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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第261話 覆された未来

慧太郎を狙うかのように倒れこむ御神木。

その巨大さ故の重量は、彼の背後の社殿をも押し潰してしまいそうだった。


と、その時───


「───っ?!」


浅陽は眩い光が発せられるのを目の当たりにした。


「御神木の根っこが───」


それは折れた幹の下の部分、切られたというよりも正に折られた後の幹が放っているようだった。


そして、【龍宮神社】の境内は光に包まれた。

その光の中、浅陽の目に見たことのない光景が飛び込んでくる。


「これは……?」




空高く築かれた塔。


(ここは……?)


その頂上には祭壇が設けられている。

その祭壇の前には巫女のような恰好をした二人の赤髪の少女。


一人は金色の、もう一人は銀色の瞳をしている。


金色の瞳の巫女の周りには黄金に瞬く七振りの剣。


銀色の瞳の巫女の周りには真紅に輝く七振りの剣。


(あれは───?!)


見たことのない造りの十四の刃。

しかしなぜか、知っている気がした。


ふと、辺りが少しずつ暗くなっていくのに気づく。


(太陽が沈んでいく暗さじゃない……)


夕陽に染まっていくのではなく、真昼間からそのまま暗くなったいくような感覚。

見上げてその理由が分かった。


(あれは───日蝕よね)


眩しさに目を細めながら見上げた太陽が、端から少しずつ欠けていく。

やがて完全に重なり、黄金の輪が空に浮かび上がる。


───瞬間、世界が暗転した。


(え……?)


光も音も感触も消えた。

まるで闇に飲み込まれてしまったみたいに。


(なにが起きたの?!)


しんと静まりかえる世界。


『───ッ』


なにか聞こえた気がした。


(なに……?)


『───ッ!』


その声は少しずつ近くなっていく。そして───、




『浅陽っ!』


「え……?」


浅陽は唐突に我に返った。


「あれ? ここは……」


キョロキョロと見回すと、そこは見覚えのある【龍宮神社】の境内だった。


『ぼぉっとして、何かあったのか?』


心配そうに咲夜が訊ねる。


「……あたしもよくわかんないんだけど。夢……だったのかな?」


夢というにはやけにはっきりと視ていたように思えた。


『夢? 白昼夢でも見ていたのか?』


「そう……かも」


『はっきりしないやつだな』


「そうだ! それより御神木は?」


再び周りを見回すが、巨木が倒れている様子も、社殿が潰されている様子もない。


『あれを見ろ』


「あれ?」


咲夜が意識を向けた方に顔を向ける。

すると、また夢でも見ているのかというような光景がそこに広がっていた。


「え? なに? どういうこと?」


さすがの浅陽も混乱した。


「凛ちゃんが……二人いる(・・・・)?!」


慧太郎の傍らにいる大きな四足の獣。その背中に凛が乗せられている。


問題はその傍らに立つもう一人の〝凛〟だ。


そちらはどういうわけか、生まれたままの姿だ。

その少女が右手を高く掲げると、風が巻き上がって彼女の身体を包み込んだ。

その風が収まると、彼女はゴスロリ風の淡い紫色のワンピースに身を包んでいた。


「もしかして……レイン?」


慧太郎がおそるおそる声をかける。


「はい。改めまして、レイン・アンネリーゼ・エーベルヴァインでございます」


スカートの裾を摘んで軽く持ち上げ、膝を曲げる。カーテシーというやつだ。


「この度、新しい器(・・・・)を頂戴して再臨いたしました」


『もしかして、倒された御神木で作られたのか?!』


咲夜が驚きの声をあげる。


「はい。〝紅陽石〟のおかげです。木で出来た木偶人形ではありますが」


「人形って、普通の人間にしか見えないんだけど……」


浅陽も目を細めたり擦ったりして何度も彼女を見直す。


「そこはまあ、これまで通り〝蒼月石〟の〝力〟ということで」


にこりと笑ってみせたそれは、とても木偶人形には見えない。


(カナだったら人形に見えたりするのかな……?)


