↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/170

優等生(ヤンデレ)VS妹(ヤンデレ)

「どうしたの、アキラく――淑蓮《すみれ》ちゃん?」

 

 悲鳴を聞きつけた水無月《みなつき》さんは、目隠しを外し、俺の前に現れた妹のことを値踏《ねぶ》みするかのように睨《ね》めつけた。


「不法侵入《ふほうしんにゅう》だよね? どうやって、入ったの?」

「正規《せいき》の手順に従って、に決まってるじゃないですかぁ。エントランスの入り口にいる警備員さんに『忘れ物をしたので、もう一度通してもらっていいですか?』って、ちゃんと許可をとってから入りましたよぉ?

 私、お友達作るの得意なんでー」

 

 不穏《ふおん》な気配を漂わせている彼女に対し、淑蓮は頭の後ろで両手を組んであっけからんと答える。


「……鍵は?」

「もしかして、水無月先輩って、お兄ちゃんがいると〝隙《すき》〟が出来やすくなるんじゃないですか?」

 

 水無月さん宅の鍵らしきものを揺らしながら、我が家の妹はニコニコと犯罪自慢をする。


「さすがにディンプルキーは面倒なので、ちょっとお借りしちゃいました」

 

 笑う妹に対し、半裸の俺はつい疑問を口走《くちばし》っていた。


「え、ディンプルキーってなに?」

「ピッキングによる不正解錠《ふせいかいじょう》への対策《たいさく》を施《ほどこ》した鍵のことだよ! 私なら開けられるけど、専用のツールが必要だし、時間もなかったから借りることにしたんだ!」

「お前、なんで、そんな知識もってんだよ?」

「お兄ちゃんの部屋の鍵を――防犯のためだよ!」

 

 俺の部屋(マイ・ルーム)の防犯のためとは、泣かせてくれるじゃないか!

 

 感謝を籠《こ》めて頭を撫《な》でてやると、皮膚《ひふ》を突き刺すかのような殺気が飛んできて、俺はそのまま横にスライドし何もない空《くう》を撫でる。


「なぜ、スペアキーの場所がわかったの?」

「水無月先輩が、教えてくれたんじゃないですかぁ」

 

 さっきから、一度も笑っていない水無月さんは、訝《いぶか》しげに眉をひそめた。


「お兄ちゃんのお古のスニーカーの中……水無月《みなつき》先輩、私を招き入れる時、一瞬《いっしゅん》だけ目をやりましたよね? 人は何かを隠《かく》す時、そちらの方に、どうしても意識《いしき》を向けちゃうものなんですよ?

 お兄ちゃんへのプレゼントのつもりだったのかもしれないけど、本人のスニーカーの中に隠《かく》すとか趣味悪《しゅみわる》すぎですね!」

 

 にこやかな談笑《だんしょう》を行っているかのように、俺の妹は小首を傾《かし》げて微笑《ほほえ》み――水無月さんの目から光が消える。


「残念だな。わたし、淑蓮ちゃんとは、あんまり仲良くできないかもしれない」


 とりあえず、半裸では死にたくないんで、服着てもいいですかね?


「そもそも、水無月先輩、人のことを言えた義理《ぎり》ですか? 人様《ひとさま》のお兄ちゃんを拉致監禁《らちかんきん》しといて」

 

 悪《わり》ぃ! ソレ、俺が頼んだんだわ!

 

 とか言ったら、ただでさえ混沌《こんとん》としている場がぐちゃぐちゃになるので、俺は真剣な顔つきで腕組みをして推移《すいい》を見守る(非暴力主義《ガンジースタイル》)。


「愛する人と一緒にいられるのなら、手段なんて選ばないよ?」

 

 それは、選《えら》ぼ?


「何を言ってるんですか? 頭がオカシイわけ? 尚更《なおさら》、お兄ちゃんをココに置いていくわけにはいきませんよ」

 

 お兄ちゃん、今、感動してる! 妹の常人《じょうじん》ぶりに、感動してるよ!


「本当にクラスメイト全員の家を回っているわけがないし、アキラくんの現在位置の特定方法くらいは見当ついてたけど……あぁ、なるほど」

「……なんですか?」

 

 水無月さんは不敵《ふてき》に笑み、淑蓮は挑戦するかのように彼女を睨《にら》みつける。


「アキラくんの前では、良い子ぶってるんだ?」

「……何の話?」

 

 え、ホントに何の話?


