第九話
家の修理も終わり、また三人で活動するようになって数日。少しでも魔の森の拡大が遅くなるように魔物の討伐に精を出している。
「あんた達、近頃稼ぐじゃないか」
魔法結晶買い取り屋の小太りな中年女が言う。
「魔王を討伐するんじゃなかったのかい?」
「それは止めたのだ」
リリナ、エミリー、オリエの三人は互いにチラッと視線を合わせてから代表してオリエが答えた。
買い取り屋は三人を痛ましげに一瞥してから脇に目を逸らす。
三人に対する町の人々の認識は、とても辛いショックな出来事に遭ったために豹変した、と言うものだ。彼女達が持ち帰った魔法結晶の大きさから、信じられないほど強い魔物に遭遇して死闘の末にどうにか倒したものの、仲間の一人も失ってしまった、と考えている。
「ああ、仲間を失くしたんだったね……」
オリエが目を瞬かせる。カーミットを失くしたことにあまりショックを受けてないことにに気付いてショックを受けたのだ。スライムになって生きているからか、あまり失くしたような気にならなかったりもする。
「……そう言うことだ」
心情がどうであれ、表向きにはカーミットは失われている。
「それじゃ、何か情報は無いかい? 魔王でも。ダンジョンでも」
「どうしてまたそんなことを?」
「国が情報の買い取りを始めたんだよ。だから何か有ったら高く買うよ」
国は魔法結晶買い取り屋にも情報買い取りの委託をしたらしい。
「そう言われても……、奥に行くほど魔物が強くなるくらいだ。それくらいは誰でも知っているだろう?」
オリエが答えてからリリナとエミリーを見ると、二人は頷きを返した。
「まあそうだよねぇ……」
買い取り屋の返事は溜め息混じりだった。
「何でおばちゃんが憂鬱そうなんだよ?」
エミリーには買い取り屋の態度が疑問だった。
「魔の森だよ。都がいよいよ危なくて、遷都するんじゃないかって話が有ってね」
「危ないなら付近のダンジョンの魔物を狩り尽くしちまえばいいだろ」
「そのための穴がまだ空かないらしいんだよ」
「なら、いっそダンジョンを刻めばいいんじゃねぇ?」
「刻んだらどうなるって言うんだい?」
「一度できたダンジョンでも切り離したらその部分だけ消えて無くなるらしいぜ」
「そうなのかい? でも、そんなこと誰に聞いたのさ?」
「え? いや、噂だよ噂」
エミリーは視線を彷徨わせつつそう答えた。魔王には聞いたが、実際にダンジョンを切り離した話を聞いたことが無かったのだ。
「でもよ、遷都するからって、それがおばちゃんに関係すんのか?」
「するさ。買い取った結晶は旦那が都まで売りに行ってるんだよ? 遷都となれば遠くになるに決まってるんだから、益々旦那に会えなくなるじゃないか」
魔の森から逃げるように遷都するのだから、魔の森のただ中とも言えるこの町から遠ざかるのは必然なのである。
しかしエミリーが引っ掛かったのはそこではない。
「何かと思ったら惚気かよ……」
「ふん! ほっときな! あたしにとっちゃ旦那が一番の色男なんだよ!」
買い取り屋は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。
「いい歳して熱々かよ」
「でも、羨ましいですわ」
「うむ。女将は良い伴侶に恵まれたのだな」
「ああ、もう! くだらないこと言ってないで、用が終わったらさっさと帰んな!」
「はっはっは」
「それでは失礼しますわ」
「また寄らせて貰う」
「もう……」
文句を言いつつもまんざらでも無さそうな買い取り屋であった。




