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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE5 『胎動する〝絶望〟(たいどうする〝ディスペア〟)』
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第288話 ミシェルの戦い①

ミシェルは唐突に目を覚ました。

その視界は暗い。


「……まだ夜中? いえこれは───」


不本意ながら見慣れてしまった、窓から入る赤い月明かり。瞬時にして自分が今どこにいるのか理解した。


黒仮面達(ヤツら)の世界───!!」


枕元の〈ニヴルヘイム〉に手を伸ばす。


「……?」


〈ニヴルヘイム〉から伝わってくる感触にふと違和感を覚えた。だがこの空間では魔力や生命力が容赦なく奪われていく。迷っている時間は無かった。


「───解放せよ(リーベラーティオー)


そう唱えると、寝間着が一瞬にして別の衣装に変わった。


深い蒼色をしたベアトップのフィッシュテールドレスはスカート部分の内側がオーロラのような輝きを放っている。そこから黒タイツに包まれた細い脚が黒のロリータブーツへと続いている。


ドレスの上から極夜を思わせるローブが羽織られ、最後に腰から太ももを守る鎧の一部である純白のタセットが腰の左右、そして正面に装着された。ミシェル・J・リンクスの〝覚醒装束〟である〈オーロラ・ボレアリス〉だ。


簪を(ケイン)に戻して横乗りになるとバルコニーから飛び出した。


「間違いなく黒仮面達(ヤツら)の世界ね」


漆黒の空に浮かぶ赤い月を見上げてそう確信した。


「でも何故ワタシはここにいるのかしら?」


寝ている間に連れ込まれたとしか思えなかったが、黒仮面の妖気に彼女が気づかないワケがない。


無論、現世(おもてがわ)から黒仮面達の世界(こちらがわ)のことは感知は出来ない。しかし、一旦現世(おもてがわ)に現れて接近されればやはり気づかない道理がない。


「とすると何らかの原因があってこちらへ来てしまったと考えるべきかしら……?」


だがその〝何らかの原因〟にまったく心当たりがない。

その時───、


「───っ!?」


唐突にもの凄い力で下から引っ張られるような感覚に襲われた。


「これ……は───」


見えない鎖に絡め取られてウインチか何かで無理矢理引きずり下ろされているかのようだ。


そんなミシェルに突風が襲いかかった。


「くっ……」


抱え込むように(ケイン)にすがりつく。その目の前を、猛烈な勢いで地上から打ち上げられた何かが通り過ぎていった。


(今のは……?)


地上から引っ張られ、強風に煽られながらも、背後(うえ)からの襲いかかろうとする圧を感じ取った。それが今しがた上空へと打ち上げられた何かであることはたしかだ。そしてそれは黒仮面達(ヤツら)の世界である限り、味方ではないことは明かだった。


その上からの敵意は落下の勢いそのままに彼女に襲いかかろうとしている。


(敵襲ということは、やはり眠っている間に誘い込まれたということ)


彼女に悟られずにこの世界に連れてこられた手段を考える暇もなさそうだった。


「『氷壁(クライペウス)』ッ!」


ミシェルの戦闘装束〈ポーラー・ナイト〉には簡易的な障壁が備わっている。簡易的とは言ってもそんじょそこらの術師とは比べものにならないほど高度なモノだ。


覚醒装束〈オーロラ・ボレアリス〉の障壁(モノ)はそれとは更に比べものにならない。魔術的には言うに及ばず、物理的な攻撃も基本的には彼女に届かない。


その〝基本的な〟を超えた、常識を逸脱した存在である黒仮面。その更に上位存在かもしれないモノを目の当たりにしたミシェルは、覚醒装束の障壁すらも心許なく感じられた。


氷壁(クライペウス)』は言わば氷の盾。覚醒状態の彼女のソレはちょっとやそっとではヒビすら入らない。だが、


「───っ!?」


ガギンッという轟音と衝撃があった。地上から打ち出された何かが落下してきてそのままミシェルに襲いかかろうとしたのを、氷の盾が防いだ音だ。


防いだには防いだがその衝撃は地上から引っ張る力を後押しする形となった。


(このままでは墜落する───!)


上昇しようと試みるも、地上から引かれる力と上から押される力が思いの外大きく、そのまま地上へと落下した。落下の寸前に地表への激突を免れたのは上昇しようとした結果かと思われる。


だがそれだけでは終わらなかった。

片膝をついた状態のミシェルの頭上に展開されていた氷壁が砕かれた。そのまま盾を砕いた巨大武器が迫る。


「───っ!!」


咄嗟に(ケイン)を翳す。すると先端に魔方陣が浮かんで、『氷の矢(サジッタ・グラチェス)』がマシンガンの如く発射された。


たまらず巨大武器を盾のようにして氷の矢を防いだソレは押し返された勢いを利用してミシェルから距離を取った。


(あれは……巨大な斧?)


赤い月明かりの中でそのシルエットが薄らと浮かんで見えた。


「無様ですねぇ」


嘲るような笑いとともにそんな声が聞こえた。巨大な斧を持った何モノかとはまったく別の方向から。


声のした方を見る。するとその場所が見覚えのある場所であることに気づいた。


(ここは……学院のグラウンド)


別の空間でありながら、現世とまったく同じ風景を持つ摩訶不思議な世界。しかし人間や生き物の気配、街の音、何より漂う空気から現世とはまったく別の空間であることがイヤでも分かる。


やがて声のした方向、校舎の影から人影が姿を現した。

その人影はミシェルも見たことのあるモノだった。


「お前は───!!」




つづく

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