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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE5 『胎動する〝絶望〟(たいどうする〝ディスペア〟)』
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第291話 無垢な背中の黒い陰

───一月十二日 火曜日───


身体の奥から、今までに感じたことのない異質な〝力〟を岳中秋穂は感じていた。


「これが、【念晶者(クリスタライズ)】への目覚め……?」


漠然とそう思った。


「そうだよ」


目の前に浅陽がいた。


「浅陽ちゃん? どうしてここに?」


「怖がらなくていいんだよ」


そう言って浅陽は秋穂の手を両手で包み込むようにして握った。


「これはね、秋穂の〝想い〟のチカラ」


それは覚醒した生徒達に浅陽がいつもかける言葉。


「私の想い……」


「そして、目覚めた理由がきっとある」


「目覚めた理由……」


浅陽が頷く。


理由(それ)はわたしには分からないけど、今までとは違う大きなチカラを手に入れたということだけは確かな事実。このチカラは人を幸せにもするし不幸にもする」


言い聞かせるように浅陽はじっと秋穂の目を見る。


「あなたなら分かるよね?」


そう言って笑みを浮かべる浅陽。しかしいつもとは違って背筋がぞくっとする笑顔だった。


「浅陽……ちゃん?」


違和感を覚えて不安になる秋穂。

次の瞬間、突然浅陽に握られた手が眩い光を放った。


「───っ!?」


まぶしさで思わず目を瞑った。


「…………ん」


瞼の上からの刺激がおさまったのでおそるおそる目を開ける。

光は収まり、浅陽の姿もなくなっていた。


「浅陽ちゃん? どこ……?」


辺りを見回す。ふと背後に何か、赤い髪のような何かが見えた。 


「浅陽ちゃ───」


秋穂は振り向いた。そこには……


「え……?」


傷だらけになった倒れている浅陽の姿があった。


「あ、浅陽ちゃ、きゃっ!?」


駆け寄ろうとしたところに何かに躓いた。


「あいたたた。何に躓い……っ!?」


足下にはボロボロになったミシェルが横たわっていた。


「ミシェル……ちゃん?」


イヤな予感がして他にも誰か倒れていないか探す。

するとすぐ近くに美那が、そしてその隣には優希人が、ともに満身創痍で倒れていた。


「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




がばっと秋穂はベッドから起き上がった。


「はぁっ、はぁっ……」


息が荒く、汗をかいていて、心臓がバクバク言っている。


「夢……?」


周りを見回すと間違いなく自分の部屋で、彼女以外誰もいない。もちろん傷だらけの友人達などいるはずもない。


「よ……よかった」


ほっと胸を撫で下ろす。

ふと、ぶるぶるっと身体が震えた。


「……寒い」


ただでさえ真冬の早朝で寒いのに、イヤな夢を見てかいた汗が早くも冷えてきたのだ。


「風邪ひく前にシャワー浴びよ」


手早く着替えを取り出して浴室へ向かった。




【久遠舘学院】は国内でも数少ない、異能を持つ者の通う教育機関だが、それ以外はいたって普通の学校だ。


「おはよう~」


この日も登校する生徒の挨拶が飛び交う。そして、


「おはようございま~す」


生徒会と風紀委員が抜き打ちで校門に立って挨拶運動と称して生徒らを出迎えることも他の学校同様に存在する。

その両組織のトップが、先陣を切るように校門に立ち生徒達を出迎えていた。


二人が並んで立っている為、校門を通り過ぎていく者の中には二人の関係を疑う者も少なくない。実際、以前からそういう噂もちらほら聞かれるので、挨拶に混じって憧れや羨望の込められた囁きも飛び交っている。それは当然、常人よりも優れた耳を持った当人達の耳に否応なしに入る。


「困ってしまいますね」


別段困っていないような顔で話しかける迅水めぐり。


「仕方あるまい」


水薙誠夜は溜め息交じりにそれに応える。


「おはようございます」


二人の前を岳中秋穂が通り過ぎた。


「おはよう、岳中さん」


めぐりが挨拶を返す。


「浅陽ちゃんのお兄さんもおはようございます」


「おはよう」


秋穂はその場に立ち止まって誠夜を見上げている。


「何か用か?」


「そういえば、お兄さんはこっちにいるんだなって」


「ああ。こっちは俺でも構わないんだが、向こうは浅陽(あいつ)じゃないといけないみたいなんでな」


その返答に秋穂は不思議そうな顔をして首を傾げた。


「俺でも出来ることと、浅陽(あいつ)にしか出来ないことがあるということだと思ってくれればいい」


「わかるような、わからないような……」


「心配ならメールの一つでも送ってやればいい」


「そうですね。じゃあ私はそろそろ」


軽く二人に頭を下げて秋穂は昇降口へ向かっていった。


「───っ」


その彼女の後ろ姿を見た誠夜の眉間にしわが寄る。


「めぐりちゃん、誠夜クン、おはよ~」


まもなく美那がやってきた。


「おはよう、美那さん」


明星(あけほし)、いいところに。めぐり、少し離れる」


そう言って誠夜は校門の内側に美那を連れて行く。


「誠夜さん?」


首を傾げためぐりだが、すぐに挨拶運動へと戻った。


「なになに誠夜クン。悪いけどボクは……」


冗談交じりにからかおうとした美那だが、思いの外彼の表情が剣呑としたものだったので途中で留まった。


「あれを見てくれ」


誠夜が校舎の方を指さす。


「あれ? あの後ろ姿は秋穂じゃん。お~……」


秋穂を呼ぼうとした美那を誠夜は止めた。


「お前には見えないか?」


「見えないって何が?」


「彼女の姿をよく見てみろ」


言われて秋穂の背中を凝視する美那。すると、


「え?」


秋穂の肩辺りから、薄らと黒っぽい煙のような靄がかかったようなモノが見えた。


「あれってもしかして……!」


「俺でも意識して視ないと薄らとしか見えない。妖魔の類に憑かれているのかもしれないし、ひょっとしたら仮面隷奴(やつら)の仕業かもしれない」


誠夜は懐から細長い紙片を取り出した。それには漢字や記号にも図形にも見えるモノが描かれている。


「これって護符?」


「わかりやすく言えば悪霊退散の護符だ。これを彼女の背中に貼り付けてくれ」


「小学生のイタズラみたいに?」


「言い方がアレだがまあその通りだ。これは貼ってしまえば人からは見えなくなるように認識を変えられる」


「りょーかい。ボクもあの黒いの視た時何か嫌な感じがしたんだよ」


「頼んだぞ」


軽く手を挙げて走り去る美那。まもなく秋穂に追いついた。


「あ~きほっ! おはよ!」


元気よく挨拶しながら、ぽんとその背中を叩いた。勿論護符を貼るためである。

それを確認すると誠夜は挨拶運動に戻っていった。


次の瞬間、その護符は音も無く燃え尽きた。


誠夜の目も、美那の目も、他の生徒達の目も彼女の背中から離れ、設置されている監視カメラのごく僅かな死角に入ったその刹那の出来事だった。




つづく

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