第五十六話
ノルトとエミリー、リリナ、オリエとの間で話が纏まってから間もなく。
「おい、ノルト。俺が魔物に囲まれている間に、お前はこんな美人さん達に囲まれてたってのか? 何て狡い奴だ」
「あ、クインクト。幸運にも? ですね。それで、首尾はどうでした?」
「その幸運に俺もあやかりたいもんだ。首尾はそこそこだな。今日のところはさくさくっと五頭倒して来ただけだから、適当に食い物を買ったらお終いだ」
「それでも助かります」
「おう。ともかく、美人さんの中でも飛びきり美人のお姉さん、買い取りを頼む」
クインクトはにこやかにまるで恥ずかしげも無く言って、魔法結晶買い取り屋の女将に魔法結晶を差し出した。
「全く腹立つねぇ」
美人と言われた女将が渋面を作る。その女将の態度にノルトは若干の危機感を抱くが、クインクトは全く臆することなく、にこやかなままだ。
「口先だけのお世辞だと判ってるから怒鳴ってやりたいのに、そんなお世辞でも美人と言われて喜んでいるあたしに腹が立つよ」
ぶつぶつ言いながら魔法結晶を受け取って重さを量り、見本と色を見比べる。大きくて色の濃い方が結晶した魔力の総量が多いので、その分だけ買い取り価格も高くなる。多くの場合は質を数で補うことができ、質より数が求められることも多いことから、余程大きなものでもなければ魔力分なりの値段差である。
女将は買い取り価格を弾き出したところでクインクトを見やり、ノルトを見やる。
「もしかして、お兄さんはこれを一人で狩って来たのかい?」
「勿論」
「驚いたね」
女将は感心しきりの風情で「はー」と息を吐く。
「しかしまた、とんだ凄腕さんが来たもんだね」
クインクトの持ち込んだ魔法結晶は標準的な豆粒ほどの大きさのものの約五倍の重さが有った。この大きさともなれば、町からかなり北に離れなければ採取できない。大勢の魔物猟師が居る近場ではとっくに狩り尽くされているからだ。しかし遠くに行けば行くほど猟師も少なくなるので、自分が危なくなったからと言って他の猟師を頼ることもできなくなる。腕に自信も実力も必要とする。
「こんな美人さんに褒められると何か照れちゃうな」
「ったくもう、ほんとに腹立つねぇ」
そう言いながら少々にやつきながら代金を手渡す女将であった。
「で、ノルト。こっちの美人さん達とはどう言った関係だ?」
「そのことですけど、この方々が護衛をしてくださるそうなんです」
「おお?」
目を瞬かせるクインクト。大袈裟に腕を広げる。
「こんな美人さん達と旅ができるなんて、なんて幸運だ。お祝いしなくちゃな」
「まだ確定した訳では……。この方々の実力がどれほどかも判っていませんし……」
「それなら……」
クインクトは問題無さそうだと言い掛けて止めた。勘でしかないものをノルトに説明できない。
「まあ、目で確かめた方がいいかも知れないな。美人さん達はどうだい?」
ノルトに答えた後で、リリナ達に尋ねた。
「あたくし達もそれで宜しくてよ」
「それは良かった。因みにこのノルトは戦闘がからっきしだから単純に役立たずと思ってくれていい」
「酷い言われようですね。否定はできませんけど……」
ちょっとだけ切なくなるノルトである。
「しかしそれは明日のお楽しみにして、とにかく今日はみんなでお祝いと行こう。ここんとこ保存食料ばっかりで飽き飽きしてたところなんだ。美味いものを食いたいぜ」
ゴンドラに冷蔵庫は装備されているが、食材が殆ど入っていない。ノルトは論外で、クインクトも料理ができる範疇に無い。
「それもそうですね。そうしましょう」
「みんなとは、あたくし達もなのかしらん?」
「美人さん達さえ良ければ」
リリナはエミリーと顔を見合わせ、頷き合った。オリエは未だ悶える振りを続けているので無視である。
「ご相伴に与りますわ」
この晩、五人で料理と酒を心行くまで楽しんだことで、クインクトの今日の稼ぎは幾らも残らなかった。料理も酒も美味しかったのだが、その対価を考えると複雑になるノルトである。




