サプライズパーティー(偽)は、誘爆を起こす
詳しいことは、後で話す――そう言ってから、雲谷先生は、買ってきたケーキを皆で食べようと微笑んだ。
「で」
椅子に腰掛ける俺の対面で、雲谷先生は白い目を俺に向ける。
「淑蓮はまだわかるが……なんで、水無月まで、桐谷にくっついてるんだ?」
なぜか、ひとつの椅子に三人で腰掛けている現況、両隣から密着されている俺は、生きた心地がしなかった。
「好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよアキラくん大好きだよ好き好き好き好き好き好き……」
「あと、さっきから、水無月は桐谷に何をささやいてるんだ?」
水無月さんは、ニッコリと微笑む。
「スピードラーニングです」
そうだね、高速洗脳だね。
「お兄ちゃん……ちゅっ……お兄ちゃん……」
耳にキスするのやめてくれる? 兄妹でも犯罪だよ?
「ブラコンだとは聞いてたが、普通、ここまでするもんなのか? 私は兄妹がいないから、よくわからんが」
「もー! 先生ったらー! これくらい、海外では普通ですよー!」
どこの外洋を渡ったら、兄妹間の性犯罪が無効になるの?
「淑蓮、お前、いい加減、お兄ちゃんを卒業しろよ。さすがに、許容できないレベルになってきてるぞ?」
兄らしく毅然とした態度をとる俺に対し、淑蓮は「でも」と反駁を口にした。
「私、将来、お兄ちゃんのこと、養ってあげられるけどな~」
「えっ!?」
俺の腕を両腕で抱え込み、上目遣いの妹はニッコリと笑う。
「お兄ちゃんのためなら、私、一生働いていけるし~、それに兄妹だからこそ、絶対にお兄ちゃんのことを裏切ったりしないよぉ?」
妹のヒモ――有りだな。
期待が顔に表れてしまったのか、右隣にいる水無月さんが、俺の腰元にそっとスタンガンを当てる。
「……裏切るの?」
「妹に養われる兄が、どこの世界にいるんだ!? あぁん!?」
淑蓮は舌打ちし、俺の背中の後ろで、水無月さんにささやきかける。
「そういう露骨な脅し、やめたらどうですか? そもそも、この状態でスタンガンを使ったら、どうなるかくらいはわかりますよね?」
「わかるよ?」
俺の背中に鼻を当てながら、彼女は返答する。
「わかってるから、やってるの……アキラくんと同じなら、ゆいは、どこへだって行けるよ?」
俺は、同乗拒否するよ?
「なんだなんだ、こそこそ話か? 学生の頃を思い出すな?」
酒も飲んでいないというのに、学生宅でウキウキになっている26歳は、色気のないジャージ姿を露わにしてぐいっと俺に詰め寄る。
「モテモテじゃねぇか、えぇ、桐谷ぃ?」
「ハッハッハ! コレは参ったなぁ!」
片方は妹でもう片方は通報案件……嬉しがる方はいるんですか?
「まぁ、宴も酣ってところで、ちょっと、桐谷のこと借りるな?
あぁ、食べてからで良い。廊下にいるから、ゆっくり来い」
先生のご厚意に甘え、残りのケーキを完食してから腰を上げ、俺は廊下へと向かった。
数歩歩いて尚、暖かく柔らかな感触が、両隣にひっついているのを感じる。
「あの……ついてこないでもらっていいですか……?」
当然のようについてきた小判鮫が、俺の脇の下辺りを嗅ぎながら口を開く。
「アキラくん、一人でトイレできな――あ、そっか、それは最終段階か」
お前、今、さらっととんでもねぇこと言ったな?
「いや、トイレじゃなくて、少し先生と話すだけですよ。さっき、先生も『桐谷のこと借りるな?』って言いましたよね?」
「貸さないよ?」
「え?」
水無月さんは、美しい面立ちを破顔させる。
「誰にも、絶対に、一秒足りとも、アキラくんは貸さない」
あ、なるほど~、俺に人権ないんだ~?
「お兄ちゃん! 先生と話すなんて、別に明日でもいいでしょ? そんなことよりも、私と一緒にお家に帰ろう?」
「いや、優先順位的に、先生が先だろ?」
「……え?」
俺の妹は目元をぴくぴくと動かしながら、耳を疑うかのように顔を歪めた。
「わ、私、先生よりも下なの……? お、お兄ちゃんにとって、私、先生よりも要らないの……? え……ぇ……ど、どうゆうこと……え……? 一緒に暮らしてきたのに……え……お兄ちゃんのために……何もかも捨ててきたのに……?」
なんで、立ち話しようとしただけで、こんなに気力もってかれるの?
「じゃあ、ゆいも二番目ってこと!? アキラくんにとって、ゆいは二番目の女なの!? 愛し合ってるのに!? 恋人同士なのに!?」
ココで、誘爆するんだ~?
「要らないなら、私、死ぬね? お兄ちゃんにとって必要ないなら、私、存在してる意味ないから。だから、死ぬね?」
「その冗談は嫌いだから、止めろって言っとるだろうが」
取り出したカッターを手首に当てた淑蓮から、強引に刃物を奪って、俺は何本目かわからないそれを懐に仕舞う。
「お前のせいで、手持ちのカッターが増えすぎて、フリマの度に『女子中学生、使用済みカッター』として売り出して儲かってんだから……ありがとな」
「う、うん! 私も愛してるよ、お兄ちゃん!」
お前、耳に変換機でもついてんの?
俺に抱き着いて頬ずりしている淑蓮を視て、水無月さんは無言でスタンガンを鳴らす。
「……ゆいのアキラくんから離れてよ?」
「離れませんよ? だって、お兄ちゃんと私は結ばれてるんだから」
兄妹の絆でね?
「なら、消え――」
「桐谷」
扉が開いて、水無月さんがスタンガンを仕舞う。
「お前に電話だ」
「え、誰からですか?」
雲谷先生は、困りきったかのように眉を下げる。
「お前のストーカーから」
「着拒で」
認められず、俺は携帯電話に耳を当てた。