「ねぇ、アキラくん、知ってる?」

 

 花弁《かべん》を押し広げるようにして、水無月さんは、慈《いつく》しみ深い微笑《びしょう》を浮かべる。


「ゆいが壊しちゃったスマートフォン、データの修復《しゅうふく》くらいだったら、簡単に出来るんだよ? あの携帯、ゆいが復旧《ふっきゅう》してあげようか?」

 

 彼女は目を細め、俺の妹を視る。


「……もしかしたら、〝イケないもの〟が、勝手に導入《インストール》されてるのが見つかったりするかも」

「え、ウィルスとかですか? というか、その話、何の関係が――淑蓮? どうした、真《ま》っ青《さお》だぞ?」

 

 淑蓮は顔を蒼白《あおじろ》くして、ストレスが溜《た》まった時の癖《くせ》である〝爪噛み〟をしながら何事かをブツブツとつぶやいている。


「お兄ちゃんに嫌われたくない嫌われたくない嫌われたくない嫌われたくない……お兄ちゃんにだけはお兄ちゃんにだけはお兄ちゃんにだけは……」

 

 爪噛みもそうだが、このブツブツ言う癖も止めて欲しい。なんか、水無月《ヤンデレ》に似てるし。


「ねぇ、淑蓮ちゃん」

 

 水無月さんが両肩に手を置くと、淑蓮はポケットに手を入れ、ビクリと身体を浮かした。


「今直ぐ失《う》せるなら、許してあげるよ?」

 

 水無月さんは笑っていたが、その瞳《ひとみ》には敵愾心《てきがいしん》が灯《とも》っている。


「アキラくんにも黙っておいてあげ――」

 

 ポケットから手を出そうとした淑蓮の右手を、ノールックで水無月さんが掴《つか》む。


「ポケットから手を出したら、敵対宣告《てきたいせんこく》とみなすね?」

「うっ……うっうぅ……」

 

 引きつった声を上げながら、淑蓮が身悶《みもだ》えをする。


「まぁまぁ落ち着け、二人とも。お互いが得する方法を、皆で考えようじゃないか」

「じゃあ、アキラくんを半分個《はんぶんこ》にする?」

「さっきの発言はなしで」

 

 スゴイや!! 発言ひとつで、簡単に死ぬ!!


「ゆい、アキラくんのためなら、なんでもするよ? 淑蓮ちゃん、早く帰ったほうが……なに?」

 

 怯《おび》えていた筈《はず》の淑蓮がニヤリと笑い、水無月さんはその意味を疑うかのように目を眇《すが》め――


「なんだ? 水無月は、風呂に入る時は水着なのか?」

 

 予想だにしない人が、妹の背後《はいご》に立っていた。


「お前、桐谷《きりたに》……人の家で風呂に入るって、はしゃぎすぎだぞ?」

 

 何時《いつ》ものジャージ姿のまま、俺の担任が仁王立《におうだ》ちで「よう」と片手を挙《あ》げる。


「雲谷《うんや》先生! どうして、ココに!? 婚活《こんかつ》パーティーの開催地《かいさいち》は、少なくとも、ココじゃないで――んぼっ!」

 

 げんこつをもらい、激痛で俺はその場に屈《かが》む。


「ついさっき、淑蓮から連絡をもらって『電話がかかってきたら、水無月先輩の家に入ってきて欲しい』って言われてたんだよ。

 教師が乱入するのもどうかと思ったんだけどな……〝サプライズパーティー〟のゲストとして呼ばれたからには参加せざるを得ないだろうが」

「サプライズパーティー?」

「ん? 淑蓮《すみれ》から、そう聞いてたが? 今日は、水無月の誕生日なんだろう? 私がご両親の代わりになれるかはわからんが、精一杯《せいいっぱい》、祝ってやるからな」

「さっきから何言ってんだ、この年増《としま》」

 

 口内に胃液の味を感じてから、俺は考えを口に出していたことに気づいた。


「なんで、両親が滅多《めった》に帰ってこないってわかったの?」

「水無月先輩ほどの人が、環境も整えられずに、お兄ちゃんを監禁しようと思うわけないですよね? それに、むき出しのお金を、出しっぱなしにしてちゃダメですよ? 悪い後輩が『コレは夕飯代で、普段からご両親の帰りが遅《おそ》いんだ』って察《さっ》しちゃいますから」

 

 淑蓮《すみれ》はポケットから手を出して、自分自身のスマートフォンをひらひらと振る。


「言ったでしょう? 私、お友達を作るの得意なんです」

「でも、わたしとはお友達になれないね」

 

 笑い始めた二人を眺《なが》めながら、事態《じたい》を把握《はあく》できていない俺と先生はキョトンとする。

 

 何がなんだかわからんが、俺のヒモチャンスはまだ活《い》きてるんだろうか?

 

 そんなことを考えていると、隣に立っていた雲谷先生が、こっそりと俺の方に身を寄せてささやく。


「明日、学校で言おうと思っていたんだが……桐谷」


 先生は、俺を見つめて言った。


「お前に嫌がらせしてたストーカー、見つかったぞ」

「え?」

 

 水無月さんと淑蓮が、同時に笑うのを止めた。

この話にて、第一章は終了となります。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。


次話より第二章となりますが、引き続きお読み頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。