第279話 隕石群
「この地に眠る隕石というと、およそ一万年前にこの島が出来る原因になった隕石のことでしょうか?」
「ええ。一万年前の同時期に他にもいくつか隕石の落下が確認されていることから〝一万年前の星屑達〟と呼ばれているモノの一つです」
〝一万年前の星屑達〟。
一万年前のほぼ同時期に地球へ落下した隕石で、現在までに少なくとも七つ確認されている。それらは共通して一つの特徴を持っていた。
「たしか、地球上には存在しない未知の物質で構成されていて、未だ解明されていない不思議な〝力〟を有しているとか」
「それらは現在、御神体として祀られていたりとか、中には博物館に展示されているモノもあり、【異能研】のように厳重に封印を施しているモノもあります」
「───ッ!?」
所持していることもさることながら、封印を施していることが露見していることに対して梨遠は驚いた。
「そこの学院には幾重にも結界が展開されていますね。一般の生徒や職員達を守るためのモノ。結界を隠蔽するためのモノ。認識を阻害させるモノ等など、他にもいくつか。【異能研】が所持しているモノで、それほどの結界を要するモノとくれば自ずと正解が導き出されます」
それらはおそらく銀髪の少女からもたらされた情報だろう。
「あと島の東西南北に四つの要があって、その要を守るモノ、四つの要を基点としたさらに大きなモノもあるようですね。こちらも気になるところですが今は置いておきましょう」
「……なるほど。一昨夜、おたくの娘さんが独断専行していたのはそれを確かめるためというわけですか」
目の前の男から聞かされた、彼女が信頼しているというのが梨遠には皮肉に思えてきた。
「あの子に劣らず我々の諜報部も優秀でして。だからといって手渡せと言いたいワケでもなく、出来れば【異能研】にはこのまま封印を維持していただきたいのです」
「……それは言われるまでもなくそうしていくつもりですが。なぜそのように忠告じみたことを?」
「今、世界各地で隕石の盗難が相次いでいるようなのです」
居住まいを正してジョシュアがそう口にした。
「日本国内ではそういった話は聞きませんが……」
「それも時間の問題でしょう。中には厳重に展示されていた美術館から盗まれたと言う例もあります」
「もしやそういった中に〝一万年前の星屑達〟も?」
頷くジョシュア。
「非常にレアなモノですからそういったモノ専門のコレクターもいますし、学術的なだけでなく骨董的な価値を見出されることも少なくありません」
「では闇市場に?」
その名が示す通り、決して陽の当たることのない裏社会の非合法な取引が行われている市場のことである。梨遠は以前に遭遇した〝黒いカクテル〟事件を思い浮かべていた。あの事件もある意味闇市場と言える。極めて浅い闇ではあったが。
「いえ。我々も見張っているのですが〝一万年前の星屑達〟が出回っているのは確認出来ていません」
「出回っていない? まさか何者かが集めているとか……」
「その可能性が極めて高いかもしれません。それがただの蒐集家ならいいのですが」
不安を煽るような言い方をしたのは、彼自身不安を募らせているのかもしれない。
「何かをしでかすために集めている……?」
「分かりません。ですがご存知の通り〝アレ〟は極めて微量ながら【PCW値】が計測出来ます」
【PCW値】とは、人類が潜在に有している念晶波『Potential of Crystal Wave』をわかりやすく数値化したものだ。
実のところこの【PCW値】は、とある世界的な【念晶者】の研究機関が暫定的に呼んでいる名称だったりする。早い話が完全に解明しきれていない波動の一つなのだ。
一定以上の数値に到達することで【念結晶】が顕現し、その人物は【念晶者】となるということだけは確立されているので『潜在念晶波係数【PCW値】』として一般的に広く知られている。
しかし〝一万年前の星屑達〟やその他少数の隕石からこの【PCW値】が微量ではあるのの検出されるため、近年見直すべきだという声も上がっているとか。
「もしこれを利用して何か起こそうと企てる輩がいるかもしれません」
「たしかに理論上は可能かもしれませんが、あくまで理論じょ……う……」
梨遠の語尾が尻すぼみになっていく。
「何か気になる点でも?」
ジョシュアが梨遠の顔を覗き込む。
「……黒い……【念結晶】」
「それは報告にあった……?」
ジョシュアはノートPCを開いて黒い【念結晶】についての報告と調査結果を検索する。それはすぐに見つかり、再び目を通す。
「……なるほど。考えられなくはない。むしろそうだと言った方がしっくりくるくらいだ」
「どうやら私達はかなり後手に回ってしまっていると考えた方が良さそうですね」
「たとえ私達の推測が間違っていたとしても、その時は声をあげて笑えばいいだけです」
「ですね」
梨遠はコーヒーを飲み干し、ジョシュアはノートPCを閉じた。
「私は本部に戻って対策を練ります。もちろん茉莉様にもこの件を伝えておきます」
「私もすぐに帰国しましょう。幸い休暇ももうおしまいですし」
「何かありましたら娘さんを通じてそちらにお伝えします」
「よろしくお願いします。こちらも各地に目を光らせておきますね」
二人は立ち上がり、かたく握手を交わした。
つづく




