第四十六話
「あんた達、町長の使いから逃げ回ってるそうじゃないか。あいつはあたしにまで泣き言を言いに来たよ」
魔法結晶買い取り屋の女将で小太りな中年女がリリナ、エミリー、オリエの三人に言った。
途端に顔を顰める三人。エミリーが「それはなー」と口を開く。
「どうせ用件なんてこの変態二人をどうにかしろとか、魔王を討伐しろとかだろ? 相手にしてられねぇよ」
「誰が変態だ!? 常に裸同然の変態と一緒にしないで貰おう」
リリナの服装は、ホルターネックでおっぱいの先端だけが隠れる程度の紐のような布だけの上半身、股間が辛うじて隠れる幅の布が前後に垂れているだけの下半身と言う、服とも言い難い、ただの布切れのようなワンピースのドレスのみである。下着も着けていないので見る向き次第では全裸にしか見えない。確かに変態であろう。しかしながらそんな格好でも、固有魔法チラリズムの効果で肝心な部分を誰かに見られることが無い。
「あら? あなたのような何もかも晒して歩く変態とは違って、あたくしは見せたがっている訳じゃありませんのよ?」
ダンジョンからの帰りには、オリエはとある事情からいつも全裸になっている。その際には隠すつもりが無いと言うより、肢体を見せびらかしているようにも傍からは見える。
ある時など、オリエを下から覗こうと、道に穴を掘って入り込んだ男が居た。そんなことができたのも、慣れによって特別な警戒態勢も取られなくなったからだ。すると、オリエはあろうことかその穴を跨いだ。次の時には道が穴だらけにされたのは言うまでもない。ただ、これには町長が怒り、許可無く道に穴を空けた者には多大な罰金が科されるように決められた。だから今のトレンドは道端に寝っ転がってオリエに跨いで貰おうとするものになっている。多くはオリエの進路から外れるか、オリエに踏み付けられるかだが。ただその際、踏み付けられて喜んでいる男が居るとか居ないとか。
馬鹿ばっかりである。
「そんな格好の女が見せたがってないように言って、誰が信じると言うのだ?」
「誰もがですわ」
「何を根拠に!?」
「肝心な部分が見えることは無いのです。それが証拠ですわ!」
「喧しい! 何度同じ言い合いを繰り返してやがんだ! あたしから見りゃ、てめぇらはどっちも一緒だ!」
エミリーが癇癪を起こしたところで小さく舌を出すリリナとオリエである。わざと言い合いをしているのが丸分かりで、エミリーにはこれがまた腹立たしい。
女将がエミリーに同情の視線を送る。
「あんたも結構苦労してそうだね」
「まったくだぜ」
「だけど、リリナだったかい?」
女将の名前を確かめる問いに、リリナは頷く。
「見せたいんじゃないならその格好は何なんだい?」
「よくぞ聞いてくださいました。これは愛ですわ! 溢れる愛のためなのですわ!」
エミリーとオリエが「お、おい」と少し焦る。余計なことを口走りそうで気が気でない。しかし女将が考えるのは、二人が気にしているのとは少し違う。
「愛ねぇ。確かにあんたみたいな嫌らしいまでにいい身体なら、町の男達も愛を感じるかも知れないねぇ」
女将がしみじみと言う。
「あたしも二十ばかり若ければ張り合うんだけどね」
右手を頭の後ろに、左手を腰の後ろに回して身体をくねらせる女将。
『え……』
三人は声を揃えて眉を顰めた。
「何だい、その顔は。こう見えても若い頃はボンキュッボンで、そっちのリリナみたいに肌を見せなくても道行く男が涎を垂らすようないい女だったんだよ?」
『ええ……』
また三人の声が揃った。今の女将はどう見ても三段腹だ。女将の言葉が本当であれば、時の流れはとても怖ろしい。ついでに、女将の旦那がその頃の女将を見初めたのなら、こう成り果てた女将をどう見ていのであろうか。
「まあ、あたしのことはいいさ。それよりさっきの話だけど、リリナとオリエだったかい?」
女将の名前を確かめる問いに、オリエは頷く。
「あんたらをどうにかしろって話にはならないと思うよ」
「どうして?」
エミリーが聞き返した。
「景気がいいからだよ。リリナとオリエを見たいからって狩りを手早く済ませて帰る奴も居てさ、時間が余ったから酒でも呑もうってことらしくてね」
「はあ? じゃあ、裸のこいつらを一日中町中を彷徨かせてればもっと景気が良くなるのか?」
「おい。わたしが常に裸のような言い方は止めて貰おうか」
「あたくしだって服を着てますのよ?」
「喧しい! てめぇらは黙ってろ!」
怒鳴られて口を尖らせるリリナとオリエである。
「で、おばちゃん、どうなんだ?」
「それは程度もんじゃないか?」
過ぎたるは及ばざるがごとし。




