第257話 再来する終末 その十
(……ねえ、咲夜)
(どうした、こんな時に?)
男に聞かれないように心の中で会話する。
(ちょっと聞いてくれるかな)
浅陽は黒仮面とこの空間の考察、そして見つけた打破出来そうな方法を咲夜に話す。
(……なるほど。一理あるかもしれないな。だが、)
(うん。まずは一瞬でもいいからこの埒をこじ開けなくちゃいけない。だから〝力〟を貸して)
(それは構わないが、今交代したところで大して変わらないぞ。今のお前は私と同等以上に成長したからな)
(そ、そうなの? でも今は交代するんじゃなくて、一緒に戦って)
(一緒に……だと?)
思わぬ提案に咲夜は驚いた。
(あたし達が〝力〟を併せれば少なくとも二倍の〝力〟が出せるはず)
それは過小評価だろうと咲夜は苦笑する。
(でもさっき咲夜が言った通り、あたしの実力が咲夜と同じくらいなら、きっとそれ以上の〝力〟が出せる)
(たしかに理屈の上ではそうかもしれんが、果たしてそう巧くいくか)
(悩んでる時間はあまりないかも)
浅陽は一瞬だけ空を見る。
(浅陽?)
(アイツに気取られる前に)
(……承知した)
(じゃあ、いくわよっ!)
〈焔結〉が炎を唸らせる。
同時に〈鳴神〉が稲妻を轟かせた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
浅陽を中心として炎が渦巻く。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
炎の柱が赤から黄色、そして白、青へと変化していく。
「くっ、なんという熱エネルギーだ!?」
男が狼狽し一歩後退る。
「だが、その程度で刃の弾幕を抜けられると思わないでください!」
大量に刃を生成するも、そのそばから蒸発していく。
「なっ!? この空間の恩恵を受けている私が、私の〝力〟が圧倒されているというのですか!?」
男は後ろへ飛び、浅陽から距離を取る。取った距離の分だけ、一つ一つを大きく厚くした刃の弾幕を結界の如く張り巡らせていく。
「まだまだ!」
更には大量の刃を放ち、青い炎の柱の外側に渦とは逆に回転させる渦を形成させる。それで浅陽の炎を相殺させようと試みる。
「お前達を───守り人を倒せば、私は名を賜ることが出来る! そうすれば限定的ではなく、この空間を自在に操ることが出来るようになる! それで私はあの方を───」
「その言葉が聞きたかった」
「なにっ?!」
『どうやらお前の読みは的中したようだな』
「串刺しにしてくれるっ!」
刃の渦の周りを取り囲むように刃の弾幕が張られる。
だがそれらは青い炎に阻まれて浅陽に届かない。
「もう遅いわよ」
青い炎の渦が突如消えた。
「なっ───?!」
入れ替わるようにして強大な〝力〟が、刃の竜巻を内側から破らんと膨れあがる。
「くぅっ……。守り人に負けるわけには行かぬっ! あのお方の宿願を果たすために!」
次の瞬間、刃の竜巻を砲身代わりに青い炎の弾丸が打ち上がる。
「一体何を───」
男は瞬時にして彼女が何をしようとしているのかを察知する。
ソレをされるのが最も最悪の事態だと知っているからこそ気づくことが出来た。
だが気づいた時には遅かった。
男が浅陽の狙いに気づいた直後、青い炎の弾丸は青い炎の鳥となり、鮮血のような真っ赤な月に吸い込まれていった。
「しまっ───」
赤い月に亀裂が走り、それが漆黒の夜空へと伝播していく。
「あんたの実力からして、この空間への任意の移動は出来ないんじゃないかって思った」
青い火の鳥は男の後ろ、五メートル程の場所に着地すると炎が弾けた。
そこにはぶすぶすと燻る炎とバチバチと小さな放電の残滓を纏った浅陽が立っていた。
男は愕然としていて、彼女を気に留める様子はない。
その間にも亀裂は空全体に、いや、閉ざされた空間全体に拡がっていく。
「実力の線引きは正直わかんないけど、これまで出遭った黒仮面とはレベルが違った。ハッキリ言って弱かった」
『借りていたというこの空間の〝力〟と、その手の闇の刃でどうにか我らと渡り合えたが、使い手に差が出たと言うことだ』
「くっ」
悔しそうに唸ると、男の周りに闇の刃が浮かぶ。
しかし〝力〟を使い果たしたのか、数えられる程にまでその数は減っている。
『八十年前のように意表を突く者などいない』
「いたとしてもあたしらには通用しないけどね」
浅陽が〈焔結〉を振るうと宙に浮かんだ闇の刃は悉く撃ち落とされた。
「私はまだ負けてないっ!」
手にした刃を突き刺そうと真っ直ぐ前に向けて突進してくる。
「踏み込みが雑」
〈鳴神〉で刃を打ち砕き、〈焔結〉で黒い仮面を両断する。
男は仮面が落ちないように空いた左手で押さえる。
だが仮面はするりとその手をすり抜けるように、真っ二つに割れて地面に落ちてバラバラに砕け散った。
それと同時に、漆黒の夜空も砕けて夕暮れの薄暗闇の空が顔を出した。
『逢魔時か……』
「うん。現世と異界の境界が薄くなる時間。だから今なら簡単に戻れると思ったの」
逢魔時に曖昧になった境界から魔物が現世に顔を出すように、黒仮面の領域から生還したのだと言う。
『しかし、よく現世が夕方だと分かったな』
「あの赤い月が何となくこの薄暗闇の色に見えたからもしかしたらって」
現世に戻ってきた為に空にはもう赤い月は見えない。
「さてと」
〈焔結〉を頭上に構える。
「トドメをさしておかないと」
男の頭めがけて振り下ろそうとしたその時、
『───浅陽っ!』
「───っ!?」
血も凍りつきそうな戦慄が全身を駆け巡り、咄嗟に浅陽はその場から飛び退いた。
直後、黒い稲妻が男を直撃した。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
稲妻の中で激しく悶える男。
十秒ほどして稲妻が収まった。
「…………ド……さ、ま……」
ぶすぶすと全身を焼け焦がせながら男はパタンとその場に倒れた。
攻撃に備え身構える浅陽だが、その気配が無いと分かると緊張を解いた。
「今のは……」
『おそらくは〝あの方〟とやらの仕置きか、はたまた口封じか。どちらにしろ、ヤツにはもうこちらを傷つけることは無理だろう』
「〝あの方〟───。あたしらの運命をメチャクチャにしてくれた張本人」
浅陽は夕暮れの空を見上げる。
「必ず見つけだして、たたっ斬ってやる」
そう改めて誓った。
つづく




