ず知らずの女の言葉よりも仲間の兵士の言葉の方が信じられるものなのだ。
そこにどやどやと足音が近付いて来た。
「ド、ドレッド殿……」
漸く到着した守備隊隊長が息を切らせながらドレッドに呼び掛けた。引き連れていた兵士達の息は殆ど乱れていない。「遅れてはならん」と言った本人が足を引っ張って遅れた訳である。
「あ、あの人型は一体……?」
隊長がまず気にしたのは土塊で出来た人影だった。ドレッドも人影が気になりはするが、差し当たっての問題はそこではない。
「それよりも先に、その人型に捕らえられているのは守備隊の者ですか?」
問われた隊長は賊の顔を確かめ、連れていた兵士にも確認を取ってから答える。
「今日、この停泊場の警備を担当していた者ですが……、なぜ彼が捕らわれているのでしょう?」
「あの者が賊です」
「何と!?」
「彼は賊ではありません! 賊はあの女です!」
先に賊の味方をした兵士が叫んだ。その往生際の悪さにドレッドは呆れるほどだ。
「あの者も賊の仲間でしょう。直ぐに捕らえてください」
「し、しかし……」
状況を把握しきれずに戸惑う隊長。急に部下が賊だと言われても直ぐには頷けない。しかしそんな隊長にドレッドは顔を寄せて囁くように言う。
「自分の捜していた方は見つかりました。この意味はお解りでしょう?」
隊長がハッと目を見開く。周囲を見回してドレッドを、マリアンを、そしてシーリスに目を留める。
「で、ではあの方が……」
慄くように呟いた隊長は何か勘違いしているようであった。