などと浅陽は思った。


「なにはともあれ、これでカタがつきましたね」


レインは慧太郎に向けて言った。


「……そうだね。軍服の男も、暴れていた龍神だった〝応龍〟も。あとは凛の病気がなんとかなれば万々歳ってとこかな」


「それと……」


慧太郎の後ろで事態を見守っていた茉莉に、レインは顔を向けた。


「ご苦労様でした」


〝茉莉〟が声を発した。


「それと、ありがとうございました。海神(わだつみ)に代わり感謝いたします」


「やはり貴女は───」


慧太郎がその名を呼ぼうとその前に立つと、〝彼女〟はにこりと笑って帰っていった(・・・・・・)


「ふう」


茉莉がほうっと息を吐く。


「……まったく。人使いの荒い祭神様だったわね」


彼女の声を聞いて、慧太郎はキョトンとする。


「どうしたの、叢くん?」


「あ、いや」


慧太郎は苦笑する。


「すっかり、いつも通りのまつり姉さんだなって」


「そう? そんなに違いはなかったと思うんだけどな〜」


「そこはまあ、長年の付き合いだし」


「うふふ。そうね」


と、社殿の影から、風花たちがぞろぞろと姿を現した。


風花が大きく手を振っている。


その横で恭香は麻衣と由梨の肩を借りて疲れ果てた表情をしているが、どこか満足そうにしている。


「みんなお疲れ様でした。寒いし風邪を引かないうちに家の中に入って。積もる話はそれからにしましょう」


茉莉の提案には〜いという合唱が返ってくる。


そうしてぞろぞろと移動を始める。

と、星明が慧太郎の前にやってきた。


「慧」


「母さん?」


「……少し前に、その子があなたを破滅に導くかもしれないと言ったわね」


白銀の背に乗せた凛を見て言った。


「そうだったね。もうずいぶんと前のようだけど」


十日も経っていないことに今更ながらに気づいた。


「どうやらその未来は回避されたみたい」


星明が微笑みながらかつて視た未来が変わったことを告げた。


「そっか」


「でも、世界の破滅までは変えられなかった」


「世界の破滅───」


「今回の件は、その前の小事に過ぎないと私の未来視は告げている」


星明の警告はほぼ宣告と言っていい程の的中率を誇る。

それはその場にいる全員が承知している。


「でもそれを覆せる可能性があるとしたら……」


星明の目が浅陽に向けられた。


「あたし……ですか?」


「赤い髪の巫女」


「え……?」


先程見た夢の光景が浮かぶ。


「私の〝力〟をもってしても、今視ることが出来るのはこれくらいです」


『それだけ視ることが出来れば大したものだ』


「咲夜ちゃんの言う通りね。詳しい話は後にしましょう。ここに居る人たちは特に疲れているだろうから」


「そうですね」


茉莉と星明が踵を返す。


『叢丞』


「ん?」


白銀の背中に乗せている凛に気を配りながら歩いていた慧太郎が立ち止まって振り向いた。


『とうとうやったな』


「うん」


『長かったな』


「八十年かぁ。まさか生まれ変わってきてまでやり遂げるとか、よほど悔しかったんだな」


『まるで他人事だな』


「他人事、か。不思議な話だよね生まれ変わりって。まったく別の人間な筈なのに、その別の人間の記憶を持ってるんだから」


『私なんか人間ですらないからな』


「一体どういうことなんだろうね、咲夜が剣の中にいるなんて」


『さあな。気づいたらこうなってたんだ。出来るなら私も人間に生まれ変わりたかったよ。そしたら……』


「あの、二人で盛り上がるのはかまわないんですけど、あたしを通してるっての忘れないでくれますかね」


雰囲気に耐えきれなくなった浅陽が口を挟む。


「あ、ごめんごめん」


慧太郎は再び歩き出す。


『なあ、浅陽』


その後についていきながら咲夜が声をかける。


「なに、咲夜?」


『霧ヶ浜に残れないか?』


「離れるのが寂しい?」


『そういうわけでは……あるかもしれんが、この刀身(からだ)ではな』


咲夜の魂が宿るのは、浅陽の持つ〈焔結〉。


「実家はこっちだし悪くはないけど、向こうでやることはまだまだあるみたいだから」


『そう……だな。未練がない、と言ったら嘘になるが、その前に自分の役目を果たさないことにはな』


不承不承といった感じの咲夜。


『それにここには何やら封印があるらしいことを、あの男が言っていた』


あの軍服の男が封印を解こうとしていたのは明白だ。


「それをヤツらから守れるか心配?」


『心許ないとは思う』


「あたしは大丈夫だと思うよ」


その目は前を歩く背中をみていた。


「だってあんたの許婚だった人は、破滅の運命を覆してしまうほどの〝力〟を持ってるんだから」




つづく

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