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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第四章 魔王を求めて北へ
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第五十八話

 ハイテンションで魔法をぶっ飛ばしまくるエミリーを見ながら、リリナは「やれやれ呆れたものですわ」と首を横に振る。

「呆れるでしょう? エミリーさんたら戦闘を始めると少し、いえ、かなりおかしくなるのですわん」

「元気が有っていいんじゃないか?」

 ノルトとは違い、クインクトは全く動じていない。リリナは小さく微笑んだ。

「エミリーさん! エミリーさんが全部倒してしまったら、オリエさんの実力を見て戴けないではありませんか!」

 リリナの呼び掛けに、エミリーは足を止めた。

「オリエだけか? お前は?」

「あたくしは戦闘向きではありませんので」

 リリナが自分の胸をポンと叩けば、おっぱいがぷるるんと揺れる。「全く堪らんなぁ」とクインクトは内心でぼやく。生殺しの拷問に遭っているようなものだ。しかしながら雇うならむさ苦しい男よりも美女の方が良いに決まっている。比類無い腕前なら尚更だ。旅の途中の目の保養にもなるのだし。

「実力ってんなら、お前もその手の棍棒で一匹くらい殴って来いよ」

 エミリーの言う通りにリリナには手にしているものがある。杖っぽい棍棒だ。

「仕方ありませんわね」

 小さく溜め息を吐いてリリナは前に出る。すると「ぐるっ」と唸り声を放ちながら魔物がのこのこと現れた。リリナはトコトコと魔物に向かって歩く。魔物がぐわっと体躯を大きく見せ掛けつつ襲い来る。振るわれる爪。しかし爪はリリナを避けるように地に落ちる。「ぐるっ」と訳が解らないと言いたげに唸る魔物。リリナはボカッと魔物の頭を打ち据えた。魔物は肉片を飛び散らしながら消滅し、直径が豆粒の倍ほどの魔法結晶を遺した。

 見ていたノルトもクインクトも訳が解らない。なぜ魔物の爪はリリナに当たらなかったのか。リリナが避けたと言うよりも爪の方がリリナを避けていた。しかし根掘り葉掘り聞くのも何だ。他人には知られたくないものかも知れない。

「リリナのあれ、ずっこいだろ? 固有魔法のせいで攻撃が当たらねぇんだ」

 逡巡していた二人に、エミリーが概要を語った。「何であたしだけ固有魔法がねぇんだ」などとぶつぶつ独り言を付け加えるのだが、エミリーの場合は固有魔法こそ無くとも、魔力切れには程遠いまでの魔力量、以前の数倍から数十倍の魔法の威力が備わっている。他人からは固有魔法にさえ見えるだろう。ただ、それでもエミリーにとっては固有魔法の特殊性が魅力なのだ。

「固有魔法とはまた……」

 クインクトもこれには驚いた。勿論ノルトもだ。そして納得もする。魔物の攻撃が当たらないなら全裸同然でも平気だろう。するともう一人の全裸同然のオリエもかと想像が巡る。

 その想像が正しいかを知るのは間もなくだ。リリナが今の一体だけで引き返した。

「あたくしはこれだけで宜しいでしょう? 疲れましたわ。後はオリエさんに任せますわ」

 全然疲れてない様子だ。

「うむ。しかと見ていて戴こう」

 オリエがおっぱいをたゆんたゆんさせながら歩み出て、そのまま先頭を歩いて移動を始める。最後尾はリリナに替わる。

 間もなく次々と五頭の魔物が現れ、オリエが手にする剣を鞘から引き抜く。鞘も安物なら剣もどう見ても数打ち。どうしてそんな剣を持っているのか、クインクトにもさっぱりだ。剣も道具であり、道具は使い手の技量に相応しいものを使わなければ実力が発揮できない。もしも上を目指そうとするなら、使う道具は技量を上回るものであるべきだろう。しかしオリエが持つ剣はその逆だ。

 そんな剣でも、オリエは一頭目の魔物を難なく斬り伏せた。クインクトも感心する剣の冴えである。しかし二頭目に斬り掛かったところでその剣は折れ飛んだ。

「くっ、これまでか!」

 悔しげにそんなことを言うオリエ。クインクトは咄嗟に助けに入ろうと、ノルトを放して足を踏み出す。しかしそれをエミリーが手で制する。

「まあ、見てなって」

 エミリーが言うのだからと、クインクトは足を止めた。放されたノルトはふらふら明後日の方に漂い始めたところをリリナに助けられている。「お手数をお掛けします」「いいんですのよ」とか何とか。

 そうこうしている間にもオリエに魔物の爪が次々と襲う。

 \ぼっかーん/\ぼっかーん/\ぼっかーん/\ぼっかーん/

 激しい爆発で吹き飛ばされた魔物が壁に叩き付けられ、魔法結晶を遺して消える。爆風はクインクト達をも襲うが、エミリーとリリナが障壁(バリア)で食い止めたので無事だ。その足下には爆風と一緒に小さな金属片が飛んで来て転がった。爆発の現場には申し訳程度の鎧さえも失ったオリエが全裸で佇むだけである。

 ノルトもクインクトも呆然だ。

「オリエの固有魔法だ。攻撃を受けたら、男に襲われてもなんだが爆発しちまう。着ている服や鎧も一緒に吹き飛んじまうが、オリエ自身は無傷なんだ。な? 巫山戯てんだろ?」

 エミリーの言葉にノルトとクインクトはカクカクと頷いた。そんなデタラメな固有魔法など聞いたことも無い。

 そして無傷の筈のオリエはと言うと、自分の身体(からだ)を抱くようにしながらふらふらしている。

「ふふ……、ふふふ……」

 焦点の定まらない目をして笑う。

「このような不甲斐ない姿を人に見られるとは何たる屈辱!」

「やべぇ! 兄ちゃん達、観客が居たせいで完全に逝っちまってやがる!」

 エミリーは全力でバリアを張った。その直後。

「くっ、殺せ!」

 \ぼっかーん/

「くっ、殺せ!」

 \ぼっかーん/

 それがいつ果てるともなく続く。

「とんだ危険物が混じってますけど、宜しく頼みますわん」

「はあ……」

 リリナの言葉にノルトは返す言葉が見つからなかった。取扱注意な危険程度であれば元より断る選択肢が無い。タダ同然で請け負ってくれる凄腕の魔物猟師など滅多に居るものではないのだから。ともあれ、オリエが全裸同然の理由は解った気がした。

 そしてオリエが収まったのは数十回も爆発した後であった。

 ところがそれで安心な訳ではない。オリエはダンジョンを出て別れるまでずっと熱に浮かされたような表情のままだったのだ。またいつ爆発するかと気が気でないノルトであった。


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