第三十三話
勇者召喚の儀を行う建物は召喚の間が有るだけの実にシンプルなもので、落ち着いて話ができるような場所ではない。万が一にも召喚に成功することは無いとの憶測も手伝っての構造だ。それでも召喚が成功してしまった時には城内に迎え入れることになっている。
だからロイエンとしてはシーリスを城内に迎え入れなければならない場面だ。ところがそこを先に皇帝の裁可を仰ごうとしている訳で、偏に第三皇子の扱いに窮してのことである。単に放してしまえば何をしでかすやら判らない。シーリスのゴーレムで拘束したまま運ぶことはできても、それをしたら今度はゴーレムが騒ぎの元になる。穏便に済ませるには騎士団長辺りにでもご足労願い、シーリスとルセアの安全を確保しつつ第三皇子の護送もして貰わなければならない。尤も、シーリスの場合は彼女を守ると言うより、彼女の反撃による被害を出させないためだが。
その騎士団長に直接頼むこともできなくはない。しかし騎士団長では身分的に第三皇子を抑え切れない。いや、実際には諌言もできれば腕力で抑えることもできるが、その全てが騎士団長の責任になってしまう。そうなったら後で余計な手続きを踏んで貰うことになり、さすがにそれは申し訳ないと考えるのだ。その責任問題を回避するには第三皇子より上位者の裁可が有れば良いのだが、ただそれが生憎なことに皇帝になるのだった。
そして当然ながら、ロイエンが求めても直ぐさま皇帝に謁見できたり、裁可を得られるなんてことは無い。そんなことを易々と認めようものなら、皇帝には身体が幾つ有っても足りなくなるだろう。身体が一つである以上、皇帝にだって使える時間に限りが有る。その貴重な時間を貰い受けるとなれば、ただでさえ少々回りくどい手順を辿らなければならない決まりだ。ましてや、今は夜の夜中で皇帝ももう眠っている時間である。
まずは当直の侍従に申し入れる。「第三皇子が不始末を起こしたので、当人と関係者の処遇について裁可を仰ぎたい」と言った理由だ。成り行き上から第三皇子が拘束されたままになっているので急を要すると言い添える。
当直は公務管理部門の宿直に連絡を入れ、その宿直は部門長に連絡を入れる。通常なら部門長に連絡する前に殆どの申し入れが却下されるのだが、ロイエンのようにそこそこの地位にある者なら顔で通される。すると、眠っているところを起こされた部門長が眠気半分不機嫌半分で対応に現れてロイエンを睨み付けるのだ。
部門長が現れるまでにそこそこの時間が過ぎていて、椅子に座って待っていたロイエンも襲ってくる睡魔に抗い切れずに船を漕ぐ。しかしどこか神経は立っていたようで、部門長の立てる足音で目を覚ました。
若干寝ぼけつつあった頭を揺り起こしながら、ロイエンは事の次第を部門長に説明する。当直や宿直には顔で通されると言っても説明はしているので、これで同じ話を三回目だ。
一通りの説明をし終われば、部門長の不機嫌さが別の不機嫌さに変化する。厄介この上なしと考えている顔だ。そして部門長は侍従長に連絡を入れる。
また暫く待たされたロイエンは、現れた侍従長にまた同じ説明をする。四回目だ。
侍従長も難しい顔になり、主要な侍従を呼び出す。
また暫く待たされたロイエンは、現れた侍従達にまた同じ説明をする。五回目だ。
呼び出された侍従達もまた難しい顔になり、侍従長以下の侍従達が協議を行う。皇帝を起こすべきか起こさざるべきか、そこが問題なのである。
ああでもないこうでもないと話し合う侍従達を見るロイエンはと言えば、急を要すると伝えたはずなのにとお役所仕事にげんなりだ。この際、自分も役人だと言うことは棚上げだ。
そうした無為に思える時間も終わりが来る。夜が明け、皇帝の目覚める時間。もう起こすかどうかを悩む必要は無くなった。驚くべきことに、侍従達はこの時を待っていたと言わんばかりに素速く行動するのだ。
苦笑が零れるばかりのロイエンである。
そして、皇帝のこの日の最初の仕事はロイエンの謁見となった。




