第五十七話
翌日。ノルト、クインクトと、リリナ、エミリー、オリエはダンジョンからは少し離れた場所で待ち合わせた。
「あたし達が誰かと待ち合わせしてるのを知ったら、みんなびっくりするからな」
そんな理由からである。自己紹介は昨晩の食事の時に済ませた。
待ち合わせ場所に現れたリリナとオリエを見て、ノルトは驚きに目を剥く。
「そ、その格好でダンジョンに行かれるのですか?」
エミリーこそフリル付きのフレアスカートからズボンに穿き替えているが、リリナとオリエは前日に見たままのほぼ全裸なのだ。
「どこかにおかしなところがありましてん?」
「あ……」
頭から何もかもおかしいと口走りそうになったノルトだったが自重した。
「頭から何もかもおかしいんだよ、お前らは! せめて体裁くらい取り繕いやがれ!」
エミリーは皆まで言った。
「もう、エミリーさんたら。そんなにプンプンしてたら不細工になっちゃいますわよ」
リリナは腰に手を当て、少し口を尖らせた。それからエミリーの耳元に口を寄せる。
「それにオリエさんに体裁を整えさせようとしたらまたお裁縫ですわよ?」
「ぐぬぬ……」
エミリーは悔しげに唸る。オリエの好きにさせることで裁縫から解放され、何より衣類の調達に困らなくなったのだ。この点に言及されれば非常に反論しにくい。
「エミリーさんも問題ないようですわん。ノルトさんも問題ありませんわよね?」
リリナはにこやかにしているが、そこには有無を言わせぬ迫力が有り、ノルトは「は、はい」と頷かされてしまった。
「それじゃ、行くぞ」
端からリリナやオリエの格好を気にしていなかったクインクトは、頃合いを見計らって声を掛けた。
ダンジョンへは分かれて時間を置いて移動する。一緒に向かっては折角離れた場所で待ち合わせたのに注目を集めてしまう。先に行くのはノルトとクインクトだ。本当ならダンジョンに慣れているリリナ達が先に入って待つ方が良いが、ノルト達がダンジョンに入ってからちょっとした段取りを必要とするためだ。
段取りとは他でもない。リリナ達との話し合いで、ダンジョン内の移動は走ることになった。しかしそれでは体力的にも技能的にもダンジョンでの活動に向かないノルトは付いて行けない。だからそのノルトをクインクトが抱えて行くための籠の組み立てである。引っ張るだけなら浮遊器で浮いていれば容易だ。しかしそれで走ろうものならゴッチンゴッチン岩壁にぶつかってしまって、ノルトは血塗れ、最悪では昇天してしまう。だから多少ぶつかっても大丈夫なように囲うのである。
ダンジョンに入り、リリナから聞いた小部屋に着くと、クインクトは嫌な顔一つせずに籠を組み立てる。もう何度も繰り返した作業だから早いものだ。リリナ達が合流した時には組み上がっていた。
「準備はいいか?」
「はい、直ぐに」
エミリーの問いに答え、ノルトは急いで籠に入る。入ってしまえばどう見ても囚われ人だ。エミリー、リリナ、オリエは笑って良いのか、呆れて良いのか、はたまた哀れんで良いのか判らないような、複雑な表情をする。ノルトは三人の様子など気にせずに籠の真ん中の支柱に抱き付いて、フローターを起動する。籠が浮かび上がった。
「準備オッケーです。行きましょう」
「そんな訳で、適当な場所に案内宜しく」
クインクトも気にしていなかった。
「しっかり付いて来いよ」
エミリーが声を掛けてから走り出し、リリナ、ノルトを背負うように抱えたクインクト、オリエの順で続く。
エミリーの走りは抑えていても速い。オリエには太刀打ちできず、リリナにも持久力で負けるが、そんじょそこらの男には負けはしない。だから他の魔物猟師が足を伸ばさない所まで達したら、クインクトを撒くつもりで走る。だが、クインクトは息も乱さずついて行く。エミリーの内心は「やるじゃねぇか」との賞賛が幾らか混じってはいるが、大半は悔しさであった。
そのクインクトは別の意味で息を乱しそうであった。目の前でリリナの臀部が躍動しているのだ。それもその大半が素肌を見せているとなれば、心惹かれずにはいられない。「堪らんな」とぼやく。下手に手を出せば酷い目に遭う予感しかしないので、生殺しである。
ノルトはと言うと、エミリーの創り出す光景に目を瞠る。ダンジョンの進行方向の目に見える限りの範囲に魔法で次々と光を灯し、通り過ぎたら消すのを繰り返している。普通なら魔力の無駄遣いと言われるような行いだ。これを平気でこなし、仲間達も止めない。彼女にとって些細な行いと言うことに他ならない。これだけでも大魔法士と呼んで差し支えないだろう。加え、続きも有る。
「ひゃーっははは! 死ね死ね死ねぇ!」
\どっかん/\どっかん/
魔物が出て来る端から屠ってしまう。魔物の遺した魔法結晶はリリナとオリエが片手間に拾っているのだが、昨日クインクトが取って来たのと同じくらいの大きさのものが当たり前に混じっている。腕前の程は理解した。聞いた以上だ。奇声はどうかと思いもするがと。




