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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第三章 魔王に敗北した勇者
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第四十二話

 ロイエンは自身でさえ意外に思うほど、あっさりとシーリスの旅に同行するのを決めた。ルセアを巻き込んでのことだ。巻き込まれたルセアは、シーリスのために何かできないかと考えていたこともあって、悩みはしたが(うなず)いた。

 決めるものは決めたとロイエンが帰った後、シーリスは侍女らにバスルームへと連行された。引かれる手を無理に振り解くのも大人げないと温和しくしていたら、あれよあれよと言う間に丸裸に剥かれた。身体(からだ)の隅々まで洗われてもうぐったりだ。主に精神的に。しかしそのお陰か、夜はぐっすり眠れて朝はスッキリだった。

 目覚めが良かったまでは良かったが、その後は侍女によるおめかしが待っていた。あーでもないこーでもないとドレスを何着も着せ替えられ、何通りもの髪型に纏められ、何通りもの化粧を施された。またぐったりだ。しかしその出来映えは、迎えに来たロイエンに「深窓の令嬢みたいだ」と言わしめるものであった。

 ルセアもまた離れに泊まった。ロイエンに置き去りにされた、訳でもないが、済し崩しに居残ることになってそのままだ。こちらも夜はぐっすりスッキリである。ベッドがふかふかだとか、枕が違うだとかは全く気にならなかったらしい。ついでに旅に出ることが不安になることもなかったらしい。かなり図太い神経なのだった。


 旅に出ると言っても、当然ながらシーリスの証言を纏めた後の話である。聞き取りは数ある応接室の中の一室で、ロイエンともう一人のライナーダ語話者による通訳を介して行われる。ライナーダ王国は主な外交相手の一つだから、ライナーダ語話者もロイエン一人だけなんてことにはなっていない。通訳が翻訳したシーリスの言葉は速記士が三人一組で記録する。三人が全く同じものを記録し、後で突き合わせをしたものが正本(しょうほん)になる。速記士は二交代で行うため、合計六人。その他、幾人かの事務官や貴族が同席し、その貴族の護衛と警備の騎士も立ち並ぶ。応接室の中には三十人近い。更には皇帝や宰相も別室に控えて聞き耳を立てている。それだけ関心も高いのである。

 一人で三十人近くに囲まれれば気後れしてもおかしくないところだが、シーリスは落ち着いたものだ。最悪、全員を蹴散らして逃げることもできるのだから、ビクビクする必要も無いのである。

 そうして始まった聞き取りは、順を追ってシーリスの生い立ちから。


 シーリスはログリア帝国南部の田舎町の平民の家に生まれた。早くから魔法の才能が開花し、固有魔法の傀儡(ゴーレム)にも目覚めていた。その力は日毎に増すばかり。しかしながらそれで立身出世を図ろうとはせず、野盗などから町を守るために使うだけだった。

 当時のシーリスには世界情勢が判らなかったので、野盗が変に増えているのを奇妙に思っただけ。それがラインク王国の侵略の影響だったと知るのは勇者パーティーに加入させられて以降のことである。

 その後、シーリスが暮らす町にも戦火が及ぶ。ラインク王国の侵略だ。シーリスはゴーレムを使い、それを一度ははね除けた。三千名ほどの軍だった。

 それだけで終わったと思い始めていた一年後、ラインク王国の十万名の軍に町を包囲された。シーリスだけなら一万名の軍を相手取っても戦い抜けるかも知れない。しかし十万名ともなるとどうか。ましてや町の人々を守るのは絶望的だ。シーリスはラインク王国の要求を呑まざるを得なくなった。そして勇者パーティーに入れられたのである。その十万の軍勢がラインク王国のほぼ全力だったのを後で知るが、知ったからとどうにかできるものでもなかった。

 それからは勇者とされる少年の実力向上とパーティーの連携強化の名目の下、野盗討伐などで各地を転戦する。途中でラインク王国王都に呼び出されるなどもしたが、殆どは戦いの日々だ。三年ほど経って実力が向上すると、魔王の討伐を命じられた。魔王には何の動きも見られていなかったのだが、ラインク王国はその存在そのものを是としなかったのである。

 そして苦闘の末に魔王を討ち果たす。しかしその時に犯した小さな過ちから、魔王が怨念を抱いて蘇ってしまう。蘇った魔王はそれまでとは桁違いの強さで全く歯が立たない。半数の仲間はその場で殺され、半数は魔王に捕らえられて世界を破壊する様を見せ付けられたのだった。


 シーリスの証言はこの場に居合わせた人々に衝撃を持って受け止められた。主に二つ。

 一つはラインク王国がライナーダ王国の主張するものとは大きく違う野蛮な国だったこと。ライナーダ王国の主張はログリア帝国こそが野蛮な国だったとする。ラインク王国は侵略を受けた方だとも。国内にはその主張を真に受けた反ログリア組織まで存在する始末だ。それが全く逆だったことになる。

 もう一つはシーリスが大崩壊の直接の原因を作ったこと。

 貴族の一人が叫ぶ。途中、嗚咽混じりに話すシーリスに多くが同情の視線を送る中、その貴族は違った。

「その者を即刻処刑するべきである!」

如何(いか)なる罪状ででしょうか?」

 ロイエンは少なからぬ憤りを抑えながら尋ねた。

「大崩壊を引き起こした罪に決まっておるではないか!」

「そのことで今に生きている人々が何か害を被りましたか?」

「被っているだろう。そこで文明が失われたのだぞ?」

「そのことで今に生きている人々が何か害を被っているかを伺っているのです」

「何を言っておるのだ! 享受できていたかも知れない文明が失われたのだぞ!」

「その文明とは一体何でしょうか?」

「享受できていたかも知れない文明だと言っておるだろう!」

「だからそれが具体的に何かを伺っているのです」

「判らぬから享受できていたかも知れない文明なのではないか!」

「それでは有るか無いかも判らない被害を理由に罰すると仰るのですか?」

「大崩壊を引き起こしたのだぞ? 罰しない理由がどこにある!」

 ここでこの貴族はいつの間にか入って来ていた騎士らに拘束された。貴族は狼狽(うろた)える。

「な、何の真似だ!」

 騎士らは何も答えずにその貴族を部屋から引き摺り出した。

 これは皇帝の「見苦しい。あの者を放り出せ」の一言によった。

 騒動が治まった後、何が起きたのか尋ねるシーリスに、ロイエンは包み隠さず話す。もう一人の通訳が止めたが、ここで話さなければ信頼を失うだけだと考えたのだ。貴族の態度から、言葉が解らなくても大凡の内容が伝わった筈だと考えた。

 その考えは正しく、シーリスは確認のために尋ねただけだった。あの貴族のような反応は理屈ではない。話してどうなるものでもなく、この国で暮らすのが難しいことを改めて認識させられただけのことだ。


 その頃、ルセアはと言うと。

「さあ、どうしてあそこに居たのかさっさと吐きなさい!」

「あー、うー」

 友人である昨日の給仕に問い詰められて途方に暮れていた。


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