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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第四章 魔王を求めて北へ
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第四十八話

「で、てめぇ、その格好は何のつもりだ?」

 魔物猟師用具店から帰って来たオリエを見たエミリーは開口一番言った。

「無論、女騎士だ」

「それのどこが騎士だってんだ!? どこからどう見ても痴女じゃねぇか!」

 オリエはおっぱいの先の方と股間が辛うじて隠れる鎧を着たままだ。

「な、何と! エミリー殿にはこの女騎士にのみ許される造形を理解できぬのか!?」

「できて堪るか、この変態が!」

 エミリーはバンバンとテーブルを叩いて不満を主張する。その直前にリリナは澄まし顔で自分のカップを持ち上げていて、優雅な手付きでお茶を飲む。エミリーのカップのお茶は大きく波立ち、カップの縁を越えてテーブルを濡らした。

「宜しいじゃありませんか、エミリーさん。オリエさんがそれで良いのなら、裁縫から解放されましてよ?」

 オリエは鎧同様、服も毎度駄目にしている。その度に仕立ててもいられないので出来合いを買うのだが、女性としては背が高めのオリエに着られる服は少なく、間に合わせに買うのはいつも男物だ。当然のようにきつすぎたり緩すぎたりする部分が有るので手を入れる。それをするのが大抵はエミリーなのだ。

 だからこう言われてしまうとエミリーは考える。オリエの服に手を入れていたのは、そのままではダサすぎて見苦しいからだ。見苦しくなくなるようにぶかぶかのズボンの裾を絞ったり、シャツの前身頃を解いてバストがぱっつんぱっつんにならないように余裕を持たせつつウエストを絞る一方、ウエストや後ろ身頃で余った布を脇の下に注ぎ足したりする。継ぎ接ぎの部分が少し見苦しいが、腕を上げなければ目立たないので目を瞑った。しかしそうしていたのも最初の頃だけ。

 段々めんどくさくなり、今では袖をスッパリ諦めてノースリーブにしている。脇の下も開いたままにし、バストを膨らませる分だけ丈が短くなる前身頃に合わせて後ろ身頃を切るだけ。ズボンもシャツに合わせるようにバッサリ切ってショートパンツだ。太股が丸出しで、歩けばヘソや横乳が見え隠れするので結構ギリギリだ。それでもオリエが扇情的な曲線をその肉体に宿しているから、そんな服でも美しく成り立っている。

 そう言う意味では、変態的な鎧を着たオリエが見苦しいかと言うとそうでもない。オリエは、ついでにリリナも、下手な服を着るよりも何も着ていない方が美しいとエミリーは考える。エミリーとしては悔しい限りであるが。

 ただ、そんな風に考えてしまうのは、エミリーの中で服と言うものがゲシュタルト崩壊しているのかも知れない。

「わーったよ。好きにしやがれ」

 すっかり拗ねたエミリーは、黙々と自分の予備のスカートにフリルを縫い付け始めた。

 そんなエミリーを一瞥した後、リリナはオリエに目を(すが)める。

「オリエさん。散々あたくしのことを変態と言っていながら、すっかり誰から見ても変態ですわね」

「何とでも言え。わたしはこの鎧を着ることで、嘗て無いほどに女騎士を感じているのだ」

 オリエが拳を握り締め、恍惚として表情で天を仰ぐ。

「エミリーさんも仰いましたけど、とても騎士には見えませんわ」

「騎士ではない。女騎士(・・・)だ」

 なぜか(こだわ)るオリエであった。

「全く意味が解りませんわ……」

 リリナの困惑の度は深まるばかりである。


 どんどんどん、どんどんどん。

『リリナさぁん! オリエさぁん! エミリーさぁん! いらっしゃいませんかあ!』

 玄関のドアが激しく叩かれ、三人を呼ぶ男の叫び声が聞こえた。もうすっかり聞き慣れた町長からの使いの声だ。

「またですか」

 リリナは心持ち眉を顰めつつお茶を飲む。オリエは素知らぬ顔でおつまみの炙った干し肉を囓る。

『お届けものですよーっ!』

「町長からの伝言のお届けものか。言い得て妙だ」

「ふふっ。『お届けもの』には違いないのですね」

『居るのは判ってるんだ! 出て来ーい! 出て来ないとどうなるか判ってるんだろうな!』

「あらあら怖い」

 リリナがくすくすと笑う。オリエは真面目な顔で頷く。

「彼が町長にこっぴどく叱られるのだろうな」

「ほんとに怖いですわね」

 どんどんどん、ばん、どん、ばん、どん。手で叩くのに加わる足の蹴り。

『出ろ! 出ろっつってんだ、こら! いい加減にしやがれ!』

「あらあら品の無い」

「壊れたら弁償して貰わねばな」

『お願い! お願いですから、出て来てください! どうか頼みます!』

「何か可哀想になってきた」

「もう、仕方ありませんわね」

 オリエが同情心を見せ始めたところでリリナが立ち上がった。玄関に向かう途中で男のすすり泣きが耳に入る。全く嬉しくも何ともない声だ。

「五月蠅いですわね!」

 リリナはドアを開けながら言い放った。

 ドアの外で膝を付いて項垂(うなだ)れていた町長からの使いは、一瞬呆けたようにリリナを見た後、感極まったとばかりに「リリナさぁん!」と飛び掛かる。が、リリナの固有魔法チラリズムの効果で壁に頭からぶつかるだけに終わった。

 頭を抱えて蹲る使いを、眇めた目で見るリリナ。

「そんなことをしたくていらっしゃったのですか?」

「め、滅相もございません」

 平伏叩頭(へいふくこうとう)する使いだったが、上目遣いでリリナの様子を伺った途端に鼻の下を伸ばす。肝心な部分が見えなくても魅惑的な景色には違いないのだ。

 リリナは反射的に使いの頭を踏み付けた。足をぐりぐりとねじ込むようにしながら尋ねる。

「それで、何のご用かしら?」

「そ、それは……、町長が、み、皆さんに是非お会いしたいと……」

 使いは顔を赤らめ、少し荒い息を吐きながら答えた。

「その理由は何でしょう?」

 リリナは更に足をぐりぐりさせる。使いの息遣いはますます荒い。

「ぞ、存じません。わ、私は女王様方から会談のお約束を戴くようにと、申し付けられただけでございます」

「女王様?」

 使いが息を呑む。

「し、失礼いたしました。リリナ様方でございます」

 先までは「さん」だったものが、なぜか「様」になっている。しかしリリナは気付いていない。

「埒が明きませんわね」

 リリナは更に足をぐりぐりさせる。使いの息遣いはいよいよ荒い。

「まあ、宜しいですわ。一度きっちりお話を付けなければならないようですから、明日にでも伺いましょう」

「あ、ありがとうございます」

 リリナは使いの頭から足を離すと、直ぐに家に入ってドアを閉めた。

 使いの方は地べたに這い蹲ったまま余韻に浸るように荒い息を続けた後、少しなよっとしながら帰って行った。


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