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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第二章 魔王は古に在り
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第十話

 大地が一度焼け(ただ)れて固まり、それが風化して草が生えるようになった円形の荒れ地。そんな荒れ地が世界の至る所に在り、そのただ中には大崩壊以前には町だった遺跡が在る。遺跡も大地同様に焼け爛れたらしく、これもまた風化して草が萌えている。城壁か何かだったと(おぼ)しき人工物が突き出ていなければ遺跡の存在に気付くのも難しい。

「地上には何もありませんな」

 板金を随所にあしらった鎧を纏う厳つい大男が言った。

「そうですねぇ。ここが遺跡には間違いないんですけどね」

 ひょろっとした猫背の男が答えるように言った。右手では長髪を掻き上げ、左手では指先で眼鏡の位置を直している。

「また空振りか」

 中肉中背で皮鎧姿の男が面倒そうにぼやいた。

 そんな男を髪をサイドテールに纏めた女がジト目で睨む。

「嫌なら貴方だけ今直ぐ帰っても良いのですよ」

「おいおい、そんなことは言ってないだろ」

「ではどんな意味なのですか?」

「お前みたいな可愛い女とピクニックができて嬉しいなーってな」

「な、な、な、何を言っているのですか!?」

 サイドテールの女が顔を真っ赤にして怒るが、その後ろからクスクスと笑う声する。

「クインクト、もうそれくらいにしてあげてください。マリアンもいちいち絡まないの。好きな女の子にちょっかいを掛ける男の子みたいですよ」

「ひ、姫様!」

「おー、おっとこの子ー」

「こらっ!」

 茶化すクインクトに怒るマリアンだが、狼狽(うろた)えているのが丸分かりで、声にも迫力が無かった。

 そんなじゃれ合いのようなものには興味が無いらしい大男は言う。

「サーシャ様、無駄かも知れませんが一応調べてみますので、そこでしばらくお待ちください」

「はい。頼みます、ドレッド、クインクト。ノルトもね」

「はい、姫様」

 そうして、今回の遺跡の調査も始まる。

 姫と呼ばれたサーシャは一国の姫だ。七番目の子で政治的な権限は無いに等しいが、治癒魔法の使える聖女でもあるため、そこそこ大事にされている。そのサーシャが学者のノルトが唱える「大崩壊の原因は魔王ではなく人にある」と言う説に興味を持ったことから各地の遺跡の調査が始められた。しかし既に幾つかの遺跡を調査しているが、今のところめぼしい記録は何も見つかっていない。

 調査メンバーはこの二人の他、サーシャの世話係も兼ねた弓士のマリアン、魔法騎士のドレッド、斥候も兼ねた剣士のクインクトとなっている。一騎当千の強者であるドレッドを付けられているところが「そこそこ大事にされている」ところである。

 調査は草の根を分けながら行う。魔法で焼き払うこともやろうと思えばできるが、それによって万が一にも貴重な遺物が焼けてしまっては元も子もないので地道な作業をする。

 探すのは主に地下室への入り口。地上には殆ど何も遺っていないのは見た通りで、遺っていても長年に(わた)って風雨にさらされた結果で風化している。何かが遺っているとしたら地下室なのである。

「見つかりませんねー」

 ノルトが疲れたような溜め息を吐く。

「もう疲れたのか。何ともだらしない」

 ドレッドは少し腹立たしげだ。

「ボクはフィールドワーク向きじゃないんですよ」

「何を言うか。日頃から怠惰にしているからそうなるのだ」

「そうはおっしゃいますけどねー」

 ノルトは頭を掻く。勤勉さと筋力や体力は別の話だろうと内心でぼやく。

「はぁ。もういいです」

「この俺が鍛え直してやってもいいのだぞ?」

「遠慮させていただきたいものですねー」

「まったく、気概すら無いのか」

「まー、そーですねー。それでいいです」

 ドレッドはサーシャのような主君筋を除き、体力を基準に人を量る。だからノルトのような学者を最底辺の役立たずに分類するのだが、サーシャがその役立たずの筈のノルトを重用している。このことが不満で、その不満がノルト相手に出てしまうのだ。

