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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第二章 魔王は古に在り
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第十一話

 空いた穴に吸い込まれそうなノルトは咄嗟に地面に手を突くが、その手を突いた部分も崩壊した。

「うわっ!」

 一度(ひとたび)崩れ始めれば、その部分を支えにしていた部分も解けるように崩れてしまう。驚いてノルトに手を伸ばし掛けたサーシャの足下もだ。

「きゃあああ!」

 前のめりになったサーシャがノルトに覆い被さるように頭から落ち始める。ノルトはそのサーシャの頭を咄嗟に抱え込んだ。

 ずどどん、どどーんと響き渡る地鳴りのような音。崩壊したのは部屋一つ分ほどの広さだ。

「姫様!」

「サーシャ様!」

「姫さん!」

 心配する声が全てサーシャに向かったのは人徳の差か何かだろうか。しかしそれらの声はノルトまで届いていないので、ノルトが落ち込むことは無い。まあ、穴には落ち込んでいるのだが。

 もうもうと砂埃が舞っていて、穴の中は全く見えない。ドレッドが魔法で弱い風を起こし、穴から砂埃を吸い上げるようにしながら吹き飛ばす。次第に視界も晴れてきて、穴の中も見えるようになってきた。

「痛た……」

 それまで息を詰めていたのだろうノルトが呻き混じりの声を漏らした。

「ノルト! 無事か!? 姫さんは!?」

「わ……、私は大丈夫です」

 クインクトの問いにはサーシャが少し咳き込みつつ答えた。

「姫様……」

 声を聞いて安心したマリアンがへたり込む。

「つつ……」

 ノルトがまた呻き声を漏らす。起き上がろうとして失敗したのだ。サーシャに重なるように乗られている状況では、痛む所が無くても起き上がるのは難しかっただろう。

 しかしその声で今の状況をサーシャは知った。ノルトが下敷きになったことで脚に少し打撲を負っただけで済んだのだ。急いでノルトの上から退く。

「ノルト! 直ぐに治療します!」

 頭から背骨にかけて、ダメージが残っていては致命傷になりかねない部分に治癒魔法を掛ける。無駄になるならそれはそれで幸運だ。淡い光に包まれるノルトを今回はドレッドも黙って見守る。

 腕や脚の打ち身の治療も受け、痛みが消えたところでノルトも周りを見る余裕が生まれた。

「ここは……?」

「探していた地下室のようだぞ」

 ノルトの呟きにクインクトが答えた。その言葉を理解した途端、ゆっくりだったノルトの動きが忙しなくなる。上へ、下へ、右へ、左へ、ぐるっと回って後ろの方へ。そして下も見る。

「どうやら朽ちかけたテーブルの上に落ちたようですね」

 今は粉々になって面影のみになったテーブルが落下の衝撃を緩和して大怪我を免れたらしい。

 崩落したのは地下室の天井の殆どで、床の大半はその瓦礫に覆われてしまっている。隅の階段の上、入り口らしき部分の構造からすると隠し地下室のようである。そのお陰で地上が破壊されても入り口が開放されず、浸水を免れていたらしい。

 カビと腐葉土と腐った肉が混じったような臭いが残る地下室跡の壁際には書棚とチェストが在る。ノルトは吸い寄せられるように書棚に向かう。サーシャはその後ろをキョロキョロとおっかなびっくり周りを見回しながら付いて行く。

「ひゃっ!」

「姫様!?」

 即座に反応したマリアンにサーシャは言葉を返す。

「ほ……、骨が……」

 階段の反対側の壁際に黒ずんだ白骨が座っていた。右腕は朽ちていて、左腕で身体(からだ)を支えているかのようにも見える。

「大崩壊の時に亡くなったんですね」

「ええ……」

 骨に対する感想はそれだけで、ノルトは書棚を物色する。

「あ、あの……、ノルトはあの方が気にならないのですか?」

 死の気配に本能的な恐怖心を抱くサーシャ。

「ええ、まあ。骨は何も喋りませんし……。後で調べてみますけど」

 その辺りを全く忖度しないノルト。

 サーシャは小さく左頬を膨らませる。

「皆さん! 瓦礫の撤去に取り掛かってください!」

 そしてドレッド、マリアン、クインクトに向かって声を張り上げた。


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