第四十七話
魔物猟師用具店では水筒を始めとした道具類の他、各種の武器や防具も売られている。
武器で最も人気の品は、竿を取り付ければ槍のようにも使える剣。間合いの長い槍が好ましいが、取り回しの都合で狭い場所を通り抜けられなくなるのも困る訳だ。そしてこの武器を使う者は概ね槍士を名乗る。剣士や槍士と言った種別も、魔物猟師では主にどの武器を使うかを示す便宜的なものでしかない。
これが魔物猟師から離れると、各種の道場や軍で習って一定以上の技術を身に着けた者が剣士や槍士などを名乗っている。
武器も売っているのだから防具も売っている。殆どは革製。家畜の皮だ。動物から転じた魔物の皮も使われるが、絶対数が少ない。その魔物由来の革に負けず劣らず少ないのが金属製である。それでも鎖を繋いだチェインメイルなら無くもない。まるで無いのが板金のプレートメイルだ。重くて動きが阻害される。上り下りの多いダンジョンで重いのは大きなハンディキャップだ。それに動きが悪くなれば、その分だけ倒せる魔物も少なくなって収入が減る。だったらもっと強い魔物を倒せば良いか、と言うとそうでもない。防御を固めて無理に強い魔物を狩るよりも、そこそこの防御で無理無く倒せる魔物を数多く狩った方が結果的には危険も少なく収入も高くなるのである。一回勝負ではなく毎日のことなのだから、小さな積み重ねが大きな差を生む。
そんな風に世間の常識は常識として有っても、そこから逸脱してプレートメイルを買い求めようとする者も居る。女騎士オリエである。「騎士たる者、プレートメイルを着用すべし」とか何とか言って。
「お前に売る鎧はねぇ!」
オリエにそう言い放ったのは魔物猟師用具店のオヤジだ。
「なぜだ!? 代金はこれこの通り持っているのだぞ?」
オリエは代金として持って来ていた財布袋を開いて見せた。その中には大量の金貨が入っている。
「金の問題じゃねぇよ」
オヤジは嘆息する。
「作った端から壊し……、いや、失くしてんのか? まあ、どっちでもいい。とにかく、三日、四日で壊されたんじゃ、堪ったもんじゃねぇ。『お前の鎧ばっかり作ってちゃ、他の連中に申し訳が立たねぇ』って鍛冶屋にも断られてんだよ。何より鎧を大事にしない奴を相手にしてられるかってんだ」
「だ、大事にしているぞ。それでもだな……」
オリエが毎日磨き上げるほどに鎧を大事にするのは本当だ。磨きながら話し掛けたりもする。リリナやエミリーはもう慣れっこだが、傍から見れば変な人だ。斯くも大事にしてはいる。ところがそれ以上に、大事にしている鎧をスライムに融かされる恥辱への誘惑に逆らえないのである。
「どうにか頼めないだろうか?」
「頼まれたって無理なものは無理だ。大体、女物のプレートメイルなんて誰も作ってねぇんだ。今までお前に都合したのだって鍛冶屋に注文して一から作って貰ったか、男物の出来合いを改造して貰ったものばかりだ。鍛冶屋に断られちゃ、どうにもならねぇよ」
「そこを何とか! どんなものでもいいから!」
「どんなものでもねぇ……」
オヤジは目を眇めてオリエを見る。オヤジとてオリエを防具も無しに戦わせたい訳ではない。無論、防具無しどころか裸で戦っても大丈夫なのを知らないが故の考えだ。そして「女物……、板金……」などとぶつぶつ言いながら考える。思い出したことが有って、右手の拳で左の手の平をポンと叩いた。
「あれなら残ってるかも知れねぇな……。ちょっと待ってろ」
オリエにそう言って、オヤジは奥の倉庫へと向かった。
暫くして、オヤジが湾曲した小さな鉄板に鎖が付いたようなものを手にして戻る。
「これならタダで持って行ってもいいぞ。どうせ不良在庫だからな」
その小ささにオリエは目を丸くする。
「何だ? これは……」
「これでも一応女物の鎧だ」
「これがか?」
「ああ。これがだ」
「鎧だと言うなら、試着しても良いか?」
「構わんぞ」
オリエはその鎧を持って試着室へと消えた。
暫くして。
「おい! こんなものをわたしに着ろと言うのか!?」
試着室から飛び出したオリエが叫んだ。その声に振り返ったオヤジが真ん丸に目を剥く。
「着ておいて言うことか!」
オリエは着ていた。ご丁寧に服を全部脱いで地肌にだ。おっぱいは先端が隠れていても大半がはみ出しており、下腹部から股間にかけては最小限が隠れているだけだ。後ろは細い鎖が首、背中、腰を横に一本ずつと、腰の鎖から股間に繋がる細い鎖が一本有るだけ。後ろからは全裸に見えるし、前から見てもむしろ着ている方が嫌らしい。
「しかし何てエロい身体をしてやがる」
「な! 破廉恥な!」
オリエは腕で胸を隠すようにしながら身体を捩らせる。その捩らせる様こそが破廉恥である。
「破廉恥なのはお前だ!」
オヤジは顔を真っ赤にして叫んだ。
「それにしても、どうしてオヤジはこんなものを持っていたのだ?」
「それは若気の至りってやつよ」
昔、行商人の口車に乗せられて仕入れたのだ。女がこの鎧を見たら、それこそ今のオリエのような姿を晒すに相違ない、とか何とか言われてのことだった。
「よくこんなものを着る女が居ると思ったな?」
「お前は着ているがな」
「う……」
オリエは怯んだように顔を背けながら、拳を握る。
「……屈辱だ……」
しかし直ぐに真っ直ぐ立って胸を張る。
「しかし、この鎧には女騎士を感じる。そこが気に入った! これを貰おう! 他にも有るなら全部買わせて貰う」
「お、おう……」
オヤジは困惑した。しかし、目の前の女に対しては「好きにしてくれ」と言う気分になった。
そしてこの日、この店では十個の不良在庫が無くなった。