 ノルトの方はドレッドのそんな性質を粗方察しているが、甚だ鬱陶しく迷惑なことに変わりはない。強く言い返さないのはサーシャのついでであっても護衛されている身だからなのだが、それでも返事がぞんざいになるのを抑えられない。

 つまり反りが合わないのである。

「貴様! 何だそのやる気の無さは!? 今直ぐその性根を叩き直してくれるわ!」

 調査もそっちのけで肩を怒らせながらノルトに迫り、その胸ぐらを掴み上げるドレッド。

「苦しいんで、止めて貰えませんか」

 嫌そうに目を眇めてドレッドを見るノルト。

 そんなノルトにドレッドが更に目を吊り上げる。

「何ならこのまま絞め殺してやってもいいのだぞ!」

「ドレッド! お止めなさい!」

 駆け付けたサーシャが二人のいざこざを目の前にして目を吊り上げる。

「前にも言った筈です! ノルトに貴方を押し付けてはなりませんと!」

「押し付けてなどおりません!」

「今の貴方の姿を見て! 今の貴方の言葉を誰が信じられると思うのですか!?」

 ドレッドが自分の手許を見る。在るのはその手に吊り下げられたノルトだ。

「これはこの男の性根を叩き直すためにしているのです!」

「それが押し付けだと言うのです!」

 サーシャが益々目を吊り上げる。

「今直ぐその手を離しなさい!」

「できません!」

「言うことが聞けないなら今直ぐ護衛を解任しても良いのですよ!」

 ドレッドの肩が一瞬跳ねた。王家の護衛は騎士の誉れだ。しかしそれを解任されるのは不名誉極まりない。少なくともドレッドはそう考える。

「畏まりました……」

 渋々と言った様子で返事をし、意趣返しとばかりにノルトを投げるように押し出しながら離す。

「わわっ!」

 後ろ向きに宙を舞うノルトに足下を確かめる術はなく、ザッザザーと足が地に着くや否や転ける運命だ。

「ったたた……」

「ノルト!」

 心配を含んだサーシャの叫び。

「ドレッド!」

 今度は怒気を含んだものだ。しかしドレッドが聞こえていないかのように振る舞うため、ドレッドのことは捨て置いてノルトの許に駆け付けた。

「怪我はありませんか?」

「どうでしょう」

 膝を突いて尋ねるサーシャにノルトは頭を掻きながら答えた。ところがその手に血が滲んでいる。擦り傷だ。

「血が出ているではないですか!」

 サーシャがノルトの手を取る。

「直ぐに治します。マリアン、水桶を!」

「ただいま!」

 持って参ります、の言葉を言う時間を惜しむようにマリアンは遺跡の外に停めてあるゴンドラに走り、水桶を持ってサーシャの許に走る。これはサーシャが儀礼的なことよりも実利を望んでいるからだ。

 水桶を受け取ったサーシャは水筒を取り出してノルトの手の傷口を洗う。砂や泥が綺麗に洗い流されたところで治癒魔法を掛ける。治癒魔法の不便な点は異物が入ったままの傷に掛けると、傷が塞がっても異物が身体(からだ)の中に残ってしまうことである。

 ドレッドが叫ぶ。

「サーシャ様! そのような掠り傷に治癒魔法は必要ありません!」

「お黙りなさい! 元はと言えば、貴方の所為ではありませんか!」

 この様子を遠巻きに見ていたクインクトは近くから聞こえた歯軋りの音に肩を竦め、首を横に振った。

 治療に掛かったのは僅かな時間だ。その程度のものだったので、治癒魔法が必要ないと言う点についてはノルトもクインクトもドレッドに同意見だった。しかしサーシャが言い出したら聞かないのも解っているので好きにさせる。言うことを聞くようならここの調査もノルトとクインクトだけで行っている筈なのだ。

 用の無くなった水桶をマリアンが片付け、ノルトがサーシャに礼を言う。

「ありがとうございます」

 そしてノルトは立ち上がるのだが、その瞬間、足下の地面が抜けた。


